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隕石の衝突を思わせるバロストの一撃だったが、俺達はそれを軽々とかわす。
しかし、大地を砕く攻撃の余波はキャロリア達に襲いかかった!
爆発するような勢いで飛び散った石の破片は、ある程度はハルメルトが召喚したスライムの防御壁で防ぐことができるだろうが、人の頭ほどもある石は流石に無理かもしれない。
しかし、そんなサイズの石が無数に彼女達へ襲いかかる!
『限界突破』の発動で、俺達以外の動きがゆっくりと見えるほど加速した世界の中、危うい所でキャロリア達の前に飛び込む二つの影が見えた!
「せあっ!」
「はあっ!」
目にも止まらぬ連撃で飛来する石群を打ち落としたのはリョウライとユイリィ!
見事に全てを叩き落とし、俺達の方に向かって親指を立てて見せた。
「こっちの護りは任せろ! いざとなったら、姫さん達を連れて逃げるからよ!」
うん、そうしてもらえるとありがたい。
とにかく、これで俺達はバロストの相手に専念できるってもんだ。
『グオォォォォッ!』
再びバロストが叫ぶと、奴の背中の六枚羽が光を放ち、それぞれ違う属性の魔法が俺達目掛けて撃ち出される!
だが! 雷をかわし、炎を弾き、氷塊を避けながら、俺は奴の懐までたどり着く!
「おらぁ!」
気合いの声と共に槍を、そして骸骨兵達の槍を奴の腹に突き立てる。
硬質ゴムのような感触の皮膚を貫いた槍の穂先に、俺は螺旋を描くような力を加えて周辺の肉を抉り取った!
同時に骸骨兵達も同じようなアクションを加え、さらに傷口をしつこく抉る!
『グオッ!』
タールのような体液と苦痛の声を吐き出して、バロストは怒りに燃えながら俺に顔を向けた。
チャーンス!
こちらに向ける顔面目掛け、背中から伸びる骸骨兵の小弓と大弓から一斉に矢を放つ!
右目に位置するヤーズイルの顔が、小弓からの連射による無数の矢で針ネズミのようになり、左目のコルノヴァの顔が大弓の強力な一矢で、三分の二程が吹き飛ばされた!
悲鳴を上げながら顔を覆うバロスト。
フハハハハ! でかけりゃ良いってもんじゃない事を肝に命じておいて下さい!
『……なんてね』
顔を覆った両手の隙間から、邪悪に歪む口元が覗く。
さらに奴の体表面がザワついて、海底から現れるチンアナゴの群みたいに、大量の触手が俺を目掛けて伸びてきた。
ま、まさかっ! いやらしい事をするかっ、エロ同人みたいに!
体勢を崩していたため、かわしきる事もできずに誰にも嬉しくないサービスシーンが展開しかけたその時!
一陣の風が吹き、それと共に触手の大群が細かく切り刻まれてぶちまけられていた!
逆巻く風を纏う白虎のオーラを燃やしながら、マーシリーケさんは「ふぅ……」と息を吐く。
「あ、ありが……」
ゴッ!っと鈍い音がして、礼を言おうとした俺の頭にマーシリーケさんの拳骨が落とされる。
ぐぬっ!
「一人で飛び出さない! 酔っ払った新兵か、あんたはっ!」
うう……た、確かに全武装形態にテンションが上がっていたのは事実だけど。
でも、あんな特攻仕様な外見になったら、先走ってしまうのも無理はないんじゃないかなと……。
軍人モードで俺に説教する彼女に対して、俺は反論を思いはすれど口にすることはなかった。
下手な事言うと余計に説教が長引きそうだし……。
しかし、敵を目の前にしてお説教をされている俺と説教かましているマーシリーケさんを、これ幸いとばかりにまとめて捕まえようとするバロストが触手と腕を伸ばして逃げ場を塞いで迫りくる!
あ、ヤバッ……。
焦る俺に、マーシリーケさんは平気な顔で大丈夫と一言。
『先ずはサンプルを二体確保!』
しかし、バロストの嬉しそうな声は、飛来した赤い竜によって阻まれた!
「うおぉぉぉぉぉぉぉっ!」
大気を切り裂き、気合いの雄叫びを上げながら、上空から赤の槍・改を振り上げたイスコットさんが突進してくる。
バロストに接近したと同時に振るわれたその一撃は、奴の背中の六枚羽すべてを斬り落とし、彼の神器から発する高熱の溶岩がソレ燃え移ってあっという間に焼き付くした!
スゲェ!
流石にこの一撃にはバロストもたまらず、背中を仰け反らせて苦痛に呻く。
よし、いける!
確かに個体としてはバロストの方が上かもだけど、俺達三人でかかれば倒せない敵ではない。
そんな思いが頭をよぎった時。
バロストは俺達に向かって静かに語りかけてきた。
『素晴らしい……なんとも素晴らしい攻撃力だ。まさかこの体がここまでダメージをまともに受けるとは思ってもみなかった』
……なんだか随分としおらしい。
自信のあった己の肉体をボロボロにされ、魔神以上の怪物になろうとも勝てぬと悟ったのだろうか。
『だが……』
しかし、奴の続ける言葉が俺の目論見の甘さを知らしめる事になる。
『忘れたのか、君達は。私にはこれが有るということを!』
言いながら、バロストが少し力んで見せると、イスコットさんに切断された羽が新たに生え変わり、俺が抉り取った傷口が盛り上がって一瞬にして塞がってしまった!
その現象見るのが初めてだったマーシリーケが驚きに目を見開く。
まさか、この状態でも使えるのかよ……あのクソ厄介な魔法、『自動回復魔法』を……。
『残念だったね。いかに切り刻まれ、叩き潰されようとも私は不死身なのだよ!』
千のダメージを与えたら、そのターンで999回復するような反則仕様の魔法を、よりにもよってラスボスが使うってんだから世も末だ。
でかくて硬くて強い上に自動回復持ちとか、どんな無理ゲーだよ、まったく。
『さて……私に比べて、君達に残された時間はどれくらいだ?』
言われてつい、歯噛みしてしまう。
確かに『限界突破』は、中にいるラービ達のお陰で『限定解除』よりも長時間、安定して運用できる。
制限時間らしい制限時間は無いものの、やはり体にかかる負担は大きいだろうし、使用時間が長引けば命に関わる事になりかねない。
「……こうなれば、僕達に出来る手段はただ一つ」
現状を打破するために、イスコットさんが覚悟を決めたように呟いた。
「これからは、ただ攻撃有るのみ。奴の回復速度を上回る勢いでダメージを与えていくしかないだろう……」
とにかく力押しの波状攻撃か……確かにそれくらいしかないかもしれない。
『作戦は決まったかね』
あくまで余裕の態度を崩さないバロスト。
くそっ! いいぜ、やってやらぁ!
千のダメージでダメなら万のダメージを。
万のダメージでダメなら十万のダメージを!
奴の回復力が勝るか、俺達の打撃力が勝るか……勝負だ!
──それからは凄まじい攻防が行われた!
バロストの触手や肉弾攻撃に加えての魔法攻撃は熾烈を極め、それに反撃する俺達も死力を尽くして戦う!
骸骨兵達に伝授された必殺技を食らわせ、時には二重三重と技を重ねてダメージ量を蓄積させていく。
さらにイスコットさんの超パワーやマーシリーケさんの見えない斬撃による補助あり、並の魔神程度なら即死級の攻撃を何度も何度も重ねていった!
空が割れ、地が裂ける。
まさに戦乱の嵐という言葉がふさわしいほどの激闘だった。
しかし……。
『どうした、もっとだ!もっとデータをよこせぇ!』
バロストの絶叫が戦場に響く。
どれだけ切り裂こうと、どれだけ串刺しにしようと奴は倒れない。
ゼェゼェと荒い息を吐きながら、俺達は終わりのないマラソンを強いられるランナーのような気分を味わっていた……。