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インセクト・ブレイン  作者: 善信
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うーん……なんだか嫌な気配がする。

なんだかこの森に入ってからというもの、誰かに見られているというか、巨大な生き物に飲み込まれてしまったというか……とにかく、纏わりつくような気配が消えない。

異世界こちらに召喚されてからしばらくは森の中で暮らしていたんだから、雰囲気が苦手という事はないはずなんだが……。


「なんか嫌な感じがするな……」

ラービとレイ、どちらともなく声をかけてみる。

「確かにの……じゃが、ここならワレの新しい力を試せそうじゃ」

「如何なる状況になろうとも、御主人様のお力になります! むしろドンと来いです!」

なんだかワクワクが止まらねぇぞ、オイ! なラービと、来るなら来やがれ的なレイ。

やだ……頼もしい……。


それからしばらく進んだ所で、突然ユーグルが歩みを止める。

なんだ? まさか迷子になったってんじゃないだろうな?

「バカを言え! 俺が迷うわけがないだろう!」

ドキドキしながら尋ねた俺に、ユーグルは憤然しながら答えて担いでいた弓を手にした。

神器ではあるらしいが、弦も張っていなければ、矢も有りはしない。ハッキリ言って使い物に成らないよな……。

そんな事を考えていると、ユーグルの口元が少し歪んだ。


「目覚めよ『大地弓』!」

ユーグルが呼び掛けた瞬間、弓の神器からビリビリと空気を揺らすような魔力が放たれ、光で出来た弦が弓の端と端を繋ぐ!

さらにその光の弦を引き絞ると、そこに同じく魔力の光で出来た矢が現れる!


「これぞ我が神器『大地弓』の真の姿だ!」

口元に笑みを浮かべたまま、ユーグルは神器を誇るように言い放つ。

いや、しかし……弦を張ったりする必要も無く、矢も持ち歩かなくていいってかなり凄くないか?

言わばメンテナンスフリーの上にかさ張る荷物なしで弾数無限、そして遠距離射撃……うわっ、めっちゃ凶悪だ。


ユーグルは、エルフに持たせたらヤバい性能を発揮しそうなその神器を構え、前方の森に向かって矢を放つ!

何を狙ったのか不思議に思っていると、とある木々の間で矢が弾け、まるで何かの扉を開いたかのように空間が歪む!

「俺達、『四弓』の英雄のみが使える転移空間だ。さあ、着いてこい」

スタスタと進むユーグルに遅れぬように、俺達も怪しく歪んだ空間に飛び込む!

エレベーターに乗ったときのような一瞬の浮遊感──。

だが次の瞬間には、俺達の眼前に先程の森とは違う景色が広がる!


「ここがグラシオの王都だ」

そう言ってユーグルが示したのは、森の中に現れた巨大な木造の城壁に囲まれた都市だった。

頑丈そうな門扉の前に立ち、ユーグルが開門を呼び掛けると、ゆっくりと両開きの扉が動いて道を空けていく。


見張りをしていた兵士達がユーグルに対して挨拶をする。

しかし、連れの俺達には警戒しているのか、城壁からこちらの様子を伺っている者もかなりいるみたいだ。

ってうか、俺達以外はみんな耳長族って凄まじいアウェイ感を感じる。

好奇心だけならまだしも、明らかな敵意っぽい物も向けられていて、ひどく落ち着かない。

なんだよう、こちとらお客さまだぞ!


そんな所在無さげな俺達をほっといて、ユーグルは何事か兵士達に話していた。

やがて俺達の所に戻って来ると「行くぞ」とだけ告げて、また先行して歩き出す。

くっ……自分のホームに戻って来てら強気になりやがって。

偉いさんの命令で俺達を招待したなら、もうちょっと気を使って欲しいもんだと苛ついていたが、グラシオ王都の街並みを見てそんな気分はふっとんでしまう!

そのエルフっぽい外見から想像していた暮らしとはかなりかけ離れていたからだ。


創作によくある、でかい大木をくり貫いたような住まいなんかひとつも有りはしない。

しっかりと材木を組み合わせた木造建築の建物が並び、中には四階建てのビルに近い物もある。

何かを加工するような店舗には金属の壁で補強がしてあったりして、「森の精霊エルフ」と言うより「林業や狩猟を主にする山間の集落の人々」みたいなイメージだ。

ただ、道行く誰も彼も美形だというのが、何となく幻想的だったり高貴さを感じさせる所以か……。


キョロキョロと物珍しそうなおのぼりさんって感じ全開の俺達だったが、耳長族にとっても他国の人間は珍しいのかチラチラと見られているのを感じる。

うん、ここはひとつ愛想よく笑顔でも振りまいておくか。

にこやかな笑顔を浮かべ、時おり手なんかを振りながら歩いていた俺達は、とある大きな屋敷の前で歩みを止めた。


「ここは俺の家だ。この国にいる間はここに滞在してもらう」

へぇ、こんな大きな屋敷に住んでるなんて、ひょっとしてユーグルって貴族階級かなにかか?

「英雄にはそれなりに相応しい威厳というものが求められるんだ。大人数で住んでるわけでもなし、少々もて余しているがなな……」

少しだけ面倒そうに答えた彼は、屋敷の扉を開けると大声で屋敷内に呼び掛けた!


「フィラーハ! フィラーハ、どこにいる!」

ビリビリと、屋敷内に響き渡るユーグルの声に反応して、建物の奥の方から一人の女性が姿を現した。

「お、お帰りなさい、お兄様」

パタパタと駆けてくる、その言動からユーグルの妹おぼしきその女性。

なるほど、兄妹だけあって二人の顔付きはよく似ている。

しかし、俺の目を引いたのはそこではない!


フィラーハと呼ばれたその女性、走る彼女の胸元で暴れまわる大きな二つのたわわに実った果実!

たゆんたゆんと揺れまくるその双丘に俺の目は釘付けだった。

素晴らしい景色をありがとう! 俺を見つめるラービの視線は痛いけど!


だが、出迎えられたユーグルは不機嫌そうに顔を歪める。

「お前は走るなと言っただろう! そのムダ肉の付いた体付きがみっともないと何度言わせるんだ!」

俺達の元まで駆け寄ってきたフィラーハを大声で怒鳴りつけ、ユーグルは妹を睨み付けた!

「ご、ごめんなさい……」

萎縮し、泣きそうな顔でフィラーハはユーグルに謝罪する。


確かに彼女は街で見かけた耳長族の女性達よりも少しポッチャリしている。

だが、あくまで細身な体形が主な耳長族の中では……というだけで、普通の人間の基準で見れば若干ムチッとしてるかな……ってところだ。

そしてなにより、あの素晴らしい巨乳おたからに向かってみっともないとはどういう了見だ!

アンチェロンでは仲良くなれるかも……とも思ったが、貧乳信者なのだとすれば、巨乳至上主義の俺とは血で血を洗う争いになるかもな……。


シュンとして顔を伏せるフィラーハから俺達に視線を移したユーグルは、「俺は城に報告に行ってくるから、お前らはここで待機していろ」と告げる。

そして、フィラーハに俺達を適当にもてなすように伝えると、さっさと屋敷を出ていってしまった。

……アンチェロンを達つ際にはマイペースな俺達に散々文句を言ってきたクセに、なんだかんだでユーグルもマイペースな野郎だよな。


ポツンと残された俺達に、顔を上げたフィラーハが精一杯の笑顔で俺達に対応してくれた。

「とりあえず立ち話もなんですし……お茶を入れますので、奥のほうへどうぞ」

うう……なんか気を使わせて、逆にすいません……。

居たたまれない気持ちで、俺達は彼女の後に付いていった。

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