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焼却処分て……この数のゴブリンを?
地面に転がるゴブリン及びオーガの死骸はかなりの数で、一部が吹き飛んだり、切り落とされたりといった感じで酷い有り様になっている。
まぁ、やったのは俺達だけど……。
「少し面倒ではあるが、こればかりは始末しておかないと、後で大変な事になる場合があるからな……」
ため息をつきながら、ダリツとその部下は焚き火にくべていた薪を一本取りだし、火の点いている薪の先端に力を送る。
ボッ!と一瞬、炎が大きくなり、静まった時には不思議な光を内包した炎になっていた。
なんだろう、この炎は……?
不思議そうに俺が薪に宿っている変わった炎に見とれていると、何となく勝ち誇った顔のダリツが説明をしてくれた。
「これは普通の焚き火の炎に魔力を流し込んで強化したんだ」
つまりは、魔力を練って発現させる「火球魔法」を本職の魔法使い以外が使用するのは難しい。
しかし、元から燃えている炎になら、複雑な術式等のステップを踏まなくても、直接的に魔力を流し込むだけで「魔力で発現させた炎」と同様の効果が得られるというのである。もちろん、純粋な魔力のみで構築されている「魔法」よりも、炎が燃えるための燃料という不純物が混ざる「魔力による強化」の方が威力や効果は薄い。
それでも、ゴブリンやオーガの死骸を焼き尽くすには十分なんだそうだが。
そんな魔力で強化された炎を使い、ダリツ達は魔人達の死骸を処分していく。
ダリツ曰く、魔人の死骸は様々な弊害を生むそうだ。
例えば、魔人の死骸はなかなか土に帰らず、長い時間をかけて腐敗するため、強烈な毒素を内包して土地を枯らすし、疫病が発生する事もある。
さらに、野性の動物や魔獣がゴブリン等の魔人の死骸の肉を食えば、邪気に当てられ狂暴になる事が多い。しかも場合によっては進化と言うか、強化され、ワンランク上の魔獣などに変わる場合もあるらしい。
他にも状態のよい死骸は、高い確率でアンデッド化し、ゴブリン・ゾンビやオーガ・ゴーストといった面倒な死霊系モンスターになるという。
うん、確かにそんな弊害があるなら、焼却処分とかしておかないと心配でしょうがない。
そんなわけで、俺達もその作業を手伝う事にした。
イスコットさんが『工房』から数本の剣を取り出して、俺達に配る。その剣に、念じるように集中して、合い言葉である「火属性附与」と唱えれば、剣の刀身から炎が吹き上がった!
うおっ!かっけー!
つい興奮して、適当に燃える剣を振り回してしまう。
危険な花火の遊び方をした小学生ばりな行動をイスコットさんに怒られ、我に返った俺は、とりあえず近くに転がっていたゴブリンの死骸に剣を突き立てた。
抵抗なく刀身は死骸に突き刺さり、その全身が炎に包まれて、数秒後にはあたかともなく消滅してしまった。
なるほど、これは簡単だ。て言うか、魔人の死骸はえらく燃えやすいな!
イスコットさんの作る武具に感心しながら、次々と魔人を焼き払っていく。そんな俺の耳に、イスコットさんから炎の剣を借りたのであろう、ダリツ達の「なにこれ、超便利!」といった声が聞こえてきた。
しばらくして、まるで戦いがあった事など嘘だったかのように、魔人の痕跡は無くなっていた。
これなら、後から問題になることは無いだろう。
ちなみにダリツ達はイスコットさんから炎の剣を譲ってもらったらしくホクホク顔である。
「まぁ、ハデな戦闘もあったし、流石に今夜は魔獣の襲撃等はないと思う。念のために我々が見張りに付くから、君達はゆっくり休んでくれ」
上機嫌のダリツがそう言うので、お言葉に甘える事にしよう。
女性陣は馬車の中に、俺とイスコットさんは簡易テントに入り横になる。しかし、イスコットさんが、
「僕は武具の事でやることがあるから、少し工房に籠るよ。カズナリは手足を伸ばしてゆっくりしてくれ」
そう言うと、工房に引っ込んでしまった。
うーん、ではありがたく大の字になって寝させて貰おう。
お休み……。
以外に疲れていたのか、俺の意識は闇に溶けるように深く沈んでいく。
そんな夢現の微睡みの中、
「ククク、スキだらけじゃの……ワレの女子力の餌食にしてやるわ……」
ラービの興奮気味な声を聞いたような気がした……。