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随分と余裕みたいで少し腹立たしくはあったが、こちらが力をためる時間がもらえるならありがたい。
その驕りが墓穴を掘る行為だって事を思い知らせてやる!
「ラービ、レイ!」
「「応っ!」」
二人は即座に俺の呼び掛けに答える!
まずは、ラービの体が液状化するようにトロリと形を失い、それと同時に俺の脳内で彼女の意識が覚醒した。
『こちらはOKじゃ!』
よし!
次いで、レイの体が灰の様に崩れ去り、再構築されて本来の槍の姿を形成する。
俺の手元に飛来する槍をキャッチすると、俺の鎧を侵食し始めて別の形へと変えていった。
骸骨をモチーフにしたような鎧武者。
これが人と神獣と神器の力の極み!
魔神も軽々と倒した『限界突破』だ!
『おお……』
感極まるといった風にバロストが声を漏らす。
『素晴らしい……それだ、私が見たかった物は!』
歓喜に震えるように、奴の表面に生えている触手の群れがザワザワと波打つ。
正直、大変気持ち悪いので止めてもらいたい。
『さぁ、始めよう。人の限界を越えた奇跡を、魔神を超越した化け物に見せてくれ!』
何気にポエム的な表現をしながら、バロストはその巨体を動かして距離を縮めようとした。
だが……。
「ちょっと待ったー!」
唐突に横合いから声がかかる。
「『え?』」
不意に水を挿され、つい出た言葉が合ってしまった俺達がそちらに目をやると……仁王立ちのイスコットさんが不敵に笑いながらこちらを見ていた。
「カズナリ一人に任せるつもりは無いのでね。僕らを無視してもらっては困る」
しかし、バロストはそんな彼等に興醒めしたかのようにフッと息を漏らす。
『……戦いに混ざるのは構わんよ……しかし、今さら君達程度が…… 』
「その台詞は、これを見てからにしてもらおう!」
自信満々なイスコットさんが、自らの分身である少女の名前を呼んだ!
「ジーナ! やるぞ!」
「了解ッス!」
元気のいい返事と共にジーナの体が溶け落ち、それと同時にイスコットさんの体からオーラが噴き出す!
さらに彼の持つ『赤の槍・改』からマグマが溢れだしてイスコットさんの鎧を飲み込んでいく!
マグマはまるで生き物のように彼の鎧と融合し、赤い竜を思わせる鋭さと曲線を交えた姿へと変貌を遂げた。
「ふうぅぅぅ……」
深く呼吸をするだけで、その力強さが伝わってくる程の存在感。
マジか……。
「はいはーい、こっちもいくよー」
「心得ております、お姉さま!」
マーシリーケさんの軽いノリの呼び掛けに、彼女の分身体であるノアが応えると、その体が崩れていく。
次いで彼女の内部でノアが覚醒したのか、力を溢れさせるマーシリーケさんに呼応するように、彼女の神器『虎爪』から白と青の炎が巻き起こった!
やがてそれは、青い炎の縞模様を持つ白虎の形に姿を変えて、神々しいまでの輝きを放ちながら大地を踏みしめる。
これはまさか……。
「これが僕達の……」
「『限界突破』ってやつよ」
新たに限界を越えた二人の蟲脳の戦士が、台詞を合わせてポーズを決めて見せた!
やっぱりそうだったか!
それにしても……ええ……なにそれ、格好いい……。
って言うか、ズルイ!
いや、確かに今の俺の姿も「なんかアメコミのダークヒーローっぽくて格好いいやん?」とか密かに思ってたりしたけどさ、あんな超王道な竜騎士風な外見とか、幻獣感バリバリのオーラと纏われたら勝ち目無いじゃん!
争ってはいないけど!
『おお……』
『ヤバイですね……』
俺の中でラービとレイも二人の姿に驚愕の声を漏らす。
ついでに言えばバロストの野郎もキラキラした瞳でイスコットさん達を見つめていた。
くっ、このままではあの二人に全部持っていかれるような気がする!
『ご安心あれ、主殿!』
焦る俺達に語りかけてきたのは、神器に宿る十体の骸骨兵たちだった。
『実は我々は、あと一回バージョンアップを残しております』
な、なんだってー! それは本当なのか、キバヤ……骸骨兵達!
『本来ならば、ピンチの時に颯爽と決めるつもりでしたが……あのお二方がこうも極めてしまっては仕方がありますまい!』
こいつら……あんな化け物の前で余裕かよ! でも、そういう演出へのこだわりは嫌いじゃない。
『さぁ、いくぞ皆!』
オオー! と俺の精神世界で掛け声がかかり、鎧の表面に変化が現れた。
イスコットさん達や、バロストもそれに気づいたようで俺の方に目を向ける。
メキメキと音を立てながら、背中からは小弓と大弓を携えた骸骨の腕が伸び、左手の手甲には盾が、右手の甲には剣の刃が伸びてきた。
さらに阿修羅のごとく槍や斧を携えた副腕が四本生え、額の鎧飾りが魔法の発射口へと形を変える。
その姿は、ごちゃついているようで骸骨兵達が息を合わせてくれるから動きに支障はないという優れもの。
これこそが今の俺達の究極の姿……。
名付けて!
『限界突破・全武装形態!』
んんんんっ、いいねっ!
実に厨二心をくすぐるネーミングと形態だ。
女性陣は少し呆れているけど、全部乗せって男の子の夢だよな!
「カ、カズナリ……その姿は」
現実世界でバトルマシーンとしか思えない姿に変貌した俺に、イスコットさんが恐る恐る訪ねてくる。
「大丈夫です。見た目はアレですが、冷静ですよ」
内心では骸骨兵達とワッショイワッショイ盛り上がっていたが、表面的にはおくびにも出さずにクールに返事を返す。
見た目が変わって浮かれていちゃ、少し恥ずかしいしな。
しかし、そんな俺の変化に一番反応したのは目の前のバロストであった。
『おおお……また新しい姿を見せてくれるとは……』
なんとも嬉しそうに呟く奴は敵というよりファンなんじゃないかなと錯覚すらさせる。
『ああ……解剖したい。バラして試して調べ尽くしたい……』
ごめん、前言撤回。
こんなサイコなファンがいてたまるか。
『だめだぁ、もう我慢出来ないぃ……』
そう言葉を漏らしたバロストの瞳に怪しい光が灯る。
『お前達のちからぁ、試させろおぉぉ!』
大気を震わす咆哮と共に、バロストは巨木のような腕を振り上げ、俺達に狙いを済ませると渾身の力で拳を地面に叩きつけた!