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インセクト・ブレイン  作者: 善信
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10

夜の森を駆け抜け、目的の村まであとわずかの距離まで来たとき、前方に違和感を感じた。

俺達が目指している方向が妙に明るい。なにやら嫌な予感に突き動かされて、速度をあげて村へ向かった。


村の手前の森の中から様子を伺い、そこに広がる光景に、俺達はただ茫然とする。

かがり火の如くあちこちから火の手があがり、色々な物が焼ける臭いが辺りに充満していた。

動く人影は無く、動かなくなった人だけが大地に転がっている。

何より俺達の目を引いたのは、村の上空に雨雲のように群がる数百、数千といった数の巨大な蜂達の姿。実際、その群れの羽音で雨でも降っているような音が俺達の耳を叩く。

「なんだよ、これ……」

思わず呟く俺に、二人も答えられない。

「村」は「村だった」場所となり、炎に彩られたその場所を支配する巨大蜂達は、すでにこと切れている元住民に執拗な攻撃を繰り返していた。


地獄のような村の現状に、俺達は迂闊に動けずヒソヒソと打ち合わせをする。

「はっきり言って、状況は良くわからない。だから生存者を探すか、撤退するかだけ決めたい」

イスコットさんの提案に、俺もマーシリーケさんも考え込んでしまう。

正直なところ、こんなヤバそうな場所はとっとと逃げ出したい。しかし、ここで撤退をすれば、俺達をこの世界に呼び出した召喚士と接触する機会が失われる事になる。

雌伏して次の機会を待つか、あえて火中の栗を拾うか……。


………………ぅ……………ぇ…ぇぁ………


俺達は同時に顔を見合わせた!

か細い……小さい声ではあったが、それは確かに人の泣き声。

生存者がいる。そう判断した俺達は、一斉に森から飛び出し、村へと突入する!燃える建物や、俺達に気付いた巨大蜂をかわして、一路泣き声のした方向に走る!

「蜂には構うな!生存者を確保したらバラバラに逃げて拠点で落ち合おう!」

「わかったわ!」

「了解です!」

方針を決め、生存者を救うべく走る俺達に、巨大蜂の一団が迫る!

それを蹴散らすために、イスコットさんは愛用の斧を振りかざし、俺とマーシリーケさんも走りながら迎撃するために蜂の動きに注意を向ける。


俺達を補足した数匹の蜂が、飛来してきた。

幸い、奴等の動きはそう早くはない。絶好のタイミングでカウンターを打ち込もうとしたその時!

突然、俺の腕は動かなくなり、打ち落とそうとした蜂が腕の鎧部分をかすめて行った。

ビリビリとした鎧越しの衝撃に少し顔をしかめて、腕のダメージを確認する。

グー、パーと何度か拳を握り直し、異常がない事は解った。だが、さっきの金縛りみたいな感触は何だったんだ……。

疑問は晴れないが偶然かもしれないし、ボーッとはしていられない。再び飛来して顎と毒針で襲いかかってくる蜂の攻撃をかわし、捌いていく。よし、普通に動く!

今度こそカウンターを食らわせてやるために、敵の攻撃が途切れるタイミングを見計らって、拳を振るった!


……くっ、ダメかっ!

またも俺の拳は蜂に当たる寸前で動かなくなり、眼前の蜂に悠々と逃げられてしまう。ちくしょう、どうなってるんだ……。

よく回りを見れば、イスコットさんにマーシリーケさんも俺と同じように、攻撃をする事ができず、ひたすら防御か回避に専念していた。

「何よこれ……こんなの今までは無かったのに」

やはり、訳もわからず攻撃を封じられる事に戸惑い、苛立ちながらもマーシリーケさんは巨大蜂の攻撃を捌いていく。

「とにかく、反撃出来なきゃ勝負にならない!何となくだが、襲ってくる奴等も本調子じゃなさそうだし、さっさと用事を済まそう!」

イスコットさんの言う通り、蜂の攻撃にはキレが無いと言うか、戸惑いがあるというか……?

周りや上空には数えきれないほどの巨大蜂がいるにも関わらず、攻撃に参加するのは決まって数匹だ。動きもトロいし、一度距離があけば追ってこなくなる。

すでに虫の息だったり、死んでいる村の住民には執拗に攻撃を加えていた狂暴性を見ている身としては、なんだが違和感を覚えてしまう。


まぁ、敵からの攻撃が緩いならば歓迎すべき事態だし、今は生存者の確保が最優先。早く発見しなければ……って、なんだありゃ?

俺の視線の先では、何十匹という巨大蜂が群がって団子状になったものが道の真ん中に鎮座していた。気になって様子をうかがうと、群がっている巨大蜂のうち、数匹が何かに毒針を突き立てている!

「イスコットさん!マーシリーケさん!」

二人を呼び、蜂玉にくっついている巨大蜂を引き剥がしていく。抵抗らしい抵抗を見せずに、はがされて投げ捨てられる巨大蜂達。やっぱり何かおかしいな、コイツ。

やがて蜂玉の下から現れたのは、半透明で球体型の粘液体スライムと、その中で怯える一人の少女だった。

よし、生存者発見!あとはこの粘液体から出して……って、この女の子は!

忘れもしない、憧れのクラスメートに擬態した粘液体をけしかけ、ファーストキスは粘液体でしたという黒歴史を俺に刻み込んだ、粘液体召喚士!

ここで会ったが百年目!あの時の屈辱を……っと、今はそれどころじゃない。とっとと退散しなければ!お楽しみは後に取っておこう。

イスコットさんが斧で粘液体を切り裂いて、中にいた少女を引っ張り出す。

「おい、大丈夫か?」

蜂に襲われた恐怖はかなりの物だったらしく、しばらくして呆けていた彼女は、ようやく目をパチクリさせて辺りを見渡し、イスコットさんに答えるように頷いた。

「よし、撤収!作戦通り、バラバラに逃げるぞ!」

言うが早いか、彼女を担ぎ上げて…………そこで動きが止まった。同じように、俺とマーシリーケさんの動きも止まる。

俺達が見つめるその先に、蜂のような、蟻のような姿をした、とてつもなく巨大な蟲の姿があった。


「うそ……女帝母蜂マザーなんて……」

イスコットさんに担がれた粘液体召喚士の少女が思わず呟く。

この村を襲撃した巨大蜂のリーダーである女帝は山のような巨体を揺らし、地響きを立てながらゆっくりと村の方へ近付いてきていた。

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