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「作戦タイ……は?」
唐突な俺の申し入れに、キョトンとしながらもとりあえず攻撃開始の合図を保留するヤーズイル。
よし!畳み掛けるならここだ!
「だから作戦タイムだよ!いいのか?このままじゃ俺達は圧倒的に不利だ」
「そちらはキメラ・ゾンビの集団に加えて英雄クラスが四人!それに比べてこちらは英雄クラスが三人と非戦闘員だ、それでお前が納得いくデータが取れるのか?」
「良いデータを取るためにはある程度の難易度が必要だろ?それとも答えが解りきった実験だけが趣味の探求者もどきか?」
とにかく、ひたすら捲し立てた!
あいつ、交渉事になると早口になるのが気持ち悪いよな……とか言われそうな勢いではあるが、上手いこと奴等の興味を引かなければ俺達は多分、死ぬ。
起死回生の一手を打つ為には、付け焼き刃でもチームワークを組んで連携を取らなければならないんだ。
だから……乗ってきやがれ!
「……よし、十分間だけ待とう」
よっしゃー!さすがは好奇心が服を着ているような連中だ!
なんとかこっちの提案に乗ってくれたぜ。心なしかワクワクしてるようにも見えやがる。
これでこちらにも希望が見えてきた!
さっそく円陣を組むようにして、俺は先程捲し立てながら考えた作戦を口にする。
「…………というのが、俺が考えた大まかな流れだ」
ざっくりとではあるが、さっき組み立てた作戦を説明してみた。
その作戦に、レイとハルメルトは納得したようだが、ティーウォンドは一人、しかめっ面を隠そうともしない。
「無茶苦茶な作戦だ。いや、作戦とすら呼べない!」
馬鹿馬鹿しいと言わんばかりに、大袈裟に首を振る。
なんだよ、何処がダメだっていうんだ?
俺が訪ねると、少し怒ったような顔でため息をつきながらティーウォンドは俺を睨む。
「お前の作戦には、前提となる戦力が足りない。少なくとも英雄以上の力を持つ者がいなければ成り立たない策など、机上の空論にすら成り得ないではないか」
半分呆れたような口調で俺の作戦を否定される。
いや、でもいるじゃん。英雄以上の戦力。
俺がそう告げると、
「まさかお前がそうだとでも?」
と、小馬鹿にしたような態度で聞き返してくるティーウォンドに、俺は一つ頷いて見せた。
「……本気で言っているのか?」
急に感情を圧し殺したように声のトーンを落として尋ねてくる英雄に、俺は再度頷き、ついでにレイも肯定するように首を縦に振った。
「御主人様の本気は英雄を凌駕します。まぁ、論より証拠。その目を持って確かめて見ればいいでしょう」
「むぅ……」
俺達が異世界から来たというだけでなく、『七槍』を倒した実績があるというのは奴も理解しているんだろう。
とはいえ、「英雄を越える」と言われても簡単にそれを認められる訳ないか……うん、まぁそうだろうな。
だが、レイも言っていた通り、まずは論より証拠を見せてやろう。
「どうせ、無策で突っ込めば全滅なんだ。阿吽の呼吸までは求めないから、簡単な連携くらい協力してみせろよ」
あえて挑発的に言ってみる。プライドの高い奴にはこう言った方が効果があるかもしれない。
「……いいだろう。その大言、どれ程のものか見せてもらう」
よし、乗ってきた。意外と簡単だな、英雄。
さて、ヤーズイルが俺達に与えた猶予はあと数分ある。となると……。
「それじゃあ、いくぞ!」
俺の合図に合わせて、其々が自分の担当すべき相手に向けて走り出す!
レイはラービへ、ティーウォンドはイスコットさんに、そして俺はキメラ・ゾンビの密集する肉の壁に向かって!
「まだ、時間があるぞ?」
ヤーズイルが意外そうに声をかけてくる。
うるせー!誰が貰った十分を丸々使うと言った!
少数が数に勝る敵に勝つにはいつだって奇襲が一番なんだよ!
「まぁ、読んではいたがね」
奴の言う通り、キメラ・ゾンビ達は俺を止めてから引き裂くべく重心を落として待ち構え、ラービとイスコットさんは不意打ちに近い、レイとティーウォンドの初撃をあっさり受け止めた!
だが、それでいい!
こちらの切り札は読めてはいまい!
カチリと頭の中で鍵が開くような音がした。
そして全身に力が溢れる!
あと一歩で奴等と接触するという所で『限定解除』の封印を解いた俺は、最後の踏み込みと同時に撃ち出された砲弾のような勢いでキメラ・ゾンビの集団に突っ込む!
何てことはない、ただのタックルだった。
しかし、そのタックルを受け止めて俺の行く手を阻もうとした最前線のキメラ・ゾンビが爆発したかのように砕けて飛び散っていく!
鋼鉄のような外皮を持つキメラ・ゾンビではあるが、俺が触れれば砕かれる為に当然ながら勢いは止める事はできない!
俺は爆散した個体の後ろにいた奴等を薙ぎ倒し、肉片に変えながらも集団の半ばくらいまで突き進んで行った!
まるで海が割れた伝説を再現するかの如く、俺の後ろにキメラ・ゾンビの体液と肉片で出来た道を築いてようやく俺は足を止める。
辺りは静かだった。
その場にいた全員が言葉をなくして、ただ佇んでいる。
……だよねー。そりゃ、ドン引きするよねー。
いくらなんでも、そりゃねーよといった力の差を見せつけた俺に向けられる周りの視線は、まるで化け物でも見ているかのよう。
やめて、ちょっと傷つく……。
唯一の慰めは、レイだけがキラキラと瞳を輝かせ「流石は私の御主人様!」って感じで称賛オーラを出していた事か。
おっと、傷ついている場合じゃない。
さらにキメラ・ゾンビの数を減らすために、近くにいたゴブリンがベースのを捕まえて、その身体を振り回す!ヒュンヒュンと風を切る様はまさに人間ヌンチャク!
「ゲェー!あの技は!」
「知っているのか、小娘!」
どっかで聞いたようなやり取りのつかみが聞こえて、思わずそちらに耳を傾けた。
「あ、あれこそは御主人様の元の世界でとある書物に記された『鬼を背に宿す、地上最強の生物』の奥義!」
「なにぃっ!そんな奥義が!」
いや……驚いてるとこ悪いが、ただの漫画に載ってた技だよ?まぁ、確かに常識外れだし漫画も書物と言えるけど。
そりゃ、普段こんな事をやろうとすれば無理だろう。
だが『限定解除』で超人的なまでにパワーとテクニックを増幅させれば出来るってだけで、大して凄い訳じゃない。
とはいえ、見た目は派手だしハッタリは効くだろう。
応援するようなレイと、驚愕しているティーウォンドはさておき、俺はどんどんキメラ・ゾンビを打ち倒していく!
だが、『限定解除』発動から一分ほど過ぎた辺りで、俺は手を止めた。
キメラ・ゾンビの残りはまだ十体ほどいたが、残念ながら時間切れだ。
「レイ!ティーウォンド!こっちと交代だ!」
後方の二人に呼び掛けると、ラービ達を相手にしていたレイ達はくるりと相手に背を向けて、俺の方(正確にはキメラ・ゾンビの群れ)に向かって走り出した!
俺は一足跳びに二人の頭上を飛び越えると、レイ達を追おうとしていたラービとイスコットさんの目前に着地する。
「悪いが選手交代だ。あの二人がヤーズイルを倒すまで……付き合ってもらうぜ!」
実際には残りのリミットは数分だが、それまでにレイ達がヤーズイルを倒す事を祈りつつ、俺は操られている仲間の前に立ち塞がった!