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インセクト・ブレイン  作者: 善信
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まるでロボット物の漫画やアニメで外装をパージしたように、今までの身体かわが弾けてその下から現れたのは……全裸のコルノヴァとヤーズイルだった。

一見、まっ裸になっただけかよ!とツッコミが入りそうだが、見た目の変化は現れている。


コルノヴァは健康的だった褐色の肌やあらゆる体毛が白磁のように白く染まり、塗装前の等身大フィギュアみたいな、作り物じみた見た目になっている。

対してヤーズイルは、やや浅黒い肌になっていた。

……ヤーズイルの説明がおざななりなのは変化が少ないからであって、決して全裸のコルノヴァに目を奪われていたからでない事をここに記しておく。


「は、はは……い、色が変わった、だけじゃないか……」

2Pカラーかっつーの……と強がっては見たものの、乗ってくる奴はいない。

皆も……そして、俺自身も解っていたんだ。

これからだという事を。


「……始まるよ」

バロストの呟きに呼応したように、コルノヴァ達が瞼を開いた!

眼球の無い、底無しの穴のような暗い瞼を!


次いで始まった変化は劇的だった!

ヤーズイルの胸元から皮膚が捲れ上がり、その下からはうねる蛇のを思わせる筋組織が這い出て来る!

伸びて束ねられ、どんどん太さを増して巨体を形作っていく筋肉の塊が、その隙間から沸き上がってくるゴムのような光沢のある新しい皮膚に覆われていき、まるでラバーで包まれた類人猿みたいな外見になっていく。

ディフォルメされたゴリラを思わせるバランスで、どんどん身体が大きくなっていくヤーズイル。


そんな野性味を帯びていくヤーズイルの変化とは逆に、コルノヴァの変化は荘厳さを感じる物だった。

胸元の皮膚が破れ所は同じだが、内部から布地のような皮膜が溢れ出してくる。

さらに背中を突き破った骨が羽へと変化して行き、まるで天使を連想させるシルエットを形成していった。

その姿こそは神々しかったが、血飛沫を撒き散らしながらの変化はかなりおぞましい。


二人の変体が終わった時……俺達は言葉もなくその姿に見入っていた。


体長が五メートル程に膨らみながら、頭から肩口までは元のままといったアンバランスな姿となったヤーズイル。

例えるなら「某機動戦士シリーズで、処女厨である幻獣の名を冠する作品のラスボス機体」っぽい外見の獣だ。

赤ではなくて黒いカラーリングだが。


コルノヴァの方は、裾まで四メートルはありそうなドレスを纏っているようにも見える。

さらに背面に大きな羽や光輪を背負い、フワフワと浮いている姿は、まるで「派手過ぎる衣装とセットでどんどんえらい事になっていく某演歌歌手」を思わせた。

違いはレーザーやドライアイスの演出が無いことくらいか。


人っぽい部分を残しつつも明らかに人では無い者達は、ただそこに居るだけでとんでもない圧力プレッシャーを感じさせた。

正直な所、こうして対峙しているだけで吐くか漏らすかしそうだ。

はっきり言って、逃げていいなら一目散に逃げ出したい。


「お、おい、ティーウォンド!あの『天魔神』と『地魔神』ってのはなんなんだ!」

目の前の化け物について、英雄とか呼ばれる存在なら何かを知っているかもしれない。

そんな俺の問いかけに、冷たい汗を流しながらティーウォンドは口を開いた。


「て、『天魔神』や『地魔神』というのは、神話の類いに記されている異世界の神々だ……かつてこの世界を滅ぼさんとした邪悪な存在を討ち滅ぼすために、この世界に召喚されたという……」

異世界の……神々?

じゃあ、俺達の上位互換って感じの存在か!

「喚び出された彼等は邪悪な存在を倒した。しかし後に人々も巻き込んで争う事になり、その戦いでこの世界の人口の九割は失われたそうだ……」

マジかよ、めっちゃ迷惑だな……って言うか、コントロールできんモノを喚ぶなよ!

「長い戦いの中、『天魔神』についた者達は、彼等の知恵と魔力を与えられ神器を創り英雄の祖となった。また、『地魔神』についた者達は魔人の祖となり、彼等が使役する魔獣から神獣へと進化する物が現れたという」

なんてこった……つまり奴等は、この世界で人間を越える者達、全ての生みの親とも言える存在だって事か……。


「概ね彼の説明通り、天魔神と地魔神はこの世界の人外の始祖だ。とは言え、この二人はまぁ……六割方の天・地魔神といった所だがね」

バロストは得意気に語るが……これで六割?

なら完全な天・地の魔神はどれだけの力を持っているというのだろう。

だが、良いことを聞いた。不完全ならそこに付け入る隙がある筈だからな。

もしかしたら、コントロールも出来ないかもしれないし。


「ちなみに、あえて六割に抑えてある。彼等を操るには人間の部分を残さないといけないからね」

操れんのかよ!

調子こいたバロストが暴走したコルノヴァ達に攻撃されて死亡……みたいなパターンは期待出来ないか……くそっ!

しかし、これ以上の物が出てこないというなら全力で当たれば活路は見えるかもしれない。

なら有効なのは……全力で当たる、最初の一撃!


奴等の初動に合わせられるよう、いつでも『限定解除リミット・オーバー』を発動できる準備をして敵の動きを注意深く見守る……。


が、次の瞬間!

大地を揺らす雄叫びと、空気を切り裂く金切り声が響き渡った!

ほんの一瞬だけ、身体がすくみ集中が途切れる。



……突然。黒い塊が眼前に迫っているのを知覚した。


死の悪寒が駆け抜け、反射的に『限定解除』を使って全力でガードする!

凄まじい衝撃にガードごと吹き飛ばされ、俺は周囲を囲む氷壁に激突してようやく地面に転がる事ができた。

食らったことはないが、トラックに轢かれたらこんな感じなんだろうか……そりゃ、異世界に転生もするわ……。

俺が激突した為に砕け、降り注いできた氷の塊の下敷きにならなかったのはラッキーだったのだろう。

ダメージは大きかったがなんとか立ち上がり、そうして漸く何が起こったのか理解した。

俺がさっきまで居た場所、そこに拳を振り抜いた体勢のヤーズイルが佇んでいたからだ。


ハッとしたように皆がその場から離れるが、コルノヴァの声が

大気を切り裂く光の刃となって放たれ、俺達の背後に広がる森に大きな痕を残した!

幸い、誰にも当たりはしなかったが、万が一当たっていたらと思うとゾッとする。

いきなりの強大な力を見せつけられて呆然としている俺達の耳に、不快な声のような物が届く。

そちらに目を向け、それがコルノヴァとヤーズイルの笑い声だということにやっと気づいた。


鉄面皮でクールなイメージだったコルノヴァと、学校のデキる講師を思わせたヤーズイルが、まるで性的絶頂を感じているかのような、ぐちゃぐちゃに歪んだ表情で狂ったように笑っている。

そんな二人にバロストは問う。


「いかがですか、ヤーズイル殿。溢れんばかりの力を振るう感想は?」

「アビャヒャハハハ!ザ、ザイゴゥ!だのしずぎるぅ!」

ゲラゲラ笑いながらヤーズイルは踊るように跳ね回る。


「どうだい、コルノヴァ君。沸き出る魔力を自由に放つ感触は?」

「ギボヂイイィでずぅ!もっど、もっどダシだいぃぃっ!」

身をくねらせながらコルノヴァが叫ぶ。


目の前の光景にくらくらする……。

現実が非現実に侵食されるような気持ち悪さを感じて、ダメージとは別に息苦しくなっていく。


己の研究成果に満足げな表情で頷いたバロストは、スッと俺達を指し示す。

「さぁ、ヤーズイル殿にコルノヴァ君。君達の遊び相手が待っているよ」

その言葉に、ピタリとコルノヴァとヤーズイルの笑みが消える。

油の切れた機械仕掛けの人形みたいにバロストの指差す方向、つまり俺達の方に二人は顔を向けた。

そしてにんまりと顔を歪めると、再び狂気と快楽のない交ぜになった笑い声を漏らし始めた。

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