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当たり前だが、魔術師相手には接近戦での短期決戦あるのみ!
バロストが魔法を使うにしても、威力のでかい魔法を使うよりも俺が近づく方が断然早い!
仮に足止めの小技を使ってきても、神獣の素材で作られているこの軽装鎧を身に付けている俺にはかすり傷ひとつ付けられやしないだろう。
フハハハ!真っ先にたどり着いたのが俺だった、己の不幸を呪うがいい!
大人しくしているなら、痛くないように気絶させてやろうと悪役的な優しさを見せようと一歩踏み込んだその瞬間!
突如、足元で爆発が起こり、俺は後方にひっくり返ってしまった!
何?もしかして今のは地雷?
慌てて自分の足を確認すると、とりあえずは無傷!
サンキュー、神獣製の脚甲!
「あれ?足首くらいまで吹っ飛ぶと思ったんだけどな……」
小首を傾げてバロストが呟く。やはりコイツの魔法だったようだ。
「さっき君達をばらまいた後、この辺りには今みたいな魔法のトラップを仕掛けさせてもらっている。一発くらいなら大丈夫みたいだが、迂闊に突っ込んで来れば酷いことになるぞ」
地雷原を作るとか、なんて凶悪な真似を……。
元の世界での地雷の効果については、ネット知識程度ではあるけど知ってるはいる……結構、ろくでもない戦法を取りやがるな。
「他にも色々と仕掛けをしている。悪いことは言わないから、羽化が終わるまでしばらくじっといていた方がいいぞ」
まるで俺を気遣うような物言いだが、奴の言う「羽化」とやらが無事に終了したところで、状況は好転したりはしないだろう。
だったら強行突破あるのみ……と行きたい所だが、やつにたどり着くまでに俺の体が持つだろうか?
この軽装鎧なら魔法防御の力も強い。とは言え、立て続けに爆発を食らえばどれだけ持つやら……。
奴にたどり着いても、満身創痍で戦えないんじゃ意味がない。
くそっ……せめてもう一人、味方がいてくれれば……。
「フハハハハハッ!」
弱気になっていた俺の耳に、唐突に笑い声が届く!
大体予想はつくけれど、いったい何者だ!
広場を見下ろす氷壁、その上に立つ一人の人物!
忍者を思わせるような俺と通じる外装ながら、女性らしいプロポーションを浮かび上がらせているその影の正体は!
「光ある所に影あり……」
静かな口上を告げ、バッ!とキレのいいポージングを決めて高らかに宣言する!
「良妻系美少女戦士、ラービ!夫のピンチに即参上!」
前もって仕込んであったんだろう。
ラービの背後で派手な爆発が起こり、それと同時に飛び降りた彼女は猫のようにふわりと着地した。
ラービといい、レイの骸骨兵達といい、なんで特撮ヒーローっぽい演出に拘るのだろうか。
これが異世界との文化の違いというやつか……。
「グッドタイミングだったようだの、一成!」
俺にウィンクしながら親指を立てるラービ。
いや、「お前、出てくるタイミング見計らってたろ」とか「ポーズの練習とかどんだけしたんだ」とか「良妻だの夫だの先走り過ぎだ」とか色々ツッコミたい事はあったが、ドヤ顔してるコイツを見てたらどうでも良くなった。
「ああ、うん……助かるよ、一人じゃヤバかったし」
これはまぁ、本音だ。
だが、疲れたような俺の言葉にラービは頷きながらポンと肩に手を置く。
「んもう、ヌシはワレがいないとダメだのう……安心するがよい、ワレがずっと支えてやるからの!」
……えぇ?
なにこのテンションの高さ。
妙にウキウキとしてしているその様子は、先程の怒鳴ってしまってションボリさせた時とは雲泥の差だ。
「お前……なんだってんだ、そのテンションの高さは?」
もうストレートに聞いてみる。
するとラービは、ちょっとだけ恥じらうように頬に手を当てて俺から視線を外した。
「バロストに飛ばされてからの、ここに来る前に一度レイと合流したんじゃ……」
そうだったのか……。しかし、レイの姿が見えない所を見ると、イスコットさんのように自分が殿を務めてラービを先に行かせたって所かな。
「その時、レイから聞かされた……。不覚にも『蟲の杖』に操られたワレを、ヌシが必死で止めてくれた事を」
うん……まぁ、確かに頑張ったよ。
「そ、その時な……ヌシがワレの為にどれだけ一生懸命だったか、どんな事を呼び掛けていたのか……それを……教えてもらった」
もじもじと顔を赤らめ、ついには両手で顔を完全に覆ってしまう。
……いや、照れてるとこ悪いんだが、実際にやっていたのは時々呼びかけながら高速タックルで転がしていただけなんですけど……。
どんだけ話を盛ったんスか、レイさん!?
つーか、アイツも自分の戦闘でいっぱいいっぱいで、俺の戦い見てなかったろうに!
まぁ、気を使ってくれたんであろうレイの心遣いを無下には出来ないので、否定はしなかった。肯定もしないが。
それにしても、今のラービの態度を見ていると、ティーウォンドの行動に振り回されていた自分が馬鹿らしくなってくる。
もっとコイツを信じてアタフタしなければ、アイツが姑息な手を使って来ようとも余裕で対処できたかもしれないな。
うん、その辺の経験は今後に生かすとして、いまは目の前の戦闘だ!
「いやいや、お熱いねぇ。これが若さというものか」
やや呆れた感じで俺達のやりとりを見ていたバロストは、「コントは終わった?」と確認するように声をかけてくる。
ふん、心配するな。こっからは手痛い反撃を見せてやるぜ!
「それにしても、地雷のようなトラップ魔法か……厄介であるな」
そう、それに他にも何か仕掛けているらしい事を言っていたのが気になる。
本来なら俺達が飛ばされてから、ここに戻って来るまでの数分で大がかりなトラップなんて仕掛けられる筈もない。しかし、魔法というのはそれを可能にしてしまうから、奴の言動がハッタリだと断言も出来ない。
「いっそ、正面から突っ込んで行くか……?」
「おいおい、なに言ってんだ」
無茶は止めろと言いかけた俺の言葉を制して、ラービが語る。
「別に無茶ではないぞ。この鎧にこの体……恐らく、あらゆる攻撃に対して無敵の防御力を有しているハズだからのぅ」
そうか……魔法防御に優れた神獣の鎧に、物理的な攻撃に強いスライムベースの肉体……確かに、完璧に近いかもしれない。
ううん……本来なら女の子を盾代わりにするような作戦には反対だが……。
「なぁに、適材適所と言うやつよ。ワレを信じて任せるがよい!」
そうまで言われちゃ、信じるしかない。
無理はするなよと忠告しつつ、ラービを前衛としてバロストの元まで突っ切る事で決まった。
「もう少しで時間なんだから、その場で休んでてもらった方がいいんだけどなぁ……」
やれやれとバロストは肩をすくめる。
そんな余裕もこれまでだ!
「行くぞ、一成!」
「おう!」
走り出すラービに俺も続く!
バロストに十数メートルまで迫った時、ラービの足元でまたも爆発が起こる!
飛ばされそうになるラービの体を支えて、その様子を伺うと
「……行ける!」
ニヤリと笑みを浮かべて、ほぼノーダメージであると伝えてきた。
よしっ!
そしてラービは足元で起こる爆発を物ともせずに突き進む!
まるで人間地雷撤去車両か、着ぐるみを忘れた怪獣映画である。
流石のバロストも、「嘘だろっ!」と叫んだ後に言葉を失ってしまった。
「くっ……閃光衝撃波!」
進撃してくるラービを止める為に、またもバロストが強烈な光と衝撃を放つ魔法を使う!
「ぐっ!」
ラービも光に視界を焼かれ、思わず足が止まる!
その一瞬を逃さず、バロストの次の魔法が発動した!
「散弾地雷!」
奴の前方に光のプレートが出現し、次々と爆ぜる!と同時に無数の光弾がラービに撃ち込まれていった!