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他国の英雄達が姿を消してからしばらくたった頃、城の方から消火と住民保護のために数十名の兵士達が駆けつけきた。
だが、魔法によって発動したものだったせいか、ユーグルの屋敷を焼いた炎は他所に燃え移ることこそ無かったが、異様な早さで屋敷を焼き付くしてしまう。
騒ぎを収め、兵士達が焼け跡を調査した結果、炭化した女性の体の一部が発見された。
おそらく……それはフィラーハの……。
その後、俺達は城まで護送されて今に至る。
誘導するような敵の英雄の言葉に乗せられた耳長族達のヘイトは俺達に向いており、その場に止まれば暴動が起こる可能性があったからだ。
そして今、俺達の目の前にはグラシオが誇る四人の英雄が揃い、今後の方針についての話し合いをしていた。
「してやられた……としか言いようがないな」
重いため息をつきながら、四人のリーダー格であるアルツィが口を開いく。
ちなみに、彼は族長さんの実の弟らしい。
「……申し訳ありません。俺が居ながら……」
俯きながら、覇気の無い呟き声を漏らすユーグル。
憧れの女性に続き、家族を守れなかった事がかなり響いているようだ。
「領民の不満もかなり高まっています……下手をすれば、暴動になるかも……」
ふわふわした金髪で、気の弱そうなお嬢さんといった雰囲気のナトレが自分の言った未来を想像したのか、ブルリと震えた。
「つーかさ、いるだろ内通者が。いくらなんでも、事の起こるタイミングが良すぎだし」
ナトレとは真逆のヤンキー姉ちゃん風の英雄、パドがはっきりとスパイの存在を口にする。
「ああ、いるだろうな……そして、姉上……族長襲撃を手引きしたのも、その内通者だろう」
パドの言葉を肯定しつつ、「だが、今はそれよりも先に決めなければならない事がある」とアルツィは言いきった。
それを聞いて、パドとユーグルがすかさず反論する!
「なに言ってんすか! さっさと裏切り者を見つけねーと、どんな作戦立てても筒抜けになっちまうでしょうが!」
「それに国の指導者を狙ったこの行為は宣戦布告に等しい! どこが喧嘩を売ってきたのか、ハッキリさせる必要があります!」
二人に迫られ、アルツィは再びため息をつく。
そして、彼等をなだめるように静かに問いかけた。
「優先順位を間違えるな。今、我々がしなければならない事はなんだ?」
その問いかけに答えたのはナトレ。
「げ、現在、指導者不在であり守りの要だったシルワ様を失った私たちは、国内の分裂や治安回復が急務だと思われます」
満足そうに頷いて、アルツィは言葉を続ける。
「そうだ。敵の排除や内通者の発見も大事ではあるが、指導者不在だからこそ、まずは足元をしっかり固めておかなければなるまい」
うん、確かに内政もしっかりとしておかなければと諸葛亮も言っていた。
今まで見てきた英雄が、かなり自分勝手で脳筋ぎみだったため、真っ当に会議をしている『四弓』の姿がすごく知的に思えるな……。
ただ、少し気になる所があったので、ちょっとユーグルに聞いてみる。
神獣が守りの要って、どういう事?
……少しクールダウンしようとしていた彼の言によれば、この国の八割を被う巨大な森の中の約六割はシルワの結界に包まれていたらしい。
許可の無い他国の人間や、強力な武具(例えば神器のような)を持つものは、危険と見なされてシルワが操る植物トラップの餌食になっていたそうだ。
これを通過できるのは、耳長族及び、耳長族にまねかれた者だけらしい。
余談だが、この国はそんな恐ろしい神獣の支配する森を有する事から、「死の森の王国」なんて呼ばれかたで恐れられているそうな。
さて、俺がユーグルの話を聞いていた間も、四弓会議は続いていた。
「だから、ウチらは最大戦力を投入して短期決戦を仕掛けるべきだと思うんすよ! 今なら、人数的にも勝ってますし!」
敵の英雄は六人。対するこちらは四弓に俺達を加えて七人。
確かに人数だけ見れば勝ってると言える。
人数だけ見れば。
「……四弓を全員投入などできはしない」
アルツィの言も尤もだ。
今、この国の防衛は四弓にかかっている。
そんな中、短期間でも四弓全員が不在になって王都を無防備にするわけにはいかないだろう。
それこそ暴動とか起きかねない。
「それに奴等は、三日後に我々の返答を聞くとは言っていたが、場所の指定はまだしてきていない。つまりは、罠を仕掛けるにしろ増援を手引きするにしろ、三日の準備期間は奴等に有利に働く」
そんな蛇の巣に貴重な戦力を全投入などできはしないと、言葉を区切って、アルツィは水を一口飲んで喉を潤した。
つまりはどうしても後手に回らざるを得ない……そんな現状に、パドはギリッと歯噛みする。
「どちらにせよ……」
ポツリとユーグルが呟いた。
「あいつらを殺す時には、俺が出させてもらいますよ……」
地獄の底から聞こえてくるような、重く暗い声に部屋がシン……と静まり返る。
ううん、怖い……。
ユーグルの精神状態は、かなりヤバそうな所まで来てるみたいだ。
このままでは、勢いで突っ込んで行って、敵の策略に陥る可能性もあるんじゃなかろうか。
そうさせない為にも、起死回生……とまではいかなくても、少しでもこちらを有利にするために打てる手は打っておこう!
「あの……俺にちょっと考えがあるんだけれど」
手を挙げて発言した俺の方に、四弓達の視線が一気に集まった。
「考え……とは?」
四人を代表するようなアルツィに促されて、俺は答える。
「アンチェロンに協力を仰ごう。英雄か……それと同等の人材を」
俺の案に、四弓の全員が目を見張った。
「出来るのか、そんなことが?」
いやいや、むしろなんで出来ないと思うんだ?
相手は三国連合だ、グラシオの次はアンチェロンかもしれないのだから、その辺を説けば行けそうなもんだろうに……。
まぁ、俺も知らないような、国家間の同士の問題とかはあるかもしれないけど。
「協力してもらえる可能性は高いと思う。で、その際の人員配置なんだけど……」
三国志なんかを愛読していた俺は、軍師さながらに語る今の状況に、不謹慎ながら少しワクワクしてしまっていた……。




