34
あの気色悪い、人頭カタツムリ(?)としか形容出来ない、バロスト制作の合成獣的な物が夜の闇に姿を消してから、恐らく十分くらいは経ったと思う。
ようやく俺達は緊張を解き、そして……
「キ、キモすぎるわーーー!」
溜め込んだ思いの丈を、夜の闇に目掛けて大声で叫んだ!
つーか、なんだあれ!よくもまぁ、あんなに悪趣味な合成獣を作れるもんだ!
緊張状態で構えていられたから良かった物の、素の状態であんなん見せられたら、せっかくのカレーが口からリバースしてもおかしくなかった。
いや、現にハルメルトが青い顔をしてリバース一歩手前である。
そんな精神的なダメージを負っている俺達と違い、大人組はすでに次の行動に移ろうとしていた。むぅ、さすが年の功と言った所か……。
残された耳長族の体を縛る魔法を解除し、ハルメルトにもバインド・スライムを外してもらって、ダリツ達がその首のない体を調べ始める。
初めから頭だけで緊急脱出を狙っていたなら、残される胴体にトラップが無いとも限らない。あくまで低い可能性ではあるが、罠が残されている事を想定して、ダリツは慎重にローブを剥ぎ取り、哀れな耳長族の体を白日の元(今は夜だが)に晒そうとして、動きが固まった。
何かの罠が発動したのかと一瞬、緊張するも、どうやらそうでは無いらしい。何事かと、ダリツの所に駆け寄った彼の部下二人も、顔をしかめて動きを止める。
一体、何があったんだろうか……?
俺達もダリツの元に行き、そして彼等が固まった理由を知った。
耳長族の彼が纏っていたローブの下、そこから見えるのは緑色のしわがれた細い体躯。それは先程、俺達が蹴散らした魔人であるゴブリンによく似ていた。と、言うか、ゴブリンの物だった。
……つまり、あれだ。この襲撃者は、ゴブリンの肉体に耳長族の頭をすげ替えて、さらにその頭部に軟体動物を巣くわせた、人型の合成獣だったということか……。
もう悪趣味を通り越して、見る者全てに嫌悪感を抱かせる為の無差別な嫌がらせとしか思えない。
そして、今ならはっきり言える。俺、バロストには絶対会いたくない。
イスコットさんやマーシリーケさんも同意件らしく、
「サイコだわ、アイツ……」
と呟いて人頭カタツムリが逃げ去った方向に嫌そうな視線を向けていた。
「まさか噂の新しい『星の杖』が、こんな事をする人格破綻者だったとはな……」
実力は有るのだろうが、バロストのしたことは敵はおろか味方にまで不快感を与える事は請け合いである。にも関わらず、やってしまう辺りがヤバすぎると、ダリツの表情は語っていた。
「君達にはこんな趣味は無いだろうな?」
俺達に目を向け、確認するようにダリツが問いかける。
オイオイオイ。
確かに『異世界から召喚された』って共通点があるからって、一緒にされたらたまらんよ!
あんな人の頭に寄生生物を……うん、まぁ、自分の頭の中にはいるけど。
「それと、奴の言っていた『蟲脳』とはなんの事だ?」
まさか俺の思考を読んだ訳ではないだろうが、ダリツはバロストが俺達に向けていた台詞についての説明を求めてくる。
ううん、どうする……。
まっとうに説明しよう物なら面倒な事態になる事は目に見えている。なら、どう誤魔化したものか……。
などと考えていると、イスコットさんが口を開いた。
「自分達の世界から、この世界に召喚され謎のパワーを手に入れた者達が蟲脳だ。なぜ、蟲脳と言うのかは僕達にも解らない……何故か頭にその単語が残っていたんだ……」
うん、全部嘘で無し、それでいて全部本当で無しの肝心な所はぼかした答えだ。
雑と言えば雑だが、異世界間を移動した際の不思議パワーとしておけば検証のしようもないし、うやむやに出来るだろう。
現に、納得はしかねるが証明も出来ないために、ダリツはイスコットさんの言を受け入れるしかない状況だ。
「……まぁ、そう言うことなら」
結局、ダリツが折れ、この件については話は終る事にした。
さて、それにしたってやるべき事は多い。もっとも、俺達ではなく、ダリツ達が……ではあるが。
国内への侵入者、六杖の一人が異世界からの召喚者であることなど、報告すべき事はかなり多いだろう。
「だが、差し当たっては、この魔人達の死体を焼却処理しなくてはな……」
グルリと辺りを見回して、ダリツはひとつため息をついた。




