街へと着きました
前回は不眠不休の耐久講義に耐えきり、使いにくい魔法とか覚えたよ
ケンリッヒ王国ライズマン男爵領ベンゾの街、王都との距離は早馬を活用しても五日はかかる場所にある。
街の人口は、戸籍登録がない為に五千から七千人ほどとされるライズマン男爵領における領街である。
ベンゾの街に突出した特産品の類は存在せず、またライズマン男爵領においても、内陸に存在する国土でありながら、鉱物資源を採取出来る場所もなく、農業に頼る場所である。
その為、ベンゾの街周辺は森が開墾され広大な畑が広がっている。
産業が農業と、近隣の獣や魔物を狩る事により得られる収益に頼る事しか出来ない為に、領民の生活環境は裕福ではない。
国境に面している領地にある事によって、関所から得られる税に関しても男爵領の税にはならず、直接教会が徴収を行い、王都へ全て流れていくせいで財政が困窮している。
また、教会は神殿の支部であり、国内のみならず大陸全土に広がっている宗教という側面を持っていることから、不満が出ることのない仕組みとなっている。
生活の助けとなるであろう各種ギルドの統括管理をしているのは、どこの国とも中立の関係を保つことが出来る教会となっている。
リタに手を引かれて移動した健太は、リタからこれから行く街の説明を受けていた。
既に元草原からはリタの転移によって移動した後で、時折道を行く馬車の邪魔にならないように脇を歩きつつ、後数分も歩けば辿り着くであろうベンゾの街を見つめていた。
「リタ、それじゃあ教会の力が圧倒的に強い国って事になるんじゃないのか」
元草原では色々とあって、リタに対して怯える事もあった健太は一時は、さん付けで呼んでいたが、周囲の目を考えたら呼び捨てが妥当だということになって、最初と同様の呼び方になった。
召喚というのは、送還と常にセットでなければいけない。
召喚する場合は、召喚される側に確認を行い契約を結び、契約外や契約以上以下の扱いをしてはいけない。
未熟な召喚が行われている世界は、他の世界に悪影響を及ぼす可能性が多い事から、可能であれば修正をしなくてはならない。
あの時、リタから受けた召喚に関する知識は簡単にまとめればこういう事だった。
一応、その時の講義で健太も召喚術を初級とはいえ、使うことは可能になったのだが、リタの許可無く使用する事は禁止された。
どうしたら、禁止されずに使う事が認められるのかとリタに尋ねると、ローブの中から分厚い本を渡された。
本にざっと目を通した所、どう読んだ所で法律にまつわる本だった。
第四項における召喚契約を行った場合、第八条の規約に抵触する恐れがあり、それを踏まえた上での行使には、第十五条の原文にある条件を満たした場合のみ、認められる。
などなどなど・・・・・・の、これは六法全書でしょうかと問いかけたくなるような少し読んだだけで頭から湯気が出そうなものだった。
リタは、その本の内容を当たり前のようにそらんじて、少なくとも初級の召喚を無許可で行うのなら、初級召喚法全集を正しく理解してからでなければ認められないということだった。
この本一冊で全てではなく、中級や上級になれば、更に法令集は増え続け、魔術だけでさえ、それなのだから、魔法や魔導に至っては膨大なまでの知識を得てからということになる。
勉強する気があるのなら、本を貸し出して時折テストしてあげるとか言われたが、健太は丁重に本を返して、召喚をする場合はリタから許可を得てやることを約束した。
そういった背景を知った事で、健太のリタに対する認識は見た目の年齢はともかくとして、色々と改める事になったわけだ。
「教会が強い国というか、どちらかというなら、教会や神殿の権力が極端なまでに強い世界だね」
リタは、この世界ではそれが常識になってるから、教会や神殿に対して侮辱するような発言と行動は慎んだ方が無難だよと諭してきた。
「でも、これから行く国って王国なんだよな。それだったら、普通は王様とか権力者はそういうのを認めたくないんじゃないか」
「普通は、ね。この三日で惑星全体に存在している国を調べた結果、厄介な事に管理世界だったんだよ」
「管理世界?」
「単純に言うなら、どこの国にも神殿がいくつかあって、そこには神が降りてるの。で、それらの世界に降りている神々全てが、ある一柱の神を信奉してるのよ。で、神殿を任されている神が、国々の管理をしているってわけ。
だから、長いものには巻かれろってね。下手に反抗して全てを失うのなら、神様にお伺いを立ててでも、自分の権益を守ろうと躍起になるんじゃないかな」
健太は正直、うわあ、とか引いてしまった。
世界の大元を神だか何者かが牛耳っていて、それを各国は従っていて、それに逆らうことが出来ない。
それは一種の上位国主導による支配とも言えるのではないだろうか。
それでも、さっきまでの話の内容から察するに国としての形があり、領地の差や貧富の差もありそうなことから、おおざっぱな管理なのだろう。
この惑星がどの程度の大きさなのかは、リタから聞いていない以上わからないことだったが、国の数だって相当な数になるのだろう。
それを完全に支配することが出来ないから、神はある程度の監視を条件にして、国の存続を認めている。
多分、そんなところだろう。
「でもまあ、結局の所、厄介なっていう部分はさ。あくまでも、神殿と国のトップだけであって、一般人にとっては、誰が上でもあまり関係ないのよ」
リタは面倒な部分、厄介な部分を説明したが、それは権力を争う一部に対してのみとした。
全世界を一つの組織が管理しているというのは、悪い事ばかりでもない。
それは通貨の単位を全世界で固定にしていることだ。
普通は国によって使用している通貨というのは違う。
そして、それによって、違う国でお金を使う時は他の国のお金に交換してもらう必要がある。
そこで国によっては、金貨に含まれる金の含有量の差などで、交換比率が違ってきたりと面倒な事も多くなる。
それが世界で単一の通貨に出来たことで、経済活動が潤滑に回るようになる。
他にも神の管理する教会からの恩恵は大きい。
教会の信徒になれば、それぞれ個人にカードが交付される。
そのカードがあれば、お金を口座に預金しておくことも出来るし、各種ギルドでの身分証明にも使える。
それに、神の能力によって本人以外の使用が出来ないようになっている。
「それで、何かそろそろ門の様子というか、街に入るための手続きが必要そうなのが見えてきたんだけど、このまま進んでも大丈夫なのか」
「まあ、その辺りは、私が対応しておくから、ケンタは安心しなさい」
街の周囲を囲む石壁は高く、重厚に見えた。
街の入り口の門は石造りのアーチ状で、二頭立ての幌馬車が二台すれ違っても問題ないほどの高さと広さだった。
何台かの馬車が門の前で停止しては、街へ入る手続きを衛兵と思しき者達が、馬車の荷物と人員を調べて、カードを受け取って確認しては通している。
さて、いよいよリタと健太の順番になった。
「ベンゾの街へようこそ。見たところ変わった服装の旅人のようですが、カードの拝見をよろしいですか」
リタは真っ青なローブを頭からすっぽりとかぶって顔が隠れる状態の旅装であり、これ自体は色以外は目立つ要素は存在していない。
変わった格好というのは、当然健太の方だった。
何者かに召喚された時は部屋の中でゴロゴロしている状態だった為、紺色のジャージに素足という格好だったのだ。
全く舗装されていない土と石が転がっている街道を数分とはいえ、裸足で歩いてきたが、身体能力強化のおかげか、足裏は全く痛くなかった。
健太は、カードなどと言われても当然持っているわけもなく、どうしたら良いかと困惑が顔に出そうになったのを、リタが制するようにローブから、さっとカードを取り出して衛兵に見せた。
「リタ・ストン・・・・・・Cランク商人様ですか。お若そうですが、随分とやり手なのですね。ところで、そちらの方は・・・・・・」
「私の従者よ。ここから少し離れたロッソ村に行商へと足を運んだ時に、たまたま街道脇で見つけて保護したのよ。それで何も知らない様子だったから、迷い人かなあって思ってね」
「なるほど、確かにまるで見たこともない服装からして、迷い人の可能性が高いですね。では、リタ・ストン様の従者として今回の入場登録は済ませますので、本日中に教会にて身分登録を済ませるようにお願いします」
「ええ、わかってるわ。敬虔な信徒ですから、迷い人の処理はきちんとするわ」
リタと衛兵は会話を交わした後、カードを衛兵から受け取って、健太を連れてベンゾの街の門をくぐった。
次回はようやく街の中に入ることが出来る。果たして管理世界にテンプレはあるのか。
よろしければ、ブックマークや評価をもらえると嬉しいです。