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インセクト・ブレイン  作者: 善信
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「王の前でって……」

そんなことを言われても、何を話せと言うんだ?


「実は俺達、異世界から召喚された者たちで、頭に寄生した大鷲蜂の幼虫が脳代わりをしているために凄いパワーを発揮できるんです」なんて言った所で、「何言ってんだテメー」って一蹴されて終わりだろう。

いや、可哀想なものを見る目で見られるくらいならいいが、「ちょっと頭カチ割って見せてみろや!」なんて方向に行ったら、それこそ俺達VS国の構図になりかねない。


確かに王都に向かい、調べものをするつもりだったし、この世界である程度の基盤や後ろ楯は欲しい所だ。しかし、それぞれの世界に帰る事が目的な俺達には、やっかいなトラブルを招きそうな大きすぎる相手とは、かかわり合いになりたくないと言うのが本音である。

そう、出来ることなら冒険者ギルドみたいな組織で名を上げ、権力者に一目置かれて、それなりの発言力を得てから様々な調査を行うというのが理想だろう。


「悪いが、僕らは国家権力との結び付きは求めていない。君達が国王にどう報告するかを止めることは出来ないが、僕達は僕達でこれからも自由に行動することが望みだからね」

イスコットさんがダリツの申し出をキッパリと断る。マーシリーケさんも、ラービも同意するように頷いた。

どちらにしろダリツが報告すれば、神獣を倒す力を持つ俺達を国は放っては置けないだろう。

しかし、この国は元より、他国にも与する意図は無いことを告げておけば、俺達に強硬な手段を取って藪をつつくような真似はしないと思う。

まぁ、監視くらいはされるかも知れないが、実害が無いならそれくらいは仕方ない。


「ハルメルト、彼らを自由にしてやってくれ」

「は、はい」

イスコットさんに促され、ハルメルトはダリツ達を縛っていたバインド・スライムの拘束を解く。

蛇の如くグネグネした動きで彼等から離れたバインド・スライムは、ハルメルトの召喚陣に潜り込むようにして自身の世界に帰っていった。

スライムでさえ帰れるのに、俺達ときたら……。

でも、スライムの世界ってなんなんだろう……時間があればハルメルトに聞いてみたい物である。


「この村の生き残りと聞いてもしやと思っていたが……やはり、その娘は召喚士なのだな」

自由になった体をほぐしながら、ダリツはハルメルトを見つめる。

少し怯えたように視線を返してくるハルメルトの姿に、ダリツは何やら思案するように顎に手を当てた。そのまま、ほんの少しだけ考え込むように目を閉じていたが、考えがまとまったのか、イスコットさんの方に向き直った。


「すまないが、我々には国境警備の仕事がある。何人か残して、部隊を先に砦に戻してもいいだろうか?」

特に問題はないと思ったために、俺達はその申し出を受け入れる。多少は友好的な関係も作っておきたいしね。

ダリツは礼を言うと、副隊長らしき男にあれこれ指示を出し、部隊を率いて帰還させた。

この場に残ったのは、ダリツを含めて十人だけである。


「さて、君達の言い分はわかった。我々には君達を止めることは出来ないという事もね」

「理解してもらえて何より」

ダリツの言葉にイスコットさんが頷く。

「だが、そのハルメルトという娘は我々に引き渡して貰おう」

突然の名指しに、ハルメルトが驚きの表情を浮かべる。そこに若干の怯えが入っていた事を察して、マーシリーケさんとラービが、彼女を庇うように一歩前に出た。

そんな俺達の様子に、ダリツは「まぁ、待ってくれ」と話を続ける。


「おそらく……君達はこの世界の住人では無いだろう?他の世界からやって来たんじゃないのかな?」

唐突に核心を突いてきたダリツに、俺達の警戒心が一気に上がる。その気配で自身の言葉に確信を得たダリツがニヤリと笑った。

しまった……乗せられたか。

「この村の者達は女帝母蜂と契約し、国に貴重な薬を納めているが、そのために必要な生け贄を捧げている召喚士の一族の末裔……というのが国の一部では有名な話でね。私も立場上、その話は知っていた。ただ、普段は特に接触もしていなかったがね」

村で生け贄として異世界から人間を召喚している事を国は黙認していたという。確かにある意味、国の暗部に関わる事柄なのだから、普段からあまり干渉するべきではないのだろう。

「異世界の住人である君達を、我々に従わせる法は無いし、力ずくでも無理だろう。だが、その娘はこの国に属している者であり、我々の指示に従う義務がある。そこは理解してもらえるだろう」

俺達が国という枠組みを理解し、そこに囚われないようにしている事を読んだ上で、枠内の法に口を出すなと暗に言っている。そして、元の世界に戻る事を望んでいる事も読まれているのだろう。

だからこそ、帰還のための手がかりであり、指針でもある召喚士のハルメルトを引き渡せと言ってきているのだ。

それが俺達を縛る手段だとしっているから……。


「なかなかの策士みたいだけど、この場で全員の口を封じられるかもしれないとは考えなかったのかしら?」

マーシリーケさんが殺気を振り撒き、ダリツ達を威圧する!

ゴクリと大きく唾を飲み込み、ダリツは青ざめながら汗を拭く。

「……もちろん、その可能性も考慮している。だからこそ、先程帰した連中に、いざという時には王に援軍を頼めと言い含めてある」

いまの方向に話を向けてきたあたりでその可能性は考えていたけど、やはりか……。


「加えて言わせてもらえば、我々は任務上、全員が〈隠蔽魔法〉の使い手だ。そして砦の方も巧妙にカムフラージュされている。右も左もわからぬ異世界の住人では、そうそう見つけることはできまいよ」

俺達は、チラリとイスコットさんに視線を送る。しかし、彼は小さく首を横に振った。

異世界から召喚された中で、一番長くこの世界にいるのはイスコットさんだ。その彼が知らないのならば、相手の拠点である砦を発見するには時間がかかるだろう。

つまり、王都に連絡が行く前に彼等の口を封じるのは不可能だということだ。


「さて、選んでくれ。大人しくその娘を渡すか、国を相手に戦うか。もしくは……」

そこで取引と言わんばかりに、ダリツは指を立てて第三の選択を提示する。


「我々と共に王都に向かい、自分達で王と交渉する権利を得るか」


ったく、選択の余地なんて無いじゃないか……。だがな、実は選択肢はまだあるんだよ!

「ああ、老婆心ながら伝えておくが、アンチェロン以外の国では召喚士は蛇蠍のごとく嫌われているから気を付けてな」

……第四の選択、他国に逃亡はあっさり潰されちゃいました。ちくしょう……。

それにしても、なんだってんだ、この交渉スキルは!

ダリツが特別なのか、部隊長レベルの人間は皆こうなのか?


「……完敗だな」

大きくため息をついて、イスコットさんが宣言した。

「持っている情報に差がありすぎる。彼の言葉が本当かどうかは疑わしいが、それを精査する事もこの場では無理だ」

確かに俺達はこの世界の情勢を知らなさすぎる。これではどうしたって、手詰まりになるのは仕方がない。

「今は彼等に従おう。僕らはまだまだ情報を集める必要がある」

イスコットさんの提案に、皆が頷き、ため息を漏らす。

「いやあ、わかってもらえて何よりだ。王都までの足は我々が用意するから安心してくれ」

舌戦に勝利したダリツが満面の笑みで握手を求めて右手を差し出す。

せめてものお返しにと、皆を代表したイスコットさんにその手を力一杯、握ってもらう。

ダリツの絶叫が響き渡り、俺達は全員が先程のダリツに負けないくらい、満面の笑みを浮かべるのであった。

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