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インセクト・ブレイン  作者: 善信
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──早々と三日という日は流れた。

昨夜、敵の英雄達から俺達を引き渡す場所の指定が知らせられ、今日はそこに向かう事になっている。

しかし、肝心なラービとパドは、いまだに戻って来てなかった。

一体、どうしたというのか……何かトラブルに巻き込まれたのではと心配と不安は募る。

それでも時間が来た以上、行動を開始しなければならない。

うーん……今はあの二人を信じよう。


ラービ達が戻ったらよろしくと居残り組のナトレに頼み、俺とレイは縄に繋がれ、アルツィ達に引かれながら王都の通りを進む。

道の両側、溢れるように立ち並ぶ耳長族達に注目されながら歩いていると、縄に繋がれているシチュエーションも加わって、かなり気恥ずかしい。

さすがに石とか飛んで来なかったのは、耳長族のモラルの高さ故だろうか。

しかし、これが市中引き回しされる気分か……珍しい体験ができたわい。


「何を楽しそうにしてるんだ……」

密かにユーグルが小声で話しかけてくる。

「いや、こういうシチュエーションって初めてで……もっと哀れっぽい雰囲気を出した方がいいかな?」

そう訪ねると、知るか! と返されてしまった。

そのまま俺達は連行され、王都を抜けて森の中に入る。

さすがにこの辺まで来れば、一般の耳長族は誰もいない。


「では、お前達は城に戻ってナトレ達を補佐してやってくれ」

アルツィの指示に従い、敬礼をした兵士達が踵を返して戻っていく。

大した統率力だな……。

感心して見ていると、俺の視線に気がついたアルツィが首を傾げる。


「どうかしたか?」

「いや……てっきり残るのはアルツィだと思ってたからさ」

四弓のリーダー格であり、族長の実の弟ってんだから、指導者としては最適なんじゃないのか?

たが、アルツィは目の前の問題を片付けるのが先だと答える。

「敵の脅威は完全に排除しなければならない。その為には、俺の神器と相性のいいユーグルが出向くのが一番なのさ」

ふむ……神器の能力も様々だからな……。

以前、戦った中にも『赤の槍』と『白の槍』みたいに、組んで戦うには明らかに相性の悪そうな奴等もいたから、その逆もまたあるんだろう。


「あとな、ナトレはあれで調整役が上手いんだ。彼女と秘書官達に任せておけば、とりあえず内政は回るだろう」

頭が不在でも通常通り国を回せるのは、健全な政治をやっていたからなんだろう。

その辺は感心できるし、出来れば勉強してみたいもんだ。

まぁアルツィの言う通り、目の前の問題を片付けてからの話だが。


「さて、そろそろ行こうか」

俺とレイを繋いでいた縄を切り、ユーグルとアルツィが背中に背負っていた弓を引き抜く。

「手筈は心得てるな?」

確認するように聞いてきたユーグルに、バッチリだ! と親指を立てて見せた!


一応、ラービとパドが何らかの理由で合流に間に合わなかった時の為に、誰が誰を狙うかの打ち合わせをしておいたのだ。

仮にフォーメーションβと名付けられたその作戦では、敵を分散させて当たる事になっている。


俺が『爪』の英雄達と。

レイが『槍』の英雄達と。

そして、ユーグルとアルツィが『杖』の英雄と当り、これを撃破してから俺達に合流して行く事になっている。

これなら、『一対二』の形になる俺とレイは防御や時間稼ぎに徹していれば、『杖』の英雄達を片付けたユーグル達が加勢しに来て有利になるって寸法よ!

少し心配なのは『弓』が『杖』に敗北することだけど、身体能力が低い魔法使いなんぞ一撃でイナフだっ! と自信満々で言っていたから、まぁ大丈夫だろう。


さて、いよいよ対峙すべき敵の英雄達が待ち構えるポイントを目指して、ユーグルとアルツィが弓に魔力を込める。

それに呼応して空間が軋み、ぽっかりと口を開けた。

僅かな浮遊感を感じながらその空間を潜り抜けると、そこは学校の校庭程の広場になっていた。


あー、この感じ……バロスト達と戦った時の、ヤーズイル研究搭に雰囲気が似てるな。

搭が無いだけで、森に囲まれた広場というシチュエーションが、あの時の戦いを思い出させる。

今にもキメラ・ゾンビがひょっこり顔を出しそうで、つい身構えそうになってしまう。

──しかし、現れたのは六人の英雄達!

人数的に上回っている余裕からか、その顔には笑みが浮かんでいた。


「よく来てくれた『四弓』の英雄に『神獣殺し』達……」

五爪の英雄であるリョウライが奴等を代表するかのように、一歩前に踏み出してきた。

「何やら人数が足りないようだが、目的の少年はいるようだからまあいい。それよりも、四弓の面々がそちらに付いているという事は……もしかして、我々と敵対するのかな? その、危険極まりない神獣殺しと組んで?」

ふん、何を白々しい。


「もう、お前らの計画は解っているんだよ!」

ビッと指差す俺に、「ほぅ……」と呟いて次の言葉を待つリョウライ。

「俺達がこの国を訪れたタイミングで、族長さんと神獣を害して俺達の居場所を無くし、あわよくば四弓に片付けさせようとした」

ここまでは一番最初に描いた絵だろう。

「……それで?」

むっ! なんだ、余裕ぶりやがって。

「しかし、四弓の一人であるユーグルが俺達に付きっきりだった為に、今度は敢えて姿を晒してグラシオの領民を先導し、スパイの容疑をユーグルに掛けようとしたわけだ。本物のスパイを今後も動かしやすくするために!」

だが、この目論みは半分くらいしか成功しなかった。

奴等が思っていたより領民は理性的で、四弓への信頼も厚かったわけだ。

その辺は奴等のうっかりだな。

だが、どうだ! この解説は!

お前らの目論みなんぞとっくにお見通しよ!


「……フ」

フ?

「フフフ、フハハハハ!」

突然笑い出すリョウライ。

あれ? 俺の見立てた今回の事件の全容が間違っていた?

だとしたら、めっちゃ恥ずかしい!

「いやいや、ピッタリその通り! こちらの知恵者が立案した計画が見事に読み解かれてしまったなぁ」

あ、合ってたか……ホッとしたぜ。

ゲラゲラ笑うリョウライと違って憮然とした表情をする『杖』の優男。

なるほど、あいつが軍師ポジションか。


「大体、族長さんにベタ惚れなユーグルをスパイ役にする辺り、作戦が雑過ぎたな!」

ブッとユーグルが吹き出し、敵の何人かも顔を押さえて肩を震わせる。

よし! 狙い通り!

「お、お前ー!」

顔を真っ赤にしたユーグルが俺に掴みかって来るのをなだめて、改めて敵の英雄達に向き直った。


「そんな訳で族長さんと神獣シルワの『仇は取らせてもらうぜ!』」

俺がその合い言葉を口にした瞬間!

奴等と対峙する前に決めておいた通り、即座に神器を発動させたユーグルが極限まで弓を引き絞る!


「穿て! 『大地弓』!」

解き放たれた矢は大地に突き刺さり、その能力を解放した!

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