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『自分で提案しといてなんじゃが、A案は下策だと思う』
そうだな、相手に主導権を渡すだけだし。まぁ、アンチェロンという国が俺達よりも圧倒的な強さを誇っているなら、俺達が力をつけるまで……という条件付きならアリか?
『B案は中策かの。国同士のイザコザに巻き込まれる危険は減るしの。まぁ、完全に離れるならハルメルトも連れていかねば危険じゃし、バロストくらいしか帰還の心当たりが無いのがネックじゃがな……』
そのバロストを頼る辺りでもう却下したい。さっきのカタツムリの化け物みたいなやつよりエグい物を見せられそうで怖すぎる。
それにハルメルトの事を考えると、B案もイマイチか……。
『さて、C案。……上策とは言えまいが、もっともワレらに向いていると思うがの』
だな。
同等の協力関係なら相手に必要以上に警戒される事も無いだろうし、俺達の待遇にも注文をつけられるだろう。
ただ、どんな協力を求められるかが心配だな……。
『ふむう……。恐らく、戦力としては当然だが、イスコットは武具の技術力、マーシリーケは薬剤の知識等の提供を求められるのが考えられるの』
つまりは、その辺のカードをどう有効に切っていけるか……だな。まぁ、あの二人がどれだけ自分の情報をアンチェロン側に公表するかは、相手の出方次第だろうが。
しかし、交渉に使えそうな特技がある二人に比べたら、俺はなにも無いなぁ……。
異世界に来たら現代知識でチートできるかと思ったが、この世界でも手に職を持ってる方が有利だとは……。
『まぁ、現実は厳しいからの。だが、今のワレらのように作戦の立案やなんかが出来るのは、ヌシが趣味で読みまくった三国志(マンガ版)や歴史物なんかの知識があるからじゃぞ?』
そうか、そう言われるとそうかもしれない。
ふふ……そう考えると、今の密談も三国志に登場する軍師の密談みたいで、少し楽しくなるな。
『ああ、一成には一成の長所がある。イスコット達と比べて落ち込む事はない』
ありがとよ、そう言って貰えると気分も晴れる。
『フフフ、ヌシが落ち込んだ時はいくらでも慰めてやるわい。なんせ、ワレらの仲は「断金の交」といった所じゃからな』
孫策と周瑜か……。主従関係を超える友情で結ばれた友ってのは確かに憧れるし、そんな仲と呼べるなら嬉しいな。
『ワレが貂蝉でヌシが呂布な関係でも良いがの』
調子に乗るなよ、この野郎。なんで俺がお前にベタ惚れ設定なんだよ……確かにいい女だとは思ったけどな……。
多少、話は脱線したがそれから二時間程、俺達は念話であーでもないこーでもないと打ち合わせを続けた。
大体の方針をまとめた辺りで、ラービは念話を打ちきり「ふぅ」とため息を漏らす。密着していた状態から上体を起こして、俺に跨がるような体勢になった。
ううん、ただ表面上の体表部を変化させているだけなのに、下着姿の美少女に跨がられているという絵面は危険すぎる。
「名残惜しいが、今夜はここまでかの。一成はイスコットとの打ち合わせを頼むぞ」
言葉の後半は声のトーンを落として、囁くように告げてきた。俺が頷くのを確認すると、ラービの体表面が一瞬だけ波立つように震え、下着姿からいつもの制服姿に変化する。
少し残念な気はしたが、顔には出さずに簡易テントの入り口から出ていこうとするラービを見送る。
って、おいおい!そんな堂々と出ていくのかよ!
俺達、監視されてるかもしれないんじゃなかったのか?
「わざとじゃよ、わざと。こそこそするより、堂々と若造達がイチャついてると見せかけた方が意外と誤魔化せるという物じゃ」
んん、そうかな……そうかも……。
確かに自信ありげに堂々としていると、人はあまり疑わない物だからな。
「……!」
ふと、ラービが何かに気付いたような表情になる。どうしたんだ、一体……。
「そうじゃな、一成とワレはイチャついていた設定なのに、熱い交わりの残り香が感じられぬのでは怪しまれるかもしれんな」
そういうもんなんだろうか?
童て……経験の少ない俺にはイマイチ解りかねるが、同じ知識のハズのラービにとっては重要だという。これが男女の感覚の違いというやつなのだろうか?
しかし、どうやって行為の余韻を醸し出すつもりなんだ……?
「一成、ちょっと……」
耳を貸せといった感じでラービがジェスチャを送ってきたので、彼女の方に耳を向けて近付ける。
と、いきなり顎を掴まれて、無理矢理ラービの方に顔を向けさせられた!
それと同時に、唇を奪われる!
ズキュウゥゥゥゥゥン!という効果音が入りそうな無理矢理のキスに抵抗することも許されず、快感と屈辱にまみれた俺はラービから開放された瞬間、地に伏せる。
「フッ……まともな女子とキスをしたのは初めてであろう……。それがワレのような美少女であったことを幸運に思うが良い」
た……たしかに、「まともな女子」と言えるかもしれないけどさぁ……お前もスライム体じゃないかぁ!
ファーストキスに続いてセカンドキスまでスライムに奪われるなんて、あんまりだ!
俺はまだ、「外見が美少女ならアリ」ってとこまでは達観できていないのに……。
「この速攻!この強引さ!これぞ女子力よ!」
勝ち誇り、静かにではあるが勝利したラービがドヤ顔を晒す!
「フハハハハ、ではお休み!」
勝利の高笑い(音量押さえぎみ)を上げながら、ラービは出ていった。あとに残された俺は、己の無力さに涙しながら、女子力の恐ろしさに小さく震える事しかできなかった……。