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再度気を失ったティーウォンドを担ぎ、ブラガロート側の砦を避けて国境を越える。
まぁ、見つかってもおとがめは無いだろうが、前線の兵士が上司に怒られるのも可愛そうだしな。
そんな感じで、無事「轟氷都市」にたどり着いた。
そんな俺達を迎えてくれたのは、今現在、神獣の森でキメラ・ゾンビ討伐の部隊長をしているハズのダリツ。
……なんでここにいるの? サボリ?
「人聞きの悪い事を言うんじゃない」
憮然とした態度でダリツが言う。
「なんにしてもあの森は広すぎるからな。三交代制にして、昼夜を問わずに駆除しているよ」
で、今はダリツ達の部隊が休憩時間らしい。
聞けば、ダリツ達「国境警備兵」の部隊は夜目が効くことと、森林での活動に慣れているからという理由で問答無用で夜間行動に回されているそうだ。
「そりゃ、確かに俺達は夜でも行動出来るよう鍛えちゃいるさ。だが、それは主に情報収集や侵入者の発見の為であって、アンデット討伐なんて想定してない訳だよ! つーか、普通ならあんなの相手するより、とっとと逃げて情報を伝える方が重要だしな!」
うんうん。
まぁ、大変だろうが、そろそろイスコットさんが担いでるティーウォンドに気付いてやってくれ……。
その後、ダリツに呼ばれた轟氷都市の兵士にティーウォンドを任せ、俺達は一日ここで宿泊してからアンチェロンの王都戻ることにした。
まぁ、なんともハードなスケジュールだったからなぁ……。
一日くらい、ゆっくりと休ませて欲しい。
てな訳で、ガッツリと飯を喰らい、マッタリと湯に浸かり、のんびりと宛がわれた部屋のベッドに横になる。
本来ならさっさと寝てしまう所ではあるが……俺はある期待と予感に、寝る事ができずにいた。
なんとなく落ち着かない気持ちのまま時間は過ぎていき、夜もふけて来た頃……。
コンコンと控えめなノックの音が響く。
「……はい」
裏返りそうな声をなんとか押さえて、ノックに答える。
ドアを開けて顔を覗かせたのは、予想していた通り……少し顔を赤らめたラービだった。
これは……アレだよな! 今日、俺達は所謂大人の階段を登るって事でいいんだよな!?
ラービが一人の女の子に見えた途端にこれなのは、我ながらどうしようもないとは思うが、年頃の男なんだから仕方がないよね。
「やっぱり、まだ起きておったの……」
「何となくお前が来る気がしてな……眠れなかったよ」
部屋に滑り込むようにそっと入って来たラービに、俺は自然と言葉をかける。
よーし! 今のところは冷静に進められてる!
焦るなよ俺……。
立ち話もなんだからと、俺はベッドに座り直して隣にラービを誘う。
その誘いに素直に従った彼女は、腰を下ろして僅かに俺の方へ体重を預けてきた。
心臓の鼓動がラービに伝わるんじゃないかと思えるほど、ドクドクとやかましい!
緊張で固まりながらも次の一手の為に何を話すか、拙い経験とマンガ知識の中から選び出す為に頭脳をフル回転させる!
……ちくしょう! 役に立たねぇ!
こんなシチュエーションは初めてだし、女子と係わりがあまりなかったクソ童貞の俺がマンガのイケメンみたいなスマートな対応なんて出来るわけがないじゃないか!
ああ……俺の蟲脳はラービの本体なんだから、こんな時にアイツの考えが解ればいいのに。
「あのな、一成……」
俺が内心で悶えている間に、ラービの方からアクションを起こしてきた。
くっ……初めての不安がある者同士、男である俺がリードしてやりたかったが……リードされるのも悪くない気がしてきた!
せめてもの反撃に、彼女の肩に手を回そうとした時、スッとラービの体が俺から離れる。
「ヌシは期待していたかもしれんが……エッチはしばらく無しの方向で」
……………………………………………………………………は?
はああぁぁぁぁぁぁぁっ!?
なんですの、それは! どういう事ですかっ! そんなんじゃお客さん(?)も納得しませんよ!?
この時、俺はとんでもない表情をしていたのだと思う。
それを見たラービはビクリと一瞬震えてから、慌てて訳を話始めた。
……要するに、今の自分達の状況は戦いに巻き込まれる事が多すぎると。
争い事が常である異世界では仕方がないが、情欲に溺れて油断したりで命を落としたら元も子もないとラービは言う。
……今しがた、「その事」で頭が一杯だった俺には耳に痛い。
「それにの……今の体は……多分、ヌシの子を宿せる……」
顔を伏せて恥ずかしそうに告げるラービ。
それを聞いて、俺の心の中に雄の本能とか男としての責任やらの、様々な感情と理性が渦を巻き、合戦の如く入り乱れる。
が、避妊具なんかもないこの世界で行為に至って、万が一ラービが身籠り戦力から外れるような事があれば、俺達の生存確率はさらに下がるだろう。
確かにラービの言い分は尤もだ。反論の余地などあるはずもない。
だから俺は、彼女の考えに賛同し、「せめて元の世界に帰る目処が立つまでは性行為は無し」と言う事で納得した。
夜ももう遅い……明日の事もあるし、俺は紳士的にラービを部屋の外までエスコートする。
「おやすみ」とお互いに声を掛け合って、部屋の扉をそっと閉めた。
……ベッドに戻り、横になって天井を眺めながらラービの言葉を反芻する。
あのラービが、あんなに先の事まで考えてるなんてな……。
でもね……本音を言えば、ヤりたかったよぉ! 絶対にヤりたかったんだよぉ!!
ベッドの上でバタバタともがきながら、声にはならない声でわめき散らす!
今さらみっともないとは思う。
だけどしょうがないじゃないか! あんなん反論できませんて!
あそこで駄々を捏ねようもんなら、俺カッコ悪過ぎるし!
くっそう!
色んな作品で「異世界に行ったらハーレム築けました」みたいな例が一杯あるのに……!
相手があってこその事だから独りよがりはいかんと思うが、それでも「逃がした魚は大きい」感が拭えない。
運命の神様とかがいるなら、全力でバーカ!と罵ってやりたい気分だ!
会ったこともない神様に八つ当たりしていると、再び部屋のドアをノックする音が聞こえた。
内心、心臓が口から飛び出すほど驚きながらも、平静を装ってドアを開けると……そこにはまだラービが立っていた。
「どうしたんだ?」
モジモジしているラービに声をかけると、彼女は俺の手を取って自身の胸へと導いた。
極上の柔らかさと暖かさを併せ持つ二つの膨らみに、まるで雷に打たれたかのようなショックが走る!
「ん……」
ラービが小さく声を漏らす。
その声を聞いて、我知らずラービの胸を揉み始めていた指を止めようとする。が、まるで自動操縦のように制御が出来ない!
すごい! 揉んでるだけでめっちゃ気持ち良くて止められない!
出来ればこのまま手ブラの仕事につきたいくらいだったが、ラービは俺の手を引き剥がしてしまう。
後ろ髪を引かれるような思いの俺に、ラービが一言。
「こ、これは手付けじゃ。続きは……元の世界に帰ってからな」
そう言い残すと、彼女は足音も立てずに廊下を駆け抜けて行った。
後にポツンと残された俺は……
「よっしゃあぁぁぁっ!(小声)」と拳を振り上げる!
何がなんでも、帰るぞ元の世界!
どうにも興奮した俺は、それから夜が明けまでやり場のない気持ちをぶつけるように筋トレをしまくるのだった……。




