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インセクト・ブレイン  作者: 善信
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ひとまずは安全が確保されているようなので、先程近くに置いてきたパドとリョウライを連れてきて合流を果たす。


さて、とりあえず全員が集まった訳だし、一旦状況を整理したい所だが……。

この場で立ち話みたいに済ませる訳にもいかんので、一度グラシオの王都に戻ることになった。

アルツィの遺体と神器を回収し、王都までの転移空間を開いたユーグル達についていく。

そうして、無事に帰路についた俺達は話し合いを明日にすると言うことでまとまり、今日はもう疲れを癒す事に専念する事にした。


がっつり食べて、ぐっすり眠り、そして翌朝──。

俺達は城の会議室に集まり、バラけてから各々が知り得た情報を報告していく。

それらをまとめると大体こんな感じだ。


①裏切り者はアルツィと生きていたフィラーハ。

②七槍、六杖は戦況が悪くなったさっさと逃走した。

③その際、七槍がいずれまたぶつかる事を示唆している。

④五爪に被害が出る事を狙っていたと推測されるが、上記の通りその可能性は高い。

⑤三国は同盟を結びつつも、一枚岩ではなさそう


……と、こんな所か。

しかし、まさか四弓の筆頭と聞いていたアルツィや、死んだと思っていたフィラーハが生きていた上に裏切っていたとは。

ユーグル達と合流した時は、「し、死んでる……」なアルツィに気付いて焦ったものだが、実は国を裏切っていたアルツィにトドメを刺したのが族長さんと聞いてなんとも言えない気持ちになる。

だが、重度のシスコンやブラコンをこじらせての犯行って、それってどうなんだ?

思わず微妙な推理小説の結末かよっ! と、心の中でツッコミを入れてしまった。

悲しみの縁にある族長さんやユーグルには悪いけど。


さて、他に特筆する事といえば、同盟を結んだ三国がいまいち足並み揃えていないって事と五爪の英雄たるリョウライの処遇だろうか。

先の戦いでは、リョウライが予想していた通り、七槍や六杖は意外過ぎるほどあっさりと撤退していった。

俺達を倒すより自分達が倒されない事を重要視していたと見ていいだろう。

五爪の数を減らして同盟内のバランスを取ることが主目的で、俺達を倒すのは物のついでといった所だろうか。

だとすればある意味、目的は果たしたのだから、今後は同盟の結束も高まるかもしれないな……。


だが、それよりも今回の件ではリョウライが悲惨過ぎた。

元の世界へ帰る事を捨てて、こっちの世界で生きていく事を選ぶくらい愛した女性がスパイで、さらに寝取られてましたとか……。

今の落ち込んでる状態から復帰しても、人間不信まっしぐらになりそうで怖い。

つーか、俺が同じ目に会ったら絶対そうなるわ。


現在はこの城の牢に入れてあるらしいが、さすがにもうスノスチに忠義を尽くすことは無いだろうし、同じ異世界人ということもあるので、彼の身柄は俺達に預けてもらえないか、俺は族長さん達に打診してみる。

すると、没収した神器をアンチェロンではなく、俺達が保管する事を条件に俺の要望はすんなりと通った。

なんで? とも思ったが、考えてみればアンチェロンに過剰に神器が集まるのは他の国からすれば脅威にしかならんよな。

俺達が保管していた方が下手に政治利用されなくて安心というわけか。


それからしばらく話し合いは続き、大体の話し合うべき案件が結論を得た頃、ふとマーシリーケさんがひょいと手を上げた。

「あー、族長さん。その顔の火傷なんだけど、ちょっと見せてもらっていいかしら?」

やや、不躾な物言いにユーグル達が色めきだったが、族長はそれを片手を上げて制する。

「それは構いませんが、理由を聞かせていただけますか?」

理由と言われて、今度はマーシリーケさんが怪訝そうに首をかしげた。

「もちろん、治せるかどうか診るためよ」


「なっ!」

マーシリーケさんの発言に、族長だとよりも早くユーグルがユ反応した。

ガタンと椅子から立ち上がり、食ってかかるようにマーシリーケさんに詰め寄る。

「ほ、本当に治せる可能性はあのか!」

「その辺は見てみないと解らないけど……」

凄まじい剣幕のユーグルに押されて、さすがのマーシリーケさんも少し戸惑いながら答えた。

少し落ち着けとユーグルを制し、族長さんの包帯を取ると、その下から痛々しい火傷を負った顔が現れる。

マーシリーケさんはその族長の顔に触れて診察を始めた。

ふむふむとかほぅほぅとか言いながらなで回すこと数分後。

「多分、治せるわ」

さらりとそう言った。

「マジか!」×4

その場にいた四弓の三人と族長さんの声がきれいに重なる。

そんな英雄達に向かってマーシリーケさんは「マジで」と返して力強く頷く。


「良かった!」を連発しながら、族長にナトレとパドが抱きついて悦び合う。

彼女らの目にはうっすらと涙が浮かんでおり、心底喜んでいるのが感じられた。

うーん、女の子の友情いいよね……。

ちなみにユーグルは少し離れた場所で族長さん達を笑顔で見つめていた。

まぁ、さすがにあの輪に入って抱きつくわけにはいかんよな。


「さて、カズナリ」

マーシリーケさんに名前を呼ばれ、俺はそちらに注目する。

「私とノア、それにハルちゃんは治療の為にもう少しこの国に滞在するわ。アンタ達は先に帰ってなさい」

ああ、そんな事か。了解っす。

「それともうひとつ……」

ん? まだ何かあるんだろうか?

「アンチェロンに戻ったら、キャロちゃんにも会っておきなさい」

キャロちゃん……キャロリアか。


いや、正直キャロリアに会う事事態は望むところだ。

この国に来る前に預かった手紙といい、なにかと味方をしてくれているのは確実っぽいし礼のひとつも言っておきたいところだったし。

ただ、兄貴であるナルビークと、どうも相反する動きをしてるっぽいのが少し気になる。

ううん、まぁここで考えていても仕方があるまい。

アンチェロンに戻ったら、直接聞かせてもらうとするか。


──しかし、俺はまだこの時、キャロリアが計画する壮大なプロジェクトに巻き込まれる事になるなど、想像もしていなかった……。

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