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取引

前回は、意味深な水晶玉に触ったけど、何も起きなくてガッカリでした

「何も起きないというのは、どういうことですか。私が以前登録した時は、もちろん迷い人ではありませんけど、普通に受付で水晶玉に触れて、しばらくするとカードが発行されただけでしたよ。


 その時に、水晶玉が光るとか何か不思議な事は起きませんでしたけど、何が起きるものなんですか」


「あっ、いや、その・・・・・・、と、とにかく、これで登録は完了した。受付に戻ればカードは発行される。さあ、そっちの迷い人もついてきたまえ」


 やはり、先程の発言は登録担当者にとっては失言だったのか、リタに指摘を受けると誤魔化すようにして、踵を返して扉を開けて、先に階段を上っていってしまった。


 関係者ではない外部の人間を残して、責任者が現場を離れるなんて、危機管理能力が問われそうだななどと健太が思っていると、リタがトンと軽く地面を蹴って、水晶玉の台座脇に跳び乗ってきた。

 リタの居た場所から、健太が立っている祭壇までの距離は、少なく見ても20m程度は離れていたのだが、それを助走も何もなく、軽々と着地していた。


 身体能力の高さも確かだし、それよりも動きに無駄がない事の方が感心してしまうことだった。

 健太は与えられた能力の制御が上手く出来ていなかった。

 強すぎる力の制御というのは、とても難しいものだと再確認していた。


 仮に今の健太が、先程のリタと同様の事をしようとすれば、力がありすぎて天井にぶつかるか、祭壇を飛び越えて水の中に落ちてしまうだろう。

 健太がそんな思索に耽る脇で、リタはぺたりと手の平を水晶玉に乗せた。


「なるほど、金魚鉢の金魚みたいなものね」


 リタは何か納得したように勝手に一人で頷くと、さっきと同じように軽く跳んで扉付近に着地すると、さっさと階段を上っていってしまった。

 健太も後を追おうとしたのだが、ふと何となく気になって自分が先程触れた水晶玉に解析をかけてみた。


 吸魂の水晶玉:触れた者の魂を奪い、蓄える。但し、一定以下の能力の者に限る。

 材料は、水晶・神の爪・次元の欠片

 使用術式は、転送・吸着・転生妨害


 健太はやばい事実を知ってしまった気がした。

 もちろんこんな場所にぐずぐずしているわけにはいかない。

 さっさとリタの後を追いかけて、何事もなかったフリをするしかない。


 あの登録担当者の男が驚いていたのは、本当なら水晶玉に触れた瞬間に魂を奪われているはずだったからだ。

 それで何も起きなかったものだから、焦ったのだろう。

 でも、これってやっぱり不味い状態になったのは変わりがないんじゃないか。


 リタが少し遅れて階段を上り終えて、受付の奥へと繋がる扉を開けると、さっき案内をした登録担当の男と、塔の中に常駐している神殿騎士が5人待ちかまえていた。


「困ったことになりましたね、リタ・ストンさん。あなたが登録に連れてきた迷い人は、どうやら偽物だったようですね。教会にこのような真似をして、責任はどうお取りになるつもりでしょうか」


「いえいえ、ケンタは確かに迷い人ですよ。単に、教会の登録に反応しなかっただけです。そこで、どうでしょうか。私にしばらくの間、預けてはもらえないでしょうか」


「あなたに預けてどうなるというのです。それに教会に対する侮辱は許される行為ではありませんよ」


「ふふっ、この大陸を統括している総本山の神殿がありますよね。そこにケンタを連れて再度登録に行きましょう。三ヶ月時間を頂ければ、十分に育った迷い人を神殿に捧げます。そこで、このベンゾの街の教会から紹介状を発行してもらいたいのです。そうしていただければ、教会の貢献度は高まることでしょう」


「確かにお話はわかりました。しかし、それならば今すぐに向かってもらっても良いではありませんか。ここで登録が出来なかったのですから、今でも十分な力を持っていることでしょう」


「確かにその通りです。でも、ですよ。能力の高い迷い人は滅多に現れないと、過去の文献からも証明されています。そこで、三ヶ月という言葉に意味が出てくるのですよ。これが一年や二年であったら、長すぎるでしょう。


 毎年総本山へ報告する月は、今から四ヶ月後ではないですか。普通の迷い人であれば、大した意味を持たないでしょう。今の状態でも数人分の迷い人と同じ価値があるとは思えます。ですが、残り三ヶ月徹底的に育て上げた供物となれば、どうでしょうか。


 数十人、いえ数百人分の価値になるやもしれません。ここは辺境にあるせいで、教会の皆様も神様への貢献に力不足を感じられていたのではありませんか。今回の迷い人は、恐らく神様の授けた試練です。


 ここで目先の小さな欲望に負けてしまうか、それとも現在の教会の力が少ない事を認めてでも、大きな貢献をするかですよ」


「むぅ、リタさんは随分と私達教会にお詳しいのですね。ですが、その間迷い人を育てる費用はどうされるおつもりですか。いくら貢献度が上がるといっても、教会は何も出来ませんよ」


「それはもちろんです。迷い人の育成と総本山まで届ける費用、諸経費全ては、私のストン商会が責任を持ってお支払いします。教会にご協力をお願いするのは、総本山へ今から三ヶ月後に特殊な迷い人を届ける紹介状を一筆認めていただければ結構です」


「ですが、それではリタさんにとって、赤字でしょう。それは商人として損失なのではないですかな」


「そう、商人としてはそうかもしれません。しかし、私は商人である前に、教会を信じる一人の信者です。教会の為になるのであれば、商会の力を使う事に躊躇いはありません。それに、この件で教会の力が強くなれば、私の商会に対する信用も上がるでしょう。


 そうなればお客様も増えることになります。目先の小さな損失など、後で得られる大魚に比べれば、塵芥に等しいものです」


「いやいや、とてもお若いのに、慧眼でおられる。それではリタさんの言うように三ヶ月迷い人を預けます。身分証明カードは、受付に申し出ていただければ、即時発行されるように処理しておきます」


「はい、よろしくお願いします。紹介状は、後日ストン商会の店舗に預けていただければ結構です」


 リタと登録担当者の男が会話を終えるまで、健太は階段を上り終えてから扉を開けることが出来なかった。

 話の最初から聞いていたわけではなかったが、明らかに話をしている途中で登場するのは良くないと感じたからだ。


 もちろん扉越しに話を聞いていても、きっとリタは健太が背後に居ることなど気が付いていただろう。

 そう考えると、健太に話を聞かせた上で今後は動くということになる。


 この教会の連中は、健太の事を迷い人だと言い、どんな手段を用いてもすぐに魂を奪うつもりなのだろう。

 それをリタが三ヶ月という短い時間であっても、期限を延ばしてくれたわけだ。


 さっき眺めた水晶玉の事から考えると、総本山には、もっと大がかりな魂を奪う装置があるということだろう。

 それを使われる場所に連れて行かれるまでに、今よりも強くならないといけない。


 三ヶ月以内にリタを超える力を身につけるか、それに少しでも近づくことが急務だ。

 仮に今ここで、身分証明カードが発行されて教会から出た後で、リタの元から逃げ出すというのも思いつく。


 だが、全世界にあると言われている教会ならば、健太一人を指名手配することなど容易だろう。

 そこには、リタもまた信用を失墜させるわけにはいかないと捕まえに来るはずだ。

 だから、三ヶ月ギリギリまでは、リタに養われる形でも何でも、能力を磨くのが、妥当になる。


結構短めだったので、24日か25日に次話は投稿します。

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