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…………ん?
なんか今、声がダブった?
口から出た言葉と、頭の中に響いた声に違和感を覚えてハッとする。
『ぬぅ……なんなんじゃ、一体……』
またも呟くこの聞きなれた声は……。
「ラービ!お前、生きてたのか!」
『ぬ?……あ、ワレ生きてた!』
自分でもビックリしながらラービが叫ぶ。
いや、自分の事じゃねーか!それくらいは自覚しとけよ!
それにしても、いきなりの復活過ぎる。
嬉しいけれど生きてたならもっと早く教えてくれよ。
お前が死んだと思って悲壮感にまみれたり、めっちゃキレたりしてシリアスな雰囲気出してた俺がちょっとバカみたいじゃないか!
『いやいや、ワレたぶん本当に死んでたのよ。なんでいきなりの生き返れたのかの……?』
不可解そうなラービの言葉に俺も首を傾げる。
そして、突然一人言を始めた様に見える俺に、全員が首を傾げた。
「ひょっとして……ラービが今、カズナリの中にいるのか?」
大丈夫だよね?壊れた訳じゃないよね?ってニュアンスを込めてイスコットさんが訪ねてくる。
『うむ。心配をかけたようだの』
俺の中のラービは大きく首を縦に振るも、もちろんその声はイスコットさんには届かない。
だから壊れた訳ではないですよと疑いを晴らすためにも、ラービの言葉を代わりに伝えた。
『ラービ姉様……ご無事で何よりです』
槍形態のレイが念話でラービに話しかける。
『ワレが居ない間、よくぞ一成を護ってくれた。礼を言うぞ』
『御主人様と戦に赴くのは私の務めですが、御主人様の背中を護れるのはラービ姉様しかいません。御主人様の為にも、姉様の復活は喜ばしいです』
『フッ……ヌシはあくまでも一成が基準よな』
『それは姉様も同じではありませんか』
あはは、うふふと笑い合うラービとレイ。
でも、それが俺の口を通して皆に伝えられるもんだから、端から見れば自画自賛の脳内劇場を垂れ流してるみたいで……その、皆が俺を見る目が辛い。
「ひとまずはラービが復活したのはめでたい」
嬉しそうにラービに語りかけるハルメルトや、それに答えるラービ(の言葉を伝える俺)を見てイスコットさんが笑みを漏らす。
しかし、すぐさま険しい表情に戻ると、キッと魔神達とそれを操る英雄の方を睨み付けた。
「状況は最悪のままだ……せっかく復活出来たのに、また死ぬことになるかもしれない……」
絶望させる訳ではなく、ただ事実のみをイスコットさんは告げる。
そう、確かに何も変わっていない。
皆、満身創痍で……あれ?
グー、パーと手を握ったり開いたりしてみる。
……痛くない。痛くないぞ!
そういえば鼻血も止まってるし、目も霞んでいない!
いつの間にか回復している!
だが、なんで……。
『一成……ヌシ、ワレが死んでる間に、何かおかしな物を摂取せなんだか?』
ラービに問われて、思い当たるのはひとつ。
「あー、地魔神の肉を食ったわ」
『うわぁ……』
引くな引くな。
半分は奴等に食われたお前の為の意趣返しだったんだからな!
『少し引いたが、これでワレの復活と一成が回復した理由がなんとなく解った』
なんとなくとは言いつつも、確信めいた口調でラービは断言する。
『神獣の祖であり上位種となった地魔神の肉を食らうという行為……それが全ての答えよ』
あー、だろうな。
流れからいってそうだとは思った。
狙った訳ではなかったけど、まぁ結果オーライってやつだな。
思わぬ回復ができてラッキー!位に思っていたのだが……続くラービの言葉に一同がざわつく事になる。
『あの魔神ども……なんとかなるかもしれんぞ』
オイオイ、マジか!
復活したてのテンションでその気になってるだけじゃなかろうな!
俺と同様の心配をした皆の注目が、代わりに話している俺に集まる。
『一成……ヌシは感じぬか?この身に宿る深い力を……』
深い力……?
言われて俺は目を閉じて内面を探るように意識を集中する。
………………うん、解らん!
本当にそんな力があるのかと怪しんでいると、
『確かに……御主人様とラービ姉様から今までとは違う力を感じます……』
レイまでそんなことを言い出した。
『始祖へと至る根源の力……そして神を食らいし者こそが、神を殺す力を得る……』
急に厨二っぽいことをラービが言い始める。
なんだよそりゃ……かっこいいじゃないか!
『こういうバックストーリーがあるとやる気が出るじゃろう?』
適当に言っただけかい!
ツッコミながら、かっこいいと思ってしまった自身の厨二マインドにちょっと照れたりする。
『ラービ姉様のおっしゃる事もあながち間違いではないかもしれません』
ラービの発言に、間に入ったレイの賛同する。
『魔神の肉を取り込んだ人間に覚醒した神獣、そして神器!三位一体の今ならば、魔神を凌駕することが出来るかもしれません!』
ブルリと身体が震える。抑えきれない武者震いに心が粟立つ。
んんっ!なんとも燃える展開だな!
漫画やアニメじゃお約束と言えばお約束だが、ワクワクが止まらねぇぞ、オイ!
皆の見守る視線を受け止めながら、俺達は立ち上がり魔神と対峙するために踏み出す!
そして、彼女らの言う「深い力」を覚醒させるために、呼び掛けた。
「いくぞ!」
『応っ!』
『はいっ!』
深呼吸をし、思い浮かべるのは『限定解除』の時の鍵を外すような感触!
そしてその向こうの側に至る扉を開くイメージ!
神獣の力が体内に満ちて、神器の力が身体を覆う。
内と外の両方から収束する力を纏めあげ、俺という存在がひとつ上の段階に到達するのを認識する!
ああ……刻が見える……。
……時間にすればほんの数秒。
その僅かな時間が無限に感じられるような奇妙な感覚を覚えながら、俺はいつの間にか閉じていた目をゆっくりと開く。
ふうぅぅ……。
深く息を吐き出して、ゆっくりと呼吸した。
今の心境は、まさに明鏡止水のごとし!
穏やかな心持ちで皆の方に視線を向けると……誰、この人?みたいな目線を向けられていた。
えぇ……なんか傷つく……。
「カ、カズナリさん……ですよね?」
恐る恐る尋ねてくるハルメルトに「左様」と返すが……なんでそんなことを聞くんだ?
「あ、あの、これを……」
そう言って彼女が示したのは、表面を磨いた、鏡のような形態のスライム。
言われるままにそれを覗き込んで……
「誰だ、この人!」
思わず叫んでしまった!
そこに映っていたのは、例えるなら骸骨をモチーフにした完全武装の鎧武者!
白と黒のシンプルな色合いながら、醸し出される不吉っぽさが強キャラ感を醸し出していた。
どことなくアメコミヒーロー的なセンスも感じられながら、和風でまとめたデザインが俺の心にクリティカルヒットしてくる!
ニンジャ・スタイルから一転、サムライ・スタイルへ!
これが……進化というものかっ!
『私の力が神獣の鎧と融合して、この姿に変化しました』
レイの言う通り、この鎧からは神器の力を感じる。
そして、全身に沸き上がるような今までにない、この力……。
『これこそ覚醒した神獣と、神器と、人が織り成す究極の姿!』
熱の籠った口調でラービが叫ぶ!
『名付けて!神獣神器・カズナリガー!!』
……すまん、ラービ。
彼女の付けるネーミングに、俺とレイは静かに却下を叩きつける事しかできなかった……。