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インセクト・ブレイン  作者: 善信
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グロい!そしてキモい!

アンデッドのような「動く死体」ではなく、「死んでるレベルなのに生きている」状態の人間に話しかけられると、その不自然さと違和感がハンパじゃない!


「お、お前、まさか既にアンデッドだったんじゃ……」

ここしばらくゾンビばかりと戦ってきた為、もしやと思って聞いてみる。

「ふふ……まざか……ちゃんど生きでいるよ」

時おり濁る言葉が聞き取りにくい。しかし、奴は生きているとはっきり告げる。

そして、ふと気がついた。

まるで逆再生のように、奴の捻れた首、折れた腕などがみるみる回復していくのを!


「いやはや、げに恐ろしきは蟲脳インセクト・ブレインと言った所か……危うく死ぬところだった」

ものの三十秒程で完全に元通りとなったバロストは、驚愕している俺たちを尻目にどこかうっとりした表情で独り言のように呟く。


蟲脳?そういえば、確かに奴もそうだと言っていた。

だが、あんな超再生能力なんて聞いたこともないし、実際俺達は持っていない。

それによく考えて見れば、奴の肉体は蟲脳とは思えない程、脆く貧弱だった。

教授、これは一体……。

あまりの不可解さに、俺は思わず知らないどっかの学者を思い浮かべて問いかけていた。


「今の超再生はこの世界では既に失われた魔法、『継続式自動回復オート・リジェネイト』という」

空想上の教授ではなく、目の前のバロストが解説してくれた。

「この『星の杖』と蟲脳による魔力強化によって復活した失われた筈の超魔法……素敵だよねぇ」

陶酔してる所を悪いが、いま聞き捨てならない事を言わなかったか?

蟲脳による魔力の強化とかなんとか……。


「そうだ、カズナリ少年!君が予想した通り、蟲脳は身体強化だけではないのだよ!」

つい、何か聞きたそうな顔でもしてしまったのだろうか、バロストは名指しで俺が疑問に思った事に答えた。


「君たちのような脳筋……いや、肉体言語に訴える考えの足りない奴等とは違い、私は根っからの学者肌で魔法職が性に合っていた。そんな私が、必要以上に頑丈な肉体など欲する訳がない」

大袈裟な身ぶり手振りを加えて、まるで舞台の演者のように振る舞いながら、さりげなくディスってくる。

「蟲脳を得たにも関わらず、ただの生け贄として果てた連中とは違って私は生き残った。さらに自分の得意分野を伸ばす事に成功しただけでなく、この世界の謎を紐解く手懸かりとなる神器を手に入れたのは偶然ではない!」

グッと溜めて……恍惚の表情でバロストは語る。


「これは神が私に世界を解き明かすようとの導きだ!私にはこの世界のあらゆる物を研究対象とする義務と権利があるのだよ」


……はいキタよ、これ。

いよいよ神とか世界とか言い出しちゃいましたよ。

まぁね、俺だってこの世界に来た時は「俺が世界を救う番が来たか……」とか厨二な事を考えたりしたけどね。

でもいい大人が厨二丸出しな事を言い出すと、こんなにも悲しくなるなんて知らなかったよ……。

挙げ句、自分勝手な正当性を根拠に非合法な事にも手を染めるサイコパスとか、現代日本ならポリス案件待った無しだな。


「ちなみに、コレも失われた古の魔法だ」

……ん?

くるりと杖を俺達に向けたバロストの周辺に、輝く文字で形成された魔法陣が浮かび上がる!

「発動まで時間と手間がかかる分、こいつは強力だぞ。私も使うのは初めてだ」

今まで呪文や魔法陣をキャンセルして魔法を使っていたバロストがそれらを必要とするからには、かなり大がかりな魔法だというのは解る!

しかし、そんな魔法陣を作る暇なんて……あ!

あれか、能書きを垂れながらの大袈裟な身ぶり手振り!

わざとらしく演じる事でこちらに気取られず、こっそりと魔法陣を構築していたのか!


「気付いたようだが、もう遅い。さぁ、受け取ってくれ……」

くそっ!完全に一本取られた!

魔方陣が輝きを増し、バロストの前に光が集まって球体状になっていく!

離れていも、凄まじい熱量を感じるヤバさのその魔法に、この鎧は耐えきれるだろうか……。


「その鎧は無事かもしれないが、装着者であるカズナリ少年とラービ女史は耐えられないだろうな……」

またも俺の考えを見透かしたかのようにバロストが告げる。

ちくしょう!

物理ダメージに強いラービの事も考慮しての大魔法か!


「食らいたまえ!『ファイル・アトミック……』」

バロストの眼前に具現化した魔力が凝縮されさらに熱量を増す!

だが、魔法が放たれようとしたその時!

突然、地面から無数の氷の刃が出現し、発動寸前の光球に次々と突き刺さっていく!

絶え間なく現れるその刃は、光球に消滅させられながらもみるみるその熱量を奪っていき、やがてバロストの魔法を掻き消す事に成功した。


「……やってくれるじゃないか、さすがは『五剣』といったところか」

悔しいと言うより、感心したようにバロストは呟く。

ヤバそうな魔法が中断された事に安堵していると、俺達の上方から高らかな声が掛けられた!


「アンチェロンが英雄、五剣の一人!『轟氷剣』のティーウォンド・バング、ここに参上!」

氷壁の上から俺達を見下ろし、ティーウォンドが堂々と名乗りを上げた!

と、そちらに目が行っていた僅かな隙を突いて、反対側から魔法の一撃と弓矢がバロストを襲う!

残念ながらその攻撃は、奴の防御魔法らしきものに弾かれて不発に終わったが、その攻撃を放ったのは……。


御主人様かずなりさまの忠義の槍!レイ及び盟友の骸骨戦隊スケルトンジャー、ここに推参!」

ティーウォンドと対角線上の氷壁に陣取ったレイと二体の骸骨兵が、やはり堂々と名乗りを上げた!

つーか、特撮ヒーロー的な登場の仕方はどこの世界でもデフォなんだろうか……。


「……僕も何か名乗りを上げた方が良かったのかな……」

俺が砕いた氷壁を乗り越えて、ひょっこりイスコットさんが姿を現す。

いや、アイツ等のノリに付き合わなくてもいいですよ。


こうして再び集った俺達は、またもバロストを包囲する。

今度はあの転移魔法による不意打ちも通用しないぜ!

……こうなると、バロストの対面に位置する俺達が何か決めゼリフを言った方がいいかもしれない。

べ、別に、威風堂々と名乗りを上げたレイやティーウォンドが、ちょっとカッコ良かったからという訳ではないんだからね!


「「チェックメ……」」


バロストを指差して「チェックメイトだ」と言おうとした俺とラービが完全にダブる。

互いに合わせていたつもりはなかったので、思わず言い淀んでしまって、これは……恥ずかしい。

真っ赤になって顔を見合わせた俺達は、無言のジェスチャーで決めゼリフを言う権利を譲り合う。

しかし、この状況で決めゼリフを言い直すには死ぬほど硬いメンタルが必要となる……。


……ええい、俺も漢だ!

「チェックメイトだ、バロスト!」

意を決して決めゼリフを言い放つ俺に向けられる視線は冷たいし、周りの空気は重い。

まぁ、ラービが向けてくる「やだ、カッコいい……」的な雰囲気が唯一の慰めか……。


「ふむ……状況はスベったカズナリ少年以上にピンチだな」

スベった言うなや!

たが、状況判断は出来ているようだな。ここは大人しく……。

「たが、こちらも切り札は間に合ったぞ!」

ニヤリと笑って、バロストは言う。

切り札?それは……。


ドクン!と鼓動の音が響いた!

その瞬間、背筋に悪寒が走る!


バロストがスッと両手を広げて魔力を放つと、地面に倒れ伏していたヤーズイルとコルノヴァの身体がフワリと空中に浮かぶ

だが、二人の身体は、死語硬直でもしてるのかと言いたくなるほどガチガチに固まっていた。


「蛹の時間は終わり、二人は羽化を迎える……」

バロストの言葉に呼応するかのようにヤーズイル達の身体が内側から膨張しはじめ、大きく膨らんでいく!


「刮目せよ!太古の超生物、『天魔神』と『地魔神』の復活だ!」


バロストの宣言と同時に、二人の身体の表面に細かいひび割れが走り……そして弾けとんだ!

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