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今年もよろしくお願いします
俺の命に関わるって一体、どういう事だ?
健康優良児である俺が病気の類いを持っている訳はないし、体の不調も……多分ない。
て言うか、なんかあったらラービかレイが気づくだろう。
そういう物でなければ、誰かが俺の命を狙ってるってことだろうか?
しかし、命を狙われる心当たりなんて……無くはないか。
考えてみれば、ディドゥスとブラガロートの英雄を何人も倒してる訳だしな。
対外的にはアンチェロンの英雄がやったってことで、おあしす運動(注)は展開しているはずだが、事情を知っている連中が刺客を差し向けて来てもおかしくはない……。
つーか、冗談じゃないよ! こちとら前途有望な若者だっつーの!
俺にはなぁ、元の世界に帰って蟲脳で得た類いまれなる身体能力を生かしてプロのアスリートとして生温く成功していくという、反則気味な野望があるんだからな!
まぁ、この野望を前に話したら、ラービは賛成していたがレイは少し不満そうだった。
彼女曰く、「紛争地帯や治安の悪い場所を渡り歩き、犯罪の温床を突風のごとく吹き飛ばす伝説の傭兵」みたいな生きざまこそ俺に相応しいと言っていたが、どこの通りすがりのサラリーマンだよ…… 。
まぁ、先の事は置いといて、今の事に目を向けねば。
とにかく城に向かい、王女の兄であり現時点でこの国を仕切っているナルビーク王子に会って話を聞いてほしいとキャロリアは告げる。
俺達、異世界から来た連中を嫌ってる現国王とは違い、それなりに話の解る王子が呼んでるというなら、俺の命に関わる事柄についての根拠や対策についても話し合えるだろう。
キャロリア王女と共に城に向かおうとした俺に、当然のごとくラービとレイは着いてくる。
まぁ、俺の命に何かあればこいつらも一蓮托生だから当たり前だか。
だが、さすがのデルガムイ号でもその背に四人は乗せられないので、女三人は馬に乗せ、俺は小走りで着いていく事になった。
……いやまぁ、レディファーストでいいんだけどね。
なんか釈然としないというか、なんと言うか……。
未来の猫型ロボットが活躍する漫画で金持ちキャラに「悪いけどこれは三人までなんだ」ってハブられる主人公はこんな感じなんだろうか。
……それから俺達は、競うように街中を駆け抜ける。
暴走トラックみたいなデルガムイ号や俺を、止める者も止められる者もいない。
街の連中も慣れているのか、器用に進路を開けてくれて、「こりゃ、王女は頻繁に街中を走っているな」というのを伺わせる。
まったく、とんだジャジャ馬だよな。
そんな感じで軍馬と競うように城門を先に潜った俺だが、右手を掲げて勝利を叫ぶ!
「っしゃー!俺の勝ちだー!」
……いや、別に勝負していた訳ではないけどね。
だが、そんな俺達を取り囲むようにして衛兵達が駆けつけて来た。
まぁ、王女の乗るデルガムイ号はともかく、それと同等のスピードで現れた俺を警戒しての事だろう。
俺達、異世界の者は存在自体が一部を除いてオフレコだから、顔もあまり知られてないから、こういう時は少し不便だな……。
「兄の命により、客人を招待してきました。皆、粗相の無いように!」
俺達に見せるのんびりとした雰囲気は鳴りを潜め、王族としての威厳にみちた声でキャロリアが指示を下す!
その一声に、衛兵達は警戒感を解いて、武器を納めた。
さすがは王女様だなと感心していると、数人のメイドさんが現れて俺達を応接間へと案内するという。
特にメイド萌えではない俺でも、やはり本物のメイドというものには心が踊る。
つい見とれていると、背後からラービの鋭い視線を感じたが、あえて気付かぬ振りをして案内に着いていった。
俺達が拠点にしている屋敷の食堂よりも少し広い応接間のソファに座り、出された茶などを飲みながら過ごしていると、俺達んわここへ読んだ張本人であるナルビーク王子がキャロリアと共に現れた。
「いやいや、お待たせしました」
特に待ってもいないが、定番の挨拶を軽くかわして、ナルビーク達は俺達の対面に腰掛ける。
「そういえば、ブラガロートでの一件! ウチの英雄に手柄を譲ってもらったようで」
う……。
無理矢理ティーウォンドを言いくるめたんだけど、やっぱりバレていたか。
まぁ、最初からそれの手柄は放棄しているから、今さらどうでもいい。
そんなことより、今は「俺の命に関わる事」についての詳細だ!
急かされて、ナルビークはその件について語り始めた。
「昨日の事ではあるが、隣国である『グラシオ』から使者が訪れましてね」
グラシオ……確か以前にダリツからから受けた異世界簡単レクチャーによると、耳長族とか言うエルフっぽい連中の国だっけ……。
バロストとの間接的なファーストコンタクトの時に、合成獣の材料に使われていた端正な顔立ちを思い出す。
同時にグロいトラウマも思い出してしまったが、なんとか表に出さずにはすんだ。
で、そんな連中がどう俺と関わってくるんだ?
「使者殿が言うには、『異世界から来た神獣の力を宿す神獣殺し達に会わせてほしい』との用件でした。その際、君達の命に関わる重大な危険が迫っている事を告げられたんですよ」
んん……? ってことは、実質、俺達を読んだのはそのグラシオの使者って事か!
話の経路は解ったが、仮にも王子であるナルビークが何だって他国の人間の頼みをホイホイ聞いてるんだ?
「一応、君達の存在は秘匿されている。しかし、はっきりと出せと言われてしまうと無理に隠し通せはしませんからね」
なるほど……下手に俺達と直接、接触されて問題が起こるよりは、ワンクッション置いて事情を知ってもらった方が拗れないだろうって訳ね。
「無論、君達の命に関わるなんて話を聞かされたから急いで呼ばせてもらったと言う事もある」
若干の打算はあるだろうが、一応はは心配してくれたのだろうか?
俺の中で、ナルビークに対する信頼度が少し上がった。
「まぁ、詳しい話は彼に聞いてほしい」
そう言って、ナルビークは俺達の後方を促すように手を差し出した。
釣られて後に視線を向けると……一瞬で背筋が凍りついた!
俺達の後に立っていたのは一人の男!
反射的にソファから飛び退いた俺達を眺めながら、フンと小さく鼻を鳴らす。
「気配察知に付いてはお粗末なものだが、反応速度は中々のものだな」
まるで俺達を試したかの様な物言いをする男を、こちらも観察してやる。
外見的な特徴として、後で纏めた長い金髪に、女と見間違えそうな整った顔付き。
細く見えるが、鍛えられた体に軽装鎧を身に付けていた。
そんな中で一番目立つのはやりその長い耳だろう。
まさにザ・エルフ! って感じで、つい見入ってしまいそうになる。
だが……下手をすれば、そんなエルフの男よりも存在感を放っている物があった。
それが彼が背に担いでいた一本の『弓』!
弦も張っていないし、矢も無いというのに、それからは強力な圧力すら感じる……。
「あ、あんた何者だ……」
薄々、気づいてはいたが、確認のために男の名を聞く。
「私の名はユーグル・ヌーブ。グラシオが誇る英雄『四弓』の一角を担う者だ」
ほら来た! やっぱり!
弓は神器で、こいつは英雄!
また……面倒な事になりそうだな……。
(注)おあしす運動
お……おれじゃない
あ……あいつがやった
し……しらない
す……すんだこと