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なんだ、あれは……。
バロストは目の前で起きた出来事に驚きと興味を抱かずにはおれなかった。
つい先程までヤーズイルに押さえ付けられ、満身創痍だった一成。
それが、まるで別人格の言葉を語るような一人言を仲間達と交わしたと思ったら、いきなり回復して立ち上がった。
しかも、神器と融合するようにして、黒っぽい軽装鎧は白を基調とした全身鎧へと変貌を遂げる。
この世界に来てからしばらく経つが、ここ数日の驚きの数々は今までに感じた物以上だ!
ラービという少女が一成の代わりに『蟲の杖』に操られた時にも「ひょっとして蟲脳の……」と推測するのが楽しかった。
レイという少女が「新しい七槍の英雄」ではなく、神器そのものの化身だと解った時もワクワクした。
一成という少年を煽ればいくらでも立ち向かってきて、彼が見せる様々な技に感心させられた。
天魔神や地魔神といった、英雄さえも一蹴する存在の強大さを計ることにも彼等は一役買ってくれたのだ。
そんな彼等がまた立ち上がり、魔神達と戦ってくれるという。
どんな事をするのか、どこまで戦れるのか?
そして……敗北した彼等を切り刻み、あらゆる処置を施して観察すれば、どんな新しい知識を得られるのか……。
バロストの知的好奇心を刺激し続ける一成達に、一種の愛情すら覚えながら、彼は愛しの実験動物達の動向を見守っていた……。
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さて……ラービな残念なネーミングは却下したものの、やはりこの力には名前を付けた方が今後やり易いだろう。
うーん、『限定解除』を越える能力……うん、『限界突破』なんてどうだろう。
『ありきたりじゃのう……』
『私は良いと思いますよ』
自身の付けた名前が却下されて、少し拗ねたようなラービと、賛同するレイの声が響く。
まぁ、こういうのはあまり奇をてらい過ぎてもなんだしな。
そんな感じで、鏡代わりのスライムの前で軽くポージングを決めていると、イスコットさんが呆れたような雰囲気で声をかけてくる。
「大丈夫なのか……随分と余裕みたいだが……」
言われてみれば、確かに。
しかし、この状態になってからというもの、奴等から受けていた、押し潰されてゲロを吐きそうなくらいのプレッシャーがほとんど感じられなくなっている。
「大丈夫、いけますよ……」
力強く頷いて、俺は二人に背を向けた。
「行ってきます!巻き添えを食わないように気を付けてください」
と、注意を促しつつ、鼻唄でも唄いそうな気分で魔神達に向かって歩き出した。
「イヤァァオッ!」
一声吠えて、ヤーズイルが突進してくる!
振りかざす奴の拳は英雄をも打ち砕く必殺の一撃で、本来ならなんとしてでもかわさなくてはならない。
だが、その一撃を俺はあえて受け止めるよう、ガードを固める!
慢心したわけではない……止められる確信が俺にはあった!
振り抜いたヤーズイルの拳は、爆発したような轟音と衝撃を周囲に撒き散らす!
……その渦中、俺はガードを固めた左腕一本を持ってその一撃に耐えていた!
正直な所、結構痛かった。
だが、先程までだったら明らかに死んでいたであろう攻撃に耐え抜いた事で、肉体面で地魔神に勝るとも劣らない強靭さを発揮していることが証明できた!
受け止めはしたが、そのまま拳で圧迫してこようと力を込めてくるヤーズイル。
その力を流すように俺はするりと軸をずらし、懐に潜り込んで『頂心肘』を叩き込む!
「ゴゥッ!」
小さく呻いて僅かに下がるヤーズイルに、追いかける様な槍の一撃を見舞う!
寸での所で避けられはしたが、捻り込むようなひねりを加えたその攻撃は、地魔神の表面を軽く抉り取った!
ほぼ互角の一合に、ヤーズイルの顔から笑みが消える。
「ゴオアァァァッ!」
再度、雄叫びを上げ地魔神が怒濤の攻撃を仕掛けてきた!
目茶苦茶に拳を振り回しているだけのように見えるが、かなりの破壊力を秘めたその攻撃は、当たれば手痛いダメージを受ける事は受け合いだ。
俺はその嵐をいなし、捌きながらも時に反撃をくわえて地魔神の力を削いでいく事に集中する!
二つの竜巻がぶつかり合うような攻防の中、僅かにではあるがヤーズイルが笑ったのを俺は見た。
それと同時に、背後に感じる天魔神の気配!
背中越しに後方を見ると、俺を挟み込む様にヤーズイルと対角線上に位置取ったコルノヴァが強大な魔法を発動させようとしている姿が飛び込んでくる!
やっべえ!
いくら神獣の外殻+神器の魔法耐性があっても、あんなのまともに食らったら大ダメージを受けるに決まってる!
発射される前に身をかわそうとするも、ヤーズイルがその動きを牽制して大きく逃げる事が出来ない!
なんだよ、大昔には天魔神と地魔神は争ってたんでしょ!
こんな時ばっか連携とか取ってんじゃないっつーの!
そうこうしている内に、歌うような声と共に死を呼ぶ光線が俺の背中目指して解き放たれる!
しかし、大気を切り裂きながら飛来したその魔力は、俺の背後に突如展開した魔力の壁に防がれて対消滅してしまう。
え?一体、誰が防御を……。
突然の出来事に辺りをキョロキョロしていると、頭の中に声が響いた。
『……大丈夫、主殿は私達が護る』
この声は……骸骨戦隊の一人、スケルトン・パープルことトーバー!
『……覚えていてもらえたのね……恭悦至極』
喜んではいるようだが、淡々とした話し方なんで本心かどうかは解らない。
でも、今の防御は助かった!
しかし……呼び出されても無いのによく魔法防御が使えたな。
『……まぁ、一部を具現化してますから』
え?
言葉の意味がよく解らず、ぐっと首を回して背中を覗くと……鎧の背面から、魔法の杖を握る骸骨の腕が生えているのが見えた。
うおおっ、なんじゃこりゃ!
隠し腕ってレベルじゃねーぞ!
だが、鎧から生えてくる骸骨戦隊の腕はそれだけに留まらない。
両肩のパーツから、それぞれ左右にバスターソードと重盾を構えた腕が生え、さながら多腕の阿修羅の如し!
ヤバい……かっこよすぎる……。
『スケルトン・ホワイト!バスターソードのフリル!』
『スケルトン・グレイ!重盾のジーユ!』
『『我等、主殿に助太刀いたします!!』』
少女のような声色のフリルに、シブイおっちゃんを思わせる声のジーユ。
ちゃっかり自己紹介しながら、骸骨戦隊の二人が加勢してくれる事になった。
つーか、これも『限界突破』の恩恵なのか、それともパワーアップした神器の力なのだろうか……。
まぁ、どちらにしろ、護りと攻めの手が増えるのはいいことだ!
俺はコルノヴァの魔法攻撃からの防御をトーバーに任せ、速攻でヤーズイルを仕留めるべくフリル、ジーユの両者と、一気呵成の勢いを持って地魔神に攻めかかった!
手数に勝る俺達は、徐々にヤーズイルに傷を負わせる事に成功していたが、全く奴の勢いに衰えは見えず、地魔神のタフネスっぷりを改めて思い知らされる。
この『限界突破』にもおそらくタイムリミットがあるだろうから、短期決戦が望ましいのだがこれでは……。
優勢ながらも爆弾を抱える状況に、僅かな焦りを感じる。
と、その時、
『こうなれば大技を持って一撃で仕留めてみてはどうでしょう?』
そう提案してくる声があった。
この声は確か……骸骨戦隊の青龍偃月刀使い手、スケルトン・レッドことニュアリ!
『左様』
左様って……。
でも、大技って言ってもなぁ……。
素手ならなんちゃって拳法でもなんとかなるけど、槍術なんて知らんし……。
『安心してください!今なら我が奥義を簡単、親切に伝授いたします!』
むう、超必殺技伝授……そういうのもあるのか……。