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インセクト・ブレイン  作者: 善信
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馬を駆ること約一日半。

バロストの言っていた通り、俺達の視線の先には明らかな人工物のシルエットが見えていた。


ここまで来るまでの間、本当に馬から振り落とされてダッシュで休憩ポイントになる町まで走る羽目になったり、その町でとった宿で怪しい動きをしていたティーウォンドを幻の右フックで眠らせたりと色々あった。

だが、この短時間で大した妨害もなく目標の場所まで来れたのは、やはりブラガロートが本腰を入れて排除しようとしていない事あったからだと思う。


「いやぁ、私の力もあったからだと思うよ」

……思考を読まれたかのように、ドヤ顔のバロストに声をかけられた。

タイミングがピッタリ過ぎて気持ち悪いが、考えが顔に出ていたのかもしれない。

いけない、いけない。もっと気を付けなければ。

……ここまで楽に進むことができた事に、バロストの協力もあったのは確かだ。

だけど、

「ふふふ、楽しい戦いの始まりだねぇ。良いデータが取れるといいなあ、コルノヴァ君!」

「はい。しっかりと記録は録っておきます」

まるでこれから始まるであろう死闘を見せ物気分で待ちわびるこの二人には素直に感謝や礼を言いたくないなぁ……。


なにはともあれ、間もなくブラガロートの英雄『蟲の杖』ことヤーズイルと会敵する事になるだろう。

寄生虫憑きのゾンビや、操られているイスコットさんの事を考えると、出来ることなら奇襲か何かの速攻で決めてしまいたい。

バロストは文句を言うかもしれないが知ったことか。俺達が無事に生き残ることの方が重要である。


極力、音を立てないように、自然に囲まれた不自然な建造物へと近づいていく。

やがて、円形に切り開かれ整地された広場と、その真ん中にそびえ立つ四階建てほどの塔のような建造物が姿を現した。

さらに、その陰には塔にも負けないくらい目を引く巨大な神獣

の死骸。

間違いなくここが『蟲の杖』ヤーズイルの本拠地だろう。


ううん……不謹慎かもしれないが、ワクワクしてきた。

鬱蒼とした森の奥にそびえ立つ敵の本拠地たる怪しい塔なんて、ファンタジー感バリバリじゃないか!

異世界ってんならそうこなくっちゃ!といったシチュエーションに期待と興奮がジワジワと沸き上がってくる。

頭じゃ落ち着かなきゃと解ってはいるのだけれど……でも、仕方がないよな。

異世界転移を夢想した事のあるおとこで、この状況に心踊らない奴がいるだろうか?

いや、いない!


奇襲による一方的な先手を取るつもりではあるが、できればゴーレムとか魔法生物のトラップを見てみたいな……等と密かに考えていると、ポツリと呟く声が聞こえた。

「そろそろいいかな……」

何の事かと声の主の方に目を向けると同時に、バロストの力ある言葉が発動した!


爆発魔法エクスプロージョン!」


上空に向けたバロストの手から放たれた魔法は、俺達の頭上で大きく爆発する!それと同時に爆音が響き渡り、俺達の居場所を周囲に知らしめた!


何やってんだ、お前ー!

突然のバロストの暴走に皆が一瞬戸惑いを見せた。その隙に、バロストは次の魔法を発動させる!


飛行魔法フラーイ!」


俺達が掴みかかるよりも一息速くバロストとコルノヴァは空中へと飛び上がった!


「さぁて、これで奇襲は失敗した。後は正面からのぶつかり合いだねぇ」

楽しそうな笑顔で俺達を見下ろしながらバロストは語りかけてくる。

くっ……確かに奴は俺達とヤーズイルの戦いを観たいとは言っていたが、まさかこんな強行手段にでるとは。

しかし奴等は、空中に舞い上がれば安全と判断したのか、フワフワと浮かびながら俺達が次にどんな行動に出るのか高みの見物を決めている。

だが、俺達に魔法のような遠距離攻撃が無いと思ったら大間違いだ!

「これでも食らえっ!」

俺の手からバロスト達に向かって小さな塊が投げ放たれた!

何て事はない、ただの投石である。しかし、ただの石つぶては弾丸のような勢いと威力をもって奴等に迫る!

だが!


防護障壁プロテクト


石ころはバロスト達に着弾する前に、突然現れた光の壁に阻まれて粉々に砕け散ってしまった。

ノーモーションで発動する今の魔法を使ったのは……

「コルノヴァ……」

障壁の魔法を使用した、バロストの助手である褐色美女の名を思わず口にする。


「そんな……英雄でもないのに魔法の詠唱無しで発動させるなんて……」

驚きに満ちた声でハルメルトが呟く。

「驚いてくれたみたいだね」

してやったりと言いたげな表情を浮かべるバロスト。

「私の助手なんだからこれくらいは出来るさ。まぁ、こういう切り札は隠しておくものだから黙ってはいたがね」

隠しカードが上手く使えた喜びみたいな物が伝わってきて、めちゃくちゃ腹立たしい。ちくしょう、降りてきやがれ!


「おおっと、私達にかまけていていいのかな?そろそろ騒がしくなってきたよ?」

バロストの言う通り、周辺の森の中で大量の何かが蠢き、ざわついているのが感じられる。

ここがヤーズイルの拠点ということを考えれば、寄生虫に憑かれた大量のゾンビがいる可能性が高い!

ただのゾンビならまだしも、寄生虫と融合したキメラ・ゾンビに発展しているとしてら、視界が悪いうえに木が密集して武器を振るいにくいこちらが不利だ!


「場所が悪い、一旦広場に出よう!」

声をかけた俺に全員無が賛同し、開けた場所まで一気に駆け抜けた!

広場に出た俺達は塔の方を警戒しながらも、まんまとあぶり出された格好の森へ目を向ける。

ざわざわと蠢くような森の中からこちらに向かってくる無数の影が見えた。

完全に包囲される前になんとかしなきゃと策を考えていると、ティーウォンドが周辺に小気味のいい音を響かせ、鞘から剣を抜き払った!


あれが……『轟氷剣』!

名前の響きとは逆に、レイピアを思わせるような細く優雅な刀身が陽光にきらめく。

イメージが違うな……と密かに思っていると、その細い刀身から凄まじい冷気が溢れ出し、バキバキと音を立てながら形を成していく!

あっという間にレイピアから氷の塊で出来たバスターソードへと変貌したそれは、まさに『轟氷剣』の名に相応しい猛々しい威を放っていた!


「うおおおおおっ!氷壁陣!」

気合いと共にティーウォンドが高く掲げた轟氷剣を地面に突き立てる!

それと同時に台地が揺れ、三メートル程の氷の壁がこの広場をぐるりと囲むようにして出現した!

おお、ナイスだ!

これでしばらくはゾンビの相手をしなくてすむ。

「やるのぅ、ティーウォンド!さすがは五剣の英雄じゃ!」

ラービに称賛され、ティーウォンドは大げさに返礼して見せる。あまりにわざとらしくてイラっとしたが、今は横に置いておこう。


「お見事、流石は五剣だな」

突然、塔の方から声がかけられた。

しかし、そちらに振りかえるも人影はどこにもない。

おや?っと思っていると、

「こっちだ、こっち」

自分の居場所を知らせようとする声が、塔の陰にある神獣の死骸の方から聞こえてきた。


そこにいたのはパッと見で五十代半ばほどの男。

豪奢な装飾で飾られた立派なローブを身に纏い、神獣に腰かけてこちらを見ていた。

落ち着いた中年と老人の境……と言った風貌とは裏腹に、その瞳は野望と好奇心に燃える二十代のような光を放っている。

そして、その手に握られた甲虫を形どったような先端部をした一振りの杖……。


こいつが……ヤーズイルかっ!


油断なく睨みあっていると、飛行魔法によって氷壁を軽々と飛び越えたバロスト達が、ヤーズイルの隣にふわりと降り立つ。

「おお、バロスト殿。うまい具合に奴等を誘導してくれましたな」

「これも私の研究結果を見るためですからね。それに彼等とは色々話せて、なかなか有意義でしたよ」

にこやかに言葉を交わす二人の『六杖』。

つーか、お前ら最初からグルだったのかよ!


「バロスト!貴様、傀儡虫とやらをヤーズイルに持ち出されたと言うのは……」

「もちろん嘘です」

食って掛かるティーウォンドに、あっさりと嘘だと認めるバロスト。

「傀儡虫は私からヤーズイル殿に性能実験も含めて私から譲渡したんだな、これが」

「お蔭で、神獣の死骸等というとんでもないお宝が手に入った。ありがたい事だ」

……なんだ、コイツら。

嬉しそうに話しているが、その行動のせいで甚大な被害が出ている事に罪悪感は無いのか?

「多大な被害を出したからこそ、私はしっかりと研究結果を出さなければと気持ちを新たにしているよ」

問いかけずにはいられなかった俺に、返ってきたのがこの答えである。

ダメだコイツ……早くなんとかしないと……。


もうさっさとコイツらを倒して事を終わらせる!

人数的に、非戦闘員のハルメルトを除いたらちょうど三対三……いや、向こうには操られているイスコットさんもいるか。そういえば姿が見えないな……。

まぁ、彼が出てこないなら好都合。思いきり暴れる事ができるってもんだ。

だが、戦闘モードに入った俺達とは対照的に、明らかにやる気が見えない魔術師チーム。

んん?何か策でもあるのか?


「悪いが、君たちの相手は我々ではない」

訳のわからない事を告げたヤーズイルが、俺達の後方を指差して見せた。

「君たちの相手はあっちだ」

その言葉に後ろを振り替えると、いつの間にか氷壁を乗り越えたゾンビが数体、俺達に目を向けながら佇んでいる。

「バカなっ!あの氷壁を……」

言いかけたティーウォンドの言葉が止まる。

同じくゾンビを凝視する俺達も一瞬、声が出なかった。

氷壁を越えたゾンビ達が醸し出す強烈な違和感のせいで。


それは人でも魔獣でもない。

「魔人……ゾンビ?」

ポツリと漏らした呟きが妙に大きく聞こえる。

人に近いが明らかに違う骸達が次々と氷壁を乗り越え、呆然とする俺達の前にどんどん集まっていた。

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