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動きを見せた俺達に、第一陣目の大鷲蜂の攻撃が迫る!
推定、数百匹の群れが一塊となって襲いかかってきた!
「うおぉぉぉぉぉぉっ!」
雄叫びと共にイスコットさんが愛用の戦斧を振り回す!吹き荒れる斬撃の暴風に、巻き込まれた大鷲蜂達が次々に切り裂かれ、打ち砕かれていく。
「まだまだぁ!火属性付与!」
イスコットさんのキーワードに反応して、その手にする戦斧の刃から炎が発生する。斬撃と打撃に炎が加わり、荒れ狂う様はさながら火炎竜巻!果敢に攻め来る大鷲蜂に、死と破壊を撒き散らしながら突き進んで行く!
マーシリーケさんの方に目を向ければ、彼女は大鷲蜂以上の速度で移動して蜂達を翻弄していた。常に移動を繰り返し、突然の方向転換で追いすがる蜂の群れに突っ込んでは、戸惑う蜂を打ち砕いていく!
ふと気がつけば、マーシリーケさんの手甲や脚甲からは光る爪のような刃が出たり消えたりしている。おそらくあれがイスコットさん謹製の防具に付与された能力なんだろう。
彼の戦斧から炎が噴き出すように、マーシリーケさんの防具からは刃が自在に現れる仕掛けになっているみたいだ。
刃を纏い、蜂の群れを舞うように手玉に取る彼女は、ある種の美しさを放ちながら迫る蜂達を打ち落として行った!
俺も負けてはいられない!
群がる蜂を目の前に拳を握り締めると、装着していた手甲の一部が伸びてナックルガードに変形した。これが、俺の装備に仕組まれたギミック!自在に形を変えることで、拳を保護しつつ投げに移行するときも掴みを阻害しない、地味ではあるけど便利な仕様。
よっしゃ、行くぜ!マンガ知識のなんちゃって拳法シリーズ!
「双拳密如雨、脆快一掛鞭」のキャッチフレーズでお馴染み?の『翻子拳』!
降り注ぐ雨の如く、弾ける爆竹の様な左右の拳による連打を主体とするこの拳法、言ってしまえば具現化した背後霊使い達がバトルする某漫画の主人公の如し!
思わず「オラオラオラオラ!」と叫びつつ、目にも止まらぬ速さで繰り出される双拳の連続攻撃は、あっという間に迎撃された蜂の山を築いていく!
「テメーは俺を怒らせた」
テンションが上がり、独特の立ちポーズで決めセリフを吐く俺を(なにやってんだアイツ……)と言った目で皆が見ていたが、敢えて無視しよう。
大鷲蜂の襲撃、第一陣が全滅したのは時間にすればほんの数分。
数百匹の蜂だった残骸が散らばり、あるいは山を作っていた。
「まずいな……」
圧倒的な強さの差を示したにも関わらず、イスコットさんは苦々しい感じで言葉を漏らす。
その意味は、俺にも解る。上空に目を向ければたった今、数百匹を削ったというのに空に広がる蜂の群れは減ったようには見えない。むしろ、何処からか呼び寄せているのか、徐々に増えていってる様にも見えた。
先程の女帝母蜂の咆哮は、群れの統率の他に集合の合図だったのかもしれない。
とにかく、このままじゃ退路を作る前に、数で押し潰されてしまう。
くそっ、何か方法は……。
『雑魚を相手取るより、統率する頭を潰す方が効果的かの』
またもあの謎の声が頭に響く。誰なんだ、お前は!
『ワレの事は後で語ろう。いまはヌシらが生き延びる方法を考えよ』
むぅ……気にはなるが、ストッパーを外して大鷲蜂と戦えるようになったのは、この声の主のお陰だ。少なくとも、敵ではあるまい。
それにしても……統率する頭をってつまり、女帝母蜂を潰すって事か?
闇夜に浮かぶ、そびえ立つ小山の様なそのシルエット。正直言って勝てる気がしない。というか、勝つ方法が思い付かない。
仮に俺達三人で一斉に襲いかかっても、それなりのダメージは与えられても全滅する未来しか見えない……。
くそっ!ここが現代だったら、側面からのRPGで行けたかも知れないのに!
せめて攻撃魔法の使い手がいれば……。
『まぁ、仕止める方法はそんな感じで良いのではないか』
え?何が?
『つまり概念で言えば側面からのRPG 。但し弾頭はヌシだが』
ちょっと待てよ!何やら不穏な事を言い出した謎の声に、嫌な予感が警報の様に鳴り響く。
『このままでは埒が開くまい。とりあえず、ワレの策を聞いてみよ。ささ、他の二人も呼べい』
謎の声の言う通り、このままでは埒が開かない。嫌な予感はするものの、とにかく作戦だけでも聞いてみるか……。そう判断した俺は、イスコットさんとマーシリーケさんを呼び、その作戦とやらに耳を傾けた。
どうやら謎の声は俺だけに聞こえていたようで、二人に対して伝言ゲームの要領で作戦を伝える。
何処の誰が語っているのかは謎だが、現状を変える一手になるならと判断したらしく、すぐに受け入れてしまった。
魔法とかある世界の人は不思議な出来事に対して順応性が高いな。
『さて、ワレの提案する策だが……』
……結局、謎の声の作戦を採用する運びになった。
作戦とは言っても、やること自体はいたってシンプル。俺達三人で力を合わせての一点突破。
ただし、タイミングはかなりシビアで一発勝負と言う、一か八かのギャンブル的な方法である。
こんな状況でなければ、却下したい作戦ではあるが、すでに大鷲蜂の攻撃の第二陣が行動に移ろうとしている気配があるため、に迷ってる暇はない。
俺達は即座に配置に着いて、同時に『限定解除』を発動させた!
『よいか、狙うは女帝母蜂の頭部。文字通り、頭を潰すのじゃ』
「よし!来い、マーシリーケ!」
イスコットさんが愛用の戦斧を背中に担いで、バレーボールのレシーブのように両手を構えて腰を落とす。
そのイスコットさんに向かってマーシリーケさんが走り出した!
一気に加速してイスコットさんに迫ると、その体をかけ上る勢いで彼が構えた両手に足を掛ける。
次の瞬間、加速の勢いも利用して、イスコットさんがマーシリーケさんを上空へと打ち上げた!
『ワレならば上にいる蜂達を暫く撹乱させる事ができる。その隙にマーシリーケ、一成の順に打ち上げよ』
『限定解除』の超パワーで打ち上げられたマーシリーケさんはあっという間にはるか上空へ。その際、大鷲蜂の群れに突っ込んだが、何か混乱していた奴等は、突っ込んで来るマーシリーケさんをスルーした。
「よし、次はカズナリ!」
「はい!」
元気よく返事を返して、俺もイスコットさんに向かって走り出す!
先程のマーシリーケさんと同様に、片足が彼の手に乗った瞬間、勢いを利用して俺を上空に打ち上げた!
『おそらく、女帝母蜂や大鷲蜂の群れを越える高さで二人はかち合う。そうしたら、マーシリーケが空中で土台となって一成を女帝母蜂の方へ打ち出すのじゃ』
ぐんぐん上昇していく俺の肉体。
今だ混乱する蜂の群れを抜ける。さらに上昇していた俺の視界に、先に打ち上げられたマーシリーケさんの姿があった!
「カズナリ!」
すでに落下してきている彼女に向かっていく俺は、体を半回転させて足を向ける。落下してくる彼女の足と、上昇していく俺の足が空中でドッキング!
「いっけえぇぇぇぇぇぇっ!!」
気合いと共に蹴り出された俺は、巨大な女帝母蜂に向かって加速していく!
『最後は女帝母蜂の意識外からの一撃で仕止めよ!』
すさまじい勢いで女帝母蜂に向かう俺は、再び体を半回転させ、蹴りの体勢をとって突っ込んでいく!
「ラァ○ダアァァァァァ!キイィィッックゥゥゥッッ!!!」
某特撮ヒーローの必殺キックを叫びながら、俺は夜を切り裂く流星の如く、女帝母蜂の頭部に着弾した!
堅い害骨格が砕ける感触があった!次いで柔らかい頭の中をえぐる感触!
その中を突き進み、またも堅い害骨格を破壊して、俺は再び外気に触れた!
頭部に風穴を開けられた女帝母蜂!しかし、破壊の余波はそれだけに止まらず、ぽっかり口を開けた風穴を中心として亀裂が走り、女帝母蜂の頭部を爆発、四散させた!
断末魔の声すら上げる事が出来ず、頭部を失った女帝母蜂は噴水のように体液を撒き散らしながらゆっくりと崩れ落ちる。
地響きを立ててその巨体が倒れるのと、勢い余った俺が地面に激突したのは、ほぼ同時であった。