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よーし、じゃあ何をすればいいんだ?
ビール瓶切り?氷柱砕き?制限時間内に木像を一定数破壊?
とあるゲームの超必殺技を覚えるボーナスステージみたいな修行を想像するも、ニュアリから返って来たのはもっと簡単な答え。
『いえいえ。私の奥義のイメージを主殿に送りますので、それをトレースしてください』
うん?随分と楽だな……。
『敵の眼前ですからね。いずれ脳内組み手の際にみっちりと行きますが』
それもそうか……よし、それじゃあ頼むぞ!
すると、俺の頭の中に技を振るうニュアリの姿と技のイメージ映像が流れ込んできた。
ワンポイントアドバイスも入った親切なチュートリアルもあって、その奥義の全容を俺は理解する。
「なるほど……よし!行くぞ、レイ!」
受け取った奥義ヤーズイルに放つ為に、俺はレイに命令を下す!
『はい!』
元気よく答えたレイと俺が同時に叫んだ!
「『神器形態:青龍偃月刀!』」
ニュアリの奥義を使うために、槍をもっとも適した形へ!
『突く』為に特化していた槍の穂先が大きく歪み、幅広で湾曲した『斬る』刃へと変化を遂げる!
文字通り、青龍偃月刀へと姿を変えたレイを一振りして具合を確かめ、俺は地魔神に向かって刃を向けた!
先手を取ろうと先に動いたのはヤーズイル!
そんな奴に対して……まずはこう!
魔力をレイに纏わせて大きく振り抜く!
すると空を斬りながら飛翔した斬撃がヤーズイルの肉体に裂傷を刻む!
「オラオラオラオラオラァ!」
間髪入れず、次々と飛ぶ斬撃と放ってヤーズイルをどんどん切り裂いていく!
だが、ヤーズイルの動きこそ止まったものの、倒すには至らない程度のダメージしか与えられていない。
それを奴もわかっているのだろう、にやにやと余裕の笑みを崩さずに俺の斬撃が止むのを待っていた。
だが……。
「仕込みは終わりだ」
最後の斬撃を放ち、俺は力を込めて大きく振りかぶった。
その隙だらけに見える体勢に、ヤーズイルが拳を叩き込むべく駆け出そうとして……その表情が驚愕に染まる!
「動かなかった」のではなく、「動けなくなっていた」為に。
魔力を孕んだ風が、渦を巻いてヤーズイルの肉体を包んでいる。
俺の放っていた斬撃は、そこに込められた魔力によってヤーズイルの体を切り裂きつつも、奴を縛り、その場に縫い止める楔になって動きを封じていた!
「ギイィ!」
次の一撃をかわせないと判断したヤーズイルが、力を込めて肉体を硬質化させる!
だが……無駄だ!
振り下ろされた刃は円を描くような軌道でヤーズイルの体をすり抜ける。
そして次の瞬間!
爆発的な衝撃を伴い、肩口から胸下までを袈裟斬りに両断された地魔神の半身が、断末魔の表情に歪みながら宙に待っていた!
『絶招……関帝顔良斬!』
ヤーズイルを両断した奥義の名をニュアリが口にする。
……多分、三国志の関羽が顔良を斬ったエピソードから取ったネーミングなんだろうけど、なんでそこから?
つーかそれ、明らかに俺の知識から得た名前だよね?
ひょっとして、今まで名前なんて無かったんじゃないのか……。
まぁ、「必殺技」には名前があった方が気合いと力は入るもんだけど。
残心してヤーズイルが完全に動かなくなった事を確認し、ようやく力を抜く。
最後に「顔良滅ぶべし……」とポツリと呟いたニュアリの心の闇を感じるが、過去にイケメンと何かあったんだろうか……。
別にヤーズイルがイケメンだったわけではないんだがなぁ……。
まぁ、少し釈然としない気持ちは置いといて次の標的、上空から俺達を見下ろす天魔神へと視線を移す。
歌声にも似た声で発動した魔力の光線が雨のように降り注ぐ!
今の俺なら当たりはしないし捌く事も容易だが、いかんせん反撃の手段が乏しい。
槍を投げて外れたりした目も当てられないし、どうしたものか……。
『……私の出番ですね』
俺にそう呼び掛けてきたのは、魔術師の骸骨兵、トーバーだった。
だが、魔法の始祖と言える天魔神相手に、魔法が通用するのだろうか?
『……相手の土俵に上がりつつ、それを凌駕して勝利する展開……熱いでしょう?』
イエス!大好物だ!
『であれば、我が奴の動きを止めよう』
響く声と共に、鎧の背面から剛弓に矢をつがえた腕が伸びてくる。
確か……骸骨戦隊のスナイパー、長弓使いのオストー!
『左様。ちなみにカラーは緑だ主殿』
スケルトンジャー・グリーンって事ね。
声だけ聞くと結構シブイおっちゃんみたいなのに、ノリがいいなぁ。
『ぬうん!』
オストーの剛弓から射ち出される矢がコルノヴァに向かう!
物理攻撃など避けるまでもないとタカをくぐっていたらしいコルノヴァはかわす気配すら見せない。
たが、奴の予想に反してコルノヴァの羽に突き刺さったオストーの矢は僅ながらのダメージを与える!
『ハハハ、どんどん行くぞ!』
魔力によって作られるオストーの矢は次々と射ち出され、警戒したコルノヴァは防御魔法を展開してその場に釘付けになっていた。
よし、今がチャンス!
「『神器形態:魔法の杖!』」
再び槍の穂先が変化し、大きな宝玉のように丸みを帯びた球体になる。
そして杖となった槍の柄を地面に差し込んで手を翳す!
……あ、でも俺、魔法なんて使えない。
どうしたものかと戸惑っていると、
『……魔法の構築と発動は私が。……主殿は引き金を引いてください』
すかさずトーバーがフォローを入れてくれる。
これは……ありがたい!
『……私の最大の秘術。……この身に宿る十三の魂の力を魔力に代えて敵を撃つ』
ヴォンという虫の羽音みたいな音が鳴り響き、俺の周辺に色鮮やかな魔方陣が次々と展開していく!
オストーが引っ込み、俺達の様子に気づいたコルノヴァも防御……もしくは反撃の為に魔方陣を構築して力を溜め始めた!
『……エネルギー充填……ターゲットロック……トリガーセット』
確認しながら囁くようなトーバーの声に合わせて、光が溢れ、照準スコープが展開し、銃を模した発射トリガーが現れる!
それと同時に俺のテンションもガンガン上がっていく!
フハハ!まさか異世界でこんなSFチックな射撃シーケンスを体感できるとは思わなかったぜ!
コルノヴァが一手早く魔法を放つ!
近づいてくる敵の魔力を前に、トーバーが叫んだ!
『……主殿!』
「応っ!」
トーバーの呼び掛けに応じて、俺は思いきり引き金を引いた!
『……超魔法……憂鬱な十三日の金曜日!!』
トーバーの最後の詠唱により解き放たれた強大な魔力の奔流が、指向性を持って撃ち出される!
って、ちょっとネーミングが不吉過ぎやしない?ニュアリといいトーバーといい、なんなの?
厨二ネーミングは良いとして、どんな闇を抱えてるっていうんだっ!?
なんかもう、皆の心の黒い物を集めた風にも見えてしまう魔力の光弾が、コルノヴァの魔法を物ともせずに飲み込み、消滅させて奴に向かって突き進む!
自動的に発動する天魔神の魔法防御も軽々と打ち砕きながらその身体に着弾し、光弾は内部に渦巻く魔力の嵐の中にコルノヴァを引き込んで、切り刻み、磨り潰し、飲み込みながら膨脹していく!
「ア"あ"ァァァぁァ…………」
『……ジ・エンド』
トーバーの言葉と同時に極限まで膨らんだ超魔法は、太陽のような光を放ってコルノヴァの断末魔の声をも掻き消していった。