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でかあぁぁぁぁい!説明不用っ!
特撮なんかで見た怪獣そのままの女帝母蜂の出現に、思わず興奮してしまった!
身の丈二十メートルほどだろうか。五階建てビルより巨大なそいつは、森の木々をなぎ倒しながら村の方へと進んでくる。
いや、いくら蟲脳で身体能力がアップしたり、『限定解除』といった切り札があってもアレの相手は無理だろう。ただでさえ素手での戦い方が基本になってる俺では文字通り手も足も出ない。
ここは一つ、ファンタジー世界でお馴染みの魔法が実在する世界から来た、イスコットさんとマーシリーケさんにお願いしよう!
あんな奴、やっちゃって下さいよ!
「私、回復魔法しか使えないし……」
「僕、付加魔法しか使えないし……」
はい、詰んだ。打つ手なしです。
こうなったらなんとか逃げるべきだが、周りは無数の巨大蜂の大群に、そいつらのボスである女帝母蜂。只でさえ数の不利が効いてるのに、こっちはなぜか反撃も出来ないと来たもんだ。
……くそっ、無理ゲーすぎるだろ!
せめて反撃が出来れば活路が開けるかもしれないのに……。
「あなた達……一体、何者なの?」
イスコットさんに担がれたスライム召喚士の少女が口を開いた。その物言いに、カチンと来てしまう。
まぁね、いきなり自分の村が巨大蜂の大群に襲われて壊滅した挙げ句、急に助けが来たと思ったら、あんな怪獣じみたのまで出てくりゃ訳がわからんだろうさ。俺だってその立場なら混乱する自信がある。
だが、生け贄にした加害者が被害者に対して「あんた誰?」とか言ったら、被害者としちゃ腹も立ちますよ、実際!
「俺達が何者かだって?あんたらに突然、召喚されて生け贄にされた、ついてない異世界人さ!」
怒りを滲ませた俺の言葉に、スライム少女はあからさまに顔色を変えて震え出す。
報復される心当たりがあり、その心当たりに生殺与奪の権限を握られていたら、青ざめもするわな。
「それじゃあ……あなた達が大鷲蜂や女帝母蜂を呼んだっていうの……」
ちょっと待て、なんでそうなる!
突然、訳のわからない事を言い出したスライム少女に、イスコットさんもマーシリーケさんも、訝しげな顔をする。
大鷲蜂ってのは、この村を襲った巨大蜂の事だろう。しかし、なぜそれを俺達が連れてきた事になる?
「こ、この村で生け贄に巣食わせててるのは大鷲蜂の幼虫だもの……」
ああ、なるほどね。普通なら生き餌として死んでるハズなのに何故か生きてて、村が襲撃されたタイミングで現れたら関連づけたくもなるか。
だが、無関係だバカ野郎!
「あいつらとは偶然鉢合わせになっただけだよ。ついでに聞くきたいんだけど、僕らはこの大鷲蜂に攻撃できないんたが、理由に心当たりはないかな?」
自分を担ぐイスコットさんに問われ、ビクリと体を震わせたスライム少女は言葉を選ぶようにしてゆっくりと答える。
「た、多分……同種に対してストッパーがかかっているのかも……」
そうか、だから大鷲蜂の攻撃を防いだり、捌いたりはできたけど反撃や攻撃ができなかったのか。そういえば、蜂達からの攻撃にもキレが無かった気がする。蜂同士で何かおかしいと感じて、同種を傷つけないよう互いに手加減していたのか……。
いい話だなー……ってなるか!
俺は頭に巣食う蟲に語りかけるように、自分の頭を小突きまくる。
ゴツッ!
おい!ストッパーとかふざけんな!このままじゃジリ貧だぞ!
ゴツッ!
蜂のままだってんなら、群れのために犬死にするのも有りかもしれんが、今は俺の脳代わりだろうが。
ゴツッ!ゴツッ!
俺はこんな所で死ぬ気はないし、お前だって死にたかないだろう!
ゴツッ!ゴツッ!ゴツッ!
生きるために俺の体まで強化したんだったら、ちゃんと生き残れるように、ふざけた枷を外しやがれ!
ゴツッ!ゴツッ!ゴツッ!ゴツッ!
『それもそうだの』
蟲脳に叱咤しながら頭を小突いていると、不意に何者かの声が響いた。そして、バチン!と何かが弾けるような衝撃が全身を襲う!
唐突な出来事にキョトンとしていると、そんな俺に目掛けて一匹の大鷲蜂が突っ込んできた!
かわすタイミングを失った俺は、反射的にカウンターを放つ!
グシャリと音を立てて、俺のカウンター頂心肘で頭を砕かれた大鷲蜂が地面に落ちる。
「あ……」
攻撃……できた。
突然、クリーンヒットしたカウンター攻撃に、攻撃した俺もだがイスコットさん、マーシリーケさんの二人も驚いている。
「カズナリ、どうしたんだ急に!」
「どうしていきなり攻撃できるようになったの!?」
二人が詰めよって来るが、俺にも今一、理由が解らない。
「い、いや。頭の中で誰かが……」
『そうだな、この二人の枷も外しておこうか』
狼狽える俺の頭の中に、またも謎の声が届く!
それと同時に、目の前の二人がビクンと体を震わせた。二人は少し呆けたように、顔を見合わせる。
「なに……今の衝撃……?」
「解らない……だが」
またも大鷲蜂が飛んでくる!イスコットさんは担いでいたスライム少女を地面に降ろすと、飛来する蜂を戦斧で一閃!襲いかかる蜂を両断した!
「どうやら、僕らも攻撃が可能になったみたいだ!」
スッキリしたように言い放つイスコットさん。
「いいじゃない……これで少しは生き残れる目が出てきたわ」
ニヤリと笑みをうかべるマーシリーケさんに、俺も頷く。
だが、その時!
ギシヤャャァァァァァァッ!!
ビリビリと空気を震わせて、女帝母蜂の咆哮が響き渡る!
その咆哮が終わると同時に、地上にいた全ての大鷲蜂が上空へと舞い上がり、巨大な渦のように密集して旋回しはじめた。
「どうやら、あっちも完全に私たちを敵だと見なしたようね」
女帝の指揮の元、攻撃体勢に入る蜂達。さっきの俺達の反撃が切っ掛けになったみたいだ。
「君はさっきみたいにスライムで身を守るんだ。僕達がある程度、蜂の数を減らす」
「そしたら撤退ですね」
俺の言葉に、皆が頷く。
スライム少女が再びスライムを召喚し、防御膜を作り出す。その中にスッポリと少女が入ったのを確かめて、俺達は上空の蜂の渦を見上げた。
徐々に体勢を整え、渦が俺達に向かって伸びてくる。
数千の蜂&怪獣vs人間三人
絶望的戦力差ではあるが、血路を開いて生きるために、俺達三人は走り出した!