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人の形に変化したスライム達は、四つん這いの状態からゆっくりと立ち上がって俺達の方に顔を向ける。
その姿は、どことなくイスコットさんとマーシリーケさんの面影を持った十代前半くらいの二人の少女。
だが、全裸はどうにかしなさい!
俺は同年代か年上が好みではあるが、さすがに中学生くらいの子が真っ裸でいたら目のやり場に困るわ!
慌てて俺達は二人に適当な上着を羽織らせ、一旦は落ち着いた。
ラービの時は全裸をガン見していた俺だが、少しは成長したってことかな……。
さて、この二人だが……蟲脳の覚醒による、ラービと同じ別人格なんだろうが外見的な共通点はまったく無い。
強いて言えば女の子であることくらいだ。
だが、聞けば蟲脳になる個体は全て雌らしいのでそれも納得か……。
ちなみに雄は全て働き蜂として普通に孵化するそうだ。
生態とはいえ、男として少し複雑だな……。
まぁ、それはさておき、今はこの少女達だ。
イスコットさんに少し似た少女は、金色のベリーショートに近い短い髪と健康的な褐色の肌が目を引く。
うっかりすると少年とも見間違いそうなやんちゃっぽい表情を浮かべてはいるが、低めの身長に反する胸の膨らみが女の子であることを主張している。
対して、マーシリーケさん似の少女の方は、少し長めの髪を綺麗に切り揃え、良い所のお嬢様って感じの雰囲気を漂わせていた。
髪の色と眼鏡がマーシリーケさんとお揃いで、本物の妹だと言っても十分通じそうである。
そんな人型になった二人は俺達をジッと見詰めていたが、やがて口を開き……
「ちわッス!イスコットの大将から分割しました。名前はまだ無いッス!」
「はじめまして、マー姉さんの蟲脳の化身です。同じく、まだ名前はありません」
褐色の少女は元気よく手を挙げながら、お嬢様風の少女はおしとやかに頭を下げて俺達に挨拶をしてきた。
おお……。
ちゃんとそれぞれに人格もあるみたいだな。
ラービも先輩として感心しているみたいだが、何よりマーシリーケさんが目を輝かせていた。
「か……可愛い!」
意外と可愛い娘に弱い(変な意味ではなく)マーシリーケさんは即座に駆け寄り少女達を抱き締める。
いや、ベースがスライムだから大丈夫かもしれないけど、普通そんな力で抱き締めたら死にますよ?
「いや……驚いたな。カズナリが最初にラービを見たときの気持ちが解るよ……」
さすがのイスコットさんも驚きを隠せないみたいだ。
すると彼は、俺とラービをチラリと見て、
「あの娘ら、僕らの嫁になるとか言ったりしないよね?」
なんて尋ねてきた。
いやいや、それは無いでしょう。
以前、ラービが今の姿になった時、俺の理想の女の子を具現化した姿だと言っていた。
だとすれば、二人の面影を残した姿になったあいつらは、彼らに『娘』や『妹』をイメージさせる姿を取ったのかもしれない。
「そうか……娘か……」
何やら感慨深そうにイスコットさんが呟く。
元の世界で何かあったのだろうか?
だけどそれを聞ける雰囲気では無かったので、俺は黙ってマーシリーケさんが二人を開放するまでその姿を眺めていた。
「うわーん! 大将ー!」
ようやくマーシリーケさんから開放された褐色少女が、半べそをかきながらイスコットさんに抱きついてくる。
まるで父親に助けを求める子供のようで、少し微笑ましい。
「あの人、ヤバいッス! ウチじゃなかったら死んでるレベルで締め付けて来たッス!」
あ、やっぱり……。そう思ったのは俺だけじゃなかったのか。
「もう……大袈裟ね。マー姉さまの少しパワフルな愛情表現じゃないですか」
褐色少女とは逆に、お嬢の方はマーシリーケさんのハグを堪能しまくったと言わんばかりに満足気だった。
「ごめんねー、二人ともあんまり可愛いからちょっと力が入っちゃったのよ」
てへペロするマーシリーケさんをイスコットさんの影から怯えるように見る褐色少女に、私はもっとしてもいいですよと受け入れるお嬢。
「まぁ、君が可愛いからって彼女も言ってるんだ。許してやってくれないか?」
イスコットさんに頭を撫でられ、気持ちよさそうに褐色少女が頷く。
むぅ……何て言うか、猫っぽいところが確かに可愛いな。
「ところで、この二人の名前はどうするんですか?」
俺の問いかけに反応した二人の少女が、目を輝かせてイスコットさんとマーシリーケさんの顔を覗きこむ。
しかし、すでに付ける名前は決めていたかのように、二人は彼女らの名を口にした。
「君の名前は『ジーナ』でどうだろう」
「あなたの名前は『ノア』でどうかしら」
『ジーナ』と『ノア』。
自らに与えられたその名前を、二人は口中で何度か繰り返して満面の笑顔で顔を上げる!
「良い名前ッス! ウチも気に入ったッス!」
「素敵なお名前です。ありがとうございます、マー姉さま」
名前を与えられた二人は、それぞれの名付け親に感謝の意を示す。
しかし、随分とすんなり名前が出てきたもんだなぁ……。
「ワレも思い出すのぅ、一成に始めて名を付けてもらった時の事を」
うんうんと頷きながらラービは呟く。
いや、お前は自分で名乗らせようとしたら危ないネーミングセンス過ぎたからな……。
「さて、ヌシらもいつまで真っ裸でおるつもりだ? ワレのように体表面を変化させて服を着てるようにしておけ」
寝屋以外ではしたない乙女はいかんぞと、子供にするアドバイスとしては若干違う気もするような忠告をラービが与える。
人化の先輩であるラービの言うことを素直に聞いた二人は、体の表面を波立たせて、服を作り出していく。
そうして、ジーナは動きやすそうな作業服を思わせる格好に、ノアは白衣姿の学者か医者を思わせるキチッとした格好へとその姿を変化させた。
「改めて、自己紹介するッス! ウチはジーナ。大将の鍛治仕事と素材狩りのお手伝いがウチの使命と心得てるッス!」
元気一杯で言い放つジーナ。
イスコットさんの武具製造や素材集めの助手ができるなら、これはありがたい人員だな。
「同じく、ノアと申します。マー姉さまから受け継いだ薬学の知識をもって皆さまのサポートをしていきたいと思います」
落ち着きある態度で一礼するノア。
こちらも専門的な知識をもってるなら、材料さえあれば回復薬なんかの需要の多い物の数を揃えるのに力になることだろう。
「ワレはラービ。この中で女子力は随一と自負しておる!特技は料理! よろしくの!」
何を対抗してるんだ、お前は。
とにかく、イスコットさんとマーシリーケさんの助手という形でジーナとノアには各々組んで動いてもらうことになった。
整備や薬の生産性上昇に加え、戦力の増強も図れた形だ。
……そう、この新加入の二人、予想以上に強かった。
ラービが俺の漫画知識からなんちゃって拳法を習得していたように、この二人も元になったイスコットさん達の戦い方を身に付けていたのだ。
イスコットさんが戦斧の次に得意としている武器である大振りなメイスを軽々と振り回すジーナ。
そして、ノアは二刀のダガーを自在に扱うマーシリーケさんの使う短刀術を身に付けていた。
さすがに俺達よりも強いということはないが、神器持ちの英雄でもない限りは不覚は取らないだろう。
同じ武器持ちということで、レイとも女の子同士で模擬戦なんかの約束をしたりして、微笑ましいやら、そら恐ろしいやら……。
そんなこんなで、俺達は交流を深めながら、比較的に平和な時間を享受していた。
その間、俺はラービと脳内組手をやったり、土下座して胸を揉ませてもらったり、レイに武器の手解きをしてもらったり、ラービと隠れてイチャついたりと、まぁそれなりに充実した日々を過ごしていたのだが……。
猛々しい軍馬の嘶きと共に、キャロリア王女が俺達の拠点を訪ねてきたのは、ジーナ達が加わってから数日後の事だった。
出迎えた俺達に、開口一番、城に来てほしいと言う。
慌てた風でも無いにしろ、有無を言わさぬ迫力に、何事かと尋ねると……。
「カズナリ様のお命に関わる事……かもしれません」
いきなり死の宣告されてしまった。
マジで……?
今年最後の投稿です。
来年も良かったらお付き合いください。




