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インセクト・ブレイン  作者: 善信
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さて、ラービの存在でうやむやになっていた今夜の見張りだが、結局はハルメルトが召喚した『プロテクト・スライム』で障壁を作ることで解決した。

このプロテクト・スライムは、例の大鷲蜂の襲撃からハルメルトが身を守る際に使っていたタイプで、防御に特化した珍しいスライムである。スライムが防御特化ってなんだろう……と疑問に思ったりもしたが、俺の常識以上に世界は広いと割りきってしまおう。


半透明なドーム状に広がるプロテクト・スライムの内部で、イスコットさんが用意してくれた寝袋っぽい物に潜り込んで、皆すでに眠りについている。俺も、さぁ寝るかと目を閉じた瞬間、顔面をチョップされた。

「こらこら、何を寝ようとしておる。ヌシは少しワレに付き合え」

おいおい、ラービさんよ。実体を得たからって、少しはしゃぎ過ぎしゃありませんかね?

寝れる時に寝るという事は、サバイバルでは重要な事なんだぞ!たぶん。

「付き合えって……何処に行くつもりだよ?」

仕方なく寝袋から這い出して、ラービに尋ねる。

ワレヌシがやることといったら、もうアレしかないではないか……」

ふぃっと顔を背けつつ、チラチラとこちらに視線を送ってくる。

ん?なんだ、この反応は?


はっ!


脳裏にある考えが、稲妻のように走る!

も、もしかしてあれか?十八才以下はお断りな行為をしようというのですか、ラービさん!

でもちょっと待てよ、他のみんながいるこんな所でなんて、レベルが高すぎやしないか?俺はまだ未経験なんですよ!?

緊張とトキメキと期待感が体を支配する。ドキドキしながらラービを見つめると、彼女も俺の方を真っ直ぐに見つめてきた。

ええい、ままよ!考えようによっては特殊な自慰行為だが、若い欲望に火が付いたら止まりゃしないぜ!


「それでは一成、ワレと共にしようか……修行をな!」

その一言に、胸の内で膨らんでいた夢と希望が、音を立てて崩れ落ちるのを聞いた。

ああ、うん……でもそうだよな。

そうそう、うまいこと良い子が見てはいけない展開になるはずが無いもんな。

解っちゃいるのに、なーんでいつも過度の期待を寄せてしまうのか……思春期の精神構造って奴はこりないな、ホントに。


「……なんだかの、そうあからさまにガッカリした顔をされると、こっちが悪い事をしたような気になってくるの」

「いや、そんなに気にするな。自分の馬鹿さ加減に呆れているだけだ……。で、修行って言ってたけど、どこでやるんだ?」

プロテクト・スライムから外に出れば、多少の広さはあるがあまり近くでやれば休んでいる皆の迷惑になる。

「いやいや、ここから出る必要はない。修行の場は、ここよ!」

そう言ってラービが指差したのは、自分の頭。


「ワレとヌシの精神は繋がっている。それを利用して、脳内で組手をして経験値を稼ぐ」

要するに頭の中で戦闘シミュレーションをするって事か?

いわゆる「授業中の教室にテロリストの一団が乱入してきた時にどう対応するか」を妄想するみたいな感じで……いや、それはちがうか。

「ワレの本体であるヌシの脳は、経験したことをすぐさま肉体にフィードバックする事ができる。故に反復修行を必要とする技の習得なども短期間でできるのだ」

ほう、確かになんだかコツを掴みやすいと思ったが、そんな機能があったか。

「それで、先程も言った通り脳内でリアルに組手をする。自我のない他の蟲脳の者では並の効果しかないが、今の二心同体なワレらならば実際に戦ったのと同じだけの経験値を脳に感じさせ、肉体に還元できるハズだ」

ふむ……同じ脳内でシミュレーションするなら一人でやるより、別々の思考を持つ二人がせめぎ合う方が脳を騙して肉体を強化させる事ができるって訳か。そりゃ、便利だな。


「でも、脳内組手とは言え、ラービがどの程度やれるのかによるよな」

言っちゃなんだが、これまでの戦いの経験から、俺もかなり強くなっていると思う。まぁ、イスコットさん達には勝てないが……。

それに比べて、ラービはここ最近、自我を覚醒させたばかりでつい先程体を得たばかりだ。そんな彼女が脳内組手とは言えまともに相手になるかどうか……。

「ほう、なかなか言うではないか。だが、安心せい」

強者の余裕を見せる俺に、ラービはニヤリと不敵に笑う。

「ワレはヌシの持つ知識や情報を全て知っておるのだぞ?ヌシが出来ることはワレも出来る。いや、むしろワレの方がヌシも忘れている技術を覚えている以上、有利かもしれんの」

むむ……。かなりの自信を見せるラービに、やや気後れしそうになる。だが、知識だけ知っているより、実戦で培った経験の方が使えると言うことを見せてやる!

「目標はいまの『なんちゃって拳法』を『かなりそれっぽい拳法』にまで昇華させる事。よいな」

「ああ」

俺とラービ。二人は向かい合って座り目を閉じた。


翌日の朝。

皆が起き出して来たとき、そこには憔悴しきった俺とラービの姿があった。

一晩で繰り広げた脳内組手の回数は約二百回。ひたすら休みなく続けたために、精神的に疲弊し過ぎた。

「ちょっとちょっと、大丈夫なの!」

マーシリーケさんが心配そうに駆け寄ってくる。グッタリしている俺とラービに色々と触れて触診してくれた。

「……どうやら、精神的に極度に疲労してるみたいね。とりあえず、これを飲んでおきなさい」

そうして差し出されたのは、例の黄金蜂蜜をベースに作った回復薬。甘く誘うような香りのその薬を一気に飲み込むと、頭を霞のように覆っていた倦怠感が消え去り、肉体にも活力が戻ってくる!同じ薬を飲んだラービに至っては、やはり黄金蜂蜜が効いたのか、まるで死の縁から蘇った某戦闘民族のごとく以前より強くなっているようにも見えた。


「どうかの、手応えは」

「ああ、それなりにあったと思う。少なくとも、もうすぐ『なんちゃって拳法』は卒業できそうだ」

「それは良かった」

座り込んだまま、俺達は笑い合う。そんな俺達を皆が怪訝そうに見つめるが、徹夜明けのテンションということで納得してもらった。

その後、イスコットさん用意してくれた朝食を食べ、再び俺達は召喚士の村を目指す事にした。

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