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冒険者になりました

前回は自分の処遇で取引されました。

 話の一通り終わった登録担当者は、神殿騎士達を引き連れて、受付を出ると階段を上って別の階へと消えた。

 さっきまでの緊張感が消え去った事に、扉越しではあったが健太はホッと胸をなで下ろした。


「話は途中からでも聞こえていたと思うけど、ケンタのカードを受け取ったら、教会を出て冒険者ギルドで冒険者登録するから、そのつもりでいてね」


 リタは健太の居る背後の扉へ振り向きもせずに、既に決定事項であるかのように、それだけ告げると受付の方へと向かった。

 健太も急いで扉を開けて、リタの待っている受付に戻ると、すぐに身分証明カードが発行されて受け取ることになった。


 名前:ケンタ・アカツカ

 種族:人


 他には何も書かれていない、軽さからしてアルミっぽい金属の小さな板が健太の証明カードだった。

 てっきり自分のステータスとか、そういうのが表示されるのかと思ったが、最低限の事しか表示されなかった。


 教会を出たリタと健太は、教会の入り口で揉めた神殿騎士に、盛大な舌打ちをされて見送られながら、教会を後にした。


 教会周辺は、来たときと同様の異臭で、一秒でも早く脱出したくなる環境だった。

 健太は、冒険者ギルドがどこにあるのかとリタに尋ねると、基本的に各種ギルドは大通りに面しているということだった。


 理由としては、各種ギルドは一般利用者だけではなく、貴族や王族、徴税官などの国を管理する側の立場の者達が足を運ぶ事があるからだ。

 その為、馬車を止めるスペースも作れないような場所には、ギルドを作ることが認められていない。


 そうなってくると、街の中でも広い通りに面している場所に限られてくるのだ。

 そうとわかれば、とばかりに、健太は最初に来た街の門付近まで猛然と駆けていった。


 もっともリタの方は焦るわけでもなく、普通のペースで歩いて戻ったので、健太は門付近の邪魔にならない場所でしばらく待つ羽目になった。


 健太はリタが数分経って戻ってくるまでの間、街壁に背を預けて通行の妨げにならないようにして、周辺地理情報をマップに落とし込む作業をしていた。

 周辺の地理に関してはイメージすれば、その時々で必要な情報に切り替えられて、自分の望む場所に表示される。


 しかし、それだと常にコロコロと切り替わるイメージのせいで、本当に必要な目的以外で意味を果たさなくなる。

 そこでメニュー機能に新たに加えたのが、マップ機能だった。


 これは、あらかじめ登録しておいた地理情報を、いつでも好きな時に閲覧する事を可能にするものだ。

 メニューを閉じている状態でも、マップと口にするか、メニューのマップをイメージすれば出てくる。


 そして、今落とし込んでいる内容は、このベンゾの街の俯瞰図だった。

 地理情報でも俯瞰図をイメージして、それをマップに反映させているということだ。


 既にリタが、この街の解析を終えた後なのか、地理情報で俯瞰図を呼び出すと、建物の名称が自動的に表示されていた。

 指定した建物にポイントを合わせると、その建物に住むか働いている人の数と名前などの詳細な情報がびっしりと出てくる。


 当然自分と関わりもない人の名前なんて見るつもりも覚えるつもりもない。

 だから、マップには建物の名称だけが書き込まれている俯瞰図を取り込むことにしていた。


 さっき、リタが教会周辺には結界が張られていて魔力による干渉をあまり受け付けない、というような事を言っていた。

 じゃあ、地理情報の俯瞰図はどうなっているのかというと、これが凄まじい勢いで文字が書き込まれていた。


 見ている間に、細い路地までが網羅されて、明らかに廃屋にしか見えなかった場所も、一応は誰かしら住んでいる家もあったようで、家の持ち主の名前も更新されていった。

 どのような手段で情報の更新をしているのかは、健太にはわからなかったが、少なくとも徒歩で一軒一軒を回って解析をしているわけではないだろう。


 大体、教会の情報にしても、そうだ。

 教会で実際に見たり歩いた場所は地上一階部分と地下の一部だけだった。

 それなのに、教会にポイントを合わせると、教会の建物構造や詰めている人数に名前にステータスに、と何でも把握出来るようになっていた。


 これが数名の情報だったら、実際に見た人物だけだったのだろうと解釈も出来た。

 それが百人単位で情報が出てくるとなると、実際に見なくても、ある程度の距離まで近づけば情報を抜き取ることが出来るってことだ。


 ふと地理情報の俯瞰図に、リタの存在を表示させられるのかと考えてみると、即時青い点が表示されて、それが真っ直ぐにゆっくりと移動しているのがわかった。

 では、自分の表示もされるのかと試すと、これも普通に点が表示された。


 そうなると、これはもう、最初から自分にはリタから逃げる術などなかったということにならないだろうか。

 リタは最初に能力をくれた時、解析には少々時間がかかるから待って、とか言っていた。


 三日もあれば、惑星全体の大まかな情報は把握出来る、とも。

 そして、その三日とやらは、既に講義を受けていた期間で過ぎ去っている。

 そこから割り出される答えは、あの幼女万能過ぎじゃないですか、選択肢がなさ過ぎて怖い、だった。


 健太の待っている所に、リタが戻ってきてからすぐに、冒険者ギルドへと向かった。

 歩くこと数分で辿り着いた。


 途中で何かのイベントが発生したりすることもなかった。

 冒険者ギルドの建物は、平屋石造りの建物で、扉はなくて入り口が開いているだけだった。


 マップの俯瞰図で確認すると、周りのギルド建物と大きさに関してはあまり異なる点はないようだった。


 このベンゾの街では農業が盛んと聞いていたから、農業ギルドが幅を利かせていたりするのかと思ったが、そういった派閥間というか、ギルド間における差異を見た目だけではわからないようになっていた。


「一応、ここが冒険者ギルドの建物だね。一応、と付くのはギルドの建物は、年契約になっていて、領内での貢献度によって、毎年ランク分けされて、引っ越しするから」


 冒険者ギルドの入り口に入る前に、リタからそんな事を言われた。

 毎年引っ越ししないといけない物件とか非効率な事この上ない。


「既にマップを見ているだろうから、わかると思うけど、ギルドの建物がある程度均等な大きさなのは、建築規格が決まっているから。それとギルド自体、教会の管理下にあるわけだから、当然面倒な手続きとかは神様の祝福とかで簡単に済むのね。


 建物内の生物を出した後で、このギルドは向こうの建物、このギルドはあっちの建物とか、ちょいちょいと操作をするだけで、中にある備品とかを一斉に入れ替えて転送が出来るんだってさ。


 で、建物から得られる神様の祝福っていうのがあるから、毎年どこのギルドも自分達のランクを上げる事に必死なんだよね。っていうわけで、私はここで待っているから、ケンタだけで登録を済ませてきてね」


 リタは、いってらっしゃい、と健太の事を突き飛ばすようにして、冒険者ギルドの建物内に蹴りこんだ。

 リタに背を蹴りで押された健太は、いざ建物内に入ってみると、そこはこざっぱりとした役所だった。


 よくあるテンプレート的な、昼間から酒を飲んでいる冒険者達がたむろしている酒場に、ポツンとギルドの受付カウンターがあって、そこで冒険者登録をしていると、新人いびりの冒険者達が酒臭い息を吹きかけながら絡んでくる、そんな雰囲気は一切合切何もなかった。


 まず、入り口から入るとすぐの場所に、番号板を持ってお待ち下さい、と書かれている大きめの棚が置かれていた。

 その棚にびっしりと木で出来ている板があり、それに番号が割り振られていた。


 きちんと棚の左上からお取り下さい、と注意書きがされていた。

 健太は、注意通りに板を手にして、入り口近くに居ると、他の冒険者に迷惑がかかると思って、少し前に進んだ。


 奥を見ると、横一文字にカウンターが並んでおり、十人の受付嬢ではなく、ギルド職員が座って仕事をしている。

 若くて綺麗な受付嬢など、ただの幻想に過ぎなかった。


 健太は能力のせいで下手に視力が高い為に、カウンターに居る職員が、どの人も経験豊富に見える中年のおじさんやおばさんばかりだった。

 ただ、番号板を持って、適当な椅子に腰掛けたり、壁に背を預けている冒険者達の中には、女性の冒険者も居るようだった。


 そう、綺麗な、とか可愛い、ではない。

 女性の冒険者も居た、それだけだ。

 それと異世界だと実感出来る事が他にもあった。


 ギルドまで来る途中もそうだったが、獣の耳や尻尾を持っている獣人というような人達も割と居た。

 猫耳と尻尾、犬耳と尻尾、そのパーツだけを見れば、可愛いと思うだろう。


 しかして、何故かその多くというよりは、現在冒険者ギルド内で健太の目に入ってくるのは、その全てが立派な戦国武将のような髭をたたえたおっさんばかりに、そのパーツが付いているのだ。

 最早、誰得という奴だ。


 しばらく待つと、自分の持っている番号が呼ばれて、健太は受付へと向かった。


「はい、番号板をお預かりしますね。本日担当いたしますハークと申します。それで、どのようなご用件でしょうか」


 ハークと名乗るギルド職員は、年齢は35歳、種族は人で、仕事柄重たい素材を扱うこともあるのか、そこそこにがっしりとした筋肉質の身体をしていた。

 髪の毛は、やはり中世ヨーロッパ系の世界観なのか、若干赤茶けた色で、耳が隠れる程度までで切り揃えられていた。

 そして、言うまでもないだろうが、男性職員である。


「冒険者ギルドに登録を行いに来ました」


 健太は、何かここには出会いも希望もテンプレも何もかも期待出来そうにない、と諦めて事務的に伝えた。


「では、教会から発行されている身分証明カードを提示していただけますか」


 健太はジャージのポケットから出したフリ、実際はポケット内でアイテムボックスを発動させて、身分証明カードを出して、ハークに預けた。

 ハークはそれを確認すると、カウンターの下から一冊の本を取り出した。


「では、アカツカ様はどこのギルドにも所属されておられないようですので、冒険者ギルドへの登録をさせていただきますね。尚、冒険者ギルドに加入されますと、脱退するまでは他のギルドに所属することが出来なくなるのをご承知下さい」


 健太は別に今のところ、他のギルドに入る予定もないので、それは首肯でこたえた。


「それでは、身分証明カードに情報の登録をさせてもらいます。尚、こちらの冊子は冒険者になられる方に無料で配っているマニュアルです。ギルドの規約、ギルドの利用方法、権利、義務、ランク、低ランクの採取対象と討伐対象の詳細など、必要な事は全て書いてありますので、この後時間がある時にでもお読み下さい。


 それと、紛失した際に購入される場合は、金貨10枚必要になりますので、なるべく無くさない方が良いです。本は貴重で価値のある物ではありますが、こちらの本は教会謹製ですので、転売をされますと捕まります。では、カードをお返ししますね。それではまたのご利用お待ちしております」


 健太はハークから身分証明カードと冒険者マニュアルという本を受け取って、冒険者ギルドを出た。

 ここまでで、本当に何もテンプレ展開は無かった。


 上下紺色のジャージに裸足という事に、もう少し何か反応があっても良いんじゃないか、とか、この世界だと珍しい黒髪黒目なんだから、そこを指摘するとか、呆気ないほどにあっさりと冒険者登録が出来てしまった。


「おかえり、ちゃんと登録は出来たかな。ん?テンプレ展開が無くてガッカリした?あははは、そりゃあそうだよ。テンプレっていうのは、ショウタからの又聞きだけど、異世界だったら定番となっている出来事とか、そういう奴でしょ。


 まず、ギルド同士でのランク争いがあるって言ったでしょ。それのおかげで、ギルドに所属していない新人っていうのは期待の星なのよ。それがどんなに役立たずに見えようと、極端な話赤ん坊でも文句言われる事はないね。


 そんなものにちょっかい出して、新人潰しなんてしたら、ギルド職員から、その加害者へ処分が言い渡されるわ。だから、そういう展開はどちらかというと他のギルドに所属している者が、何の用事もなく冷やかしに来た時の方が発生するわね。


 だから、私は中に入らずに待っていたわけよ。冒険者ギルドに依頼を出すなら構わないんだけどね」


 健太はリタにそんな事を笑われて、登録が出来た事をカードを見せることで確認してもらった。

 身分証明カードに記載されている内容は追加項目がいくつか加わった。


 ステータスの項目に生命力と魔力の数値が出たのと、能力の項目に魔導士、それとギルドランクGというのが出来ていた。


 ステータスの詳細までが書き込まれなかったのが、よくわからなかったのと、教会では水晶玉に触れたけれど、冒険者ギルドでは何もせずに、登録出来たのがわからなかった。


 この後はどうするのかとリタに聞くと、リタは商業ギルドでランク確認を行ってから、自分の商会に戻るということだったので、健太もついていくことにした。


 ちなみに商業ギルドは、どこのギルドに所属している者に対してでも親切丁寧に対応するので、一緒に居ても問題ないということらしい。

 何でなのかが気になったのだが、リタはついてくればわかることだからと説明することはなかった。


次回投稿は25日か26日辺りです。

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