どうやら、異世界に召喚されたようです
前回は現実逃避をしていました。今回は現実を直視しようと思います。
異世界召喚、それはよく耳にするという程でもないが、ある程度のファンタジー系ライトノベルを読み囓っていれば、何度か目にしたこともあるフレーズである。
しかし、そんなものは現実としては夢幻も良いところだ。
それでも現実として、あり得ない事態に直面してしまえば、その異世界召喚という言葉にも頷くほかない。
そうなってくると、何者かが何かしらの意図をもってして、呼びだしたのは間違いない。
よくある話としては、異世界へと召喚された者は何かしらの特殊な力に目覚めて、世界を救うとかだ。
後はそう、今回のようなパターンだ。
何も分からない者の前に突如として、事情に詳しいフリをした者が姿を現して、多大な力を授けてくれるというものだ。
ただ、この場合は大抵が最初に接触を試みてきた者が物語の黒幕だったり、主人公の敵となる事が多い。
つまり、この目の前にいる幼女は、ほぼ間違いなく、今回召喚を行った人物か、それの補佐をしている人物と断定して構わないだろう。
そうとなれば話は早い。
幼女の話に適当に合わせて、召喚者の意に沿うように振る舞うフリをして、この世界で生き抜くための糧を得るために徹底的に利用してやろう。
「召喚されたのか。そうか、それは驚いたな。そんなことが現実に起きるなんて信じられなかったよ。でも、召喚というぐらいだから、逆に送還だってありそうだよな。俺は日本に帰る事は出来るのかな」
「あっ、そこまではすぐに理解してくれたみたいだね。伊達にラノベ文化に染まった日本人だけあるね。当然だけどケンタは今すぐにでも日本に帰る事は出来るよ。私に帰してほしいのなら必要な情報、この場合だと、来たときの時間と場所、本当は経度と緯度で教えて欲しいけど、ショウタとの契約をした時に、地名でも把握してるから、こちらで修正は可能だね。必要な情報はその程度かな」
「そうか、じゃあ、早速帰してくれると助かるな」
「ああ、うん、そう言ってくると思ったけど、それは今はやめておいた方が良いかな」
幼女は見事に健太の言葉に乗ってきて、召喚をした側の立場であると暴露を始めてくれた。
勝手にこちらを呼んでおきながら、すぐに戻すことが出来ないなど、実に腹立たしい事この上ない。
俺の休日を返せ、と健太は叫びたいぐらいだったが、ここで切れてしまっては幼女を利用することが出来なくなってしまう。
だから、帰す事が出来ないという話の続きを促した。
「まず、この召喚された経緯なんだけど、私もついさっき召喚されたばかりで特定が出来てないの。何て言えばわかるかなあ。召喚の条件みたいなもの、これを召喚した本人に尋ねるか、召喚を行った術式、方法を解析してみない事には、ここですぐに戻っても、また何らかのタイミングで呼び戻されちゃう。
そういう事が考えられるの。もちろん私自身は、今後この世界から干渉を受けないように断絶の術式を戻った後に施せばどうとでもなるんだけど、日本にはそういった術式は伝わってないでしょ。となると、今回の召喚された原因を究明して、今後そういった事が起きないように細工を施さないと、余計な犠牲者が増えちゃうってわけ。
今仮にケンタを日本に帰しても、帰した瞬間に呼び戻されて、今度は私の居る場所とは全く異なる場所に呼ばれる可能性もあるってことね。そうなった時、周りに居るのが悪意だけを持って近づいてきている人だったり、普通に猛獣とか怪物が居る場所だったりしたら、大変な事になっちゃうでしょ。だから、そういう意味でしばらくは帰す事が出来ないんだよ」
こういった話の流れは、健太にもわかりやすい。
要は何らかの要求をするのなら、見返りを寄越せ、そうしなければ、より酷い目に遭わせるぞということだ。
まあ、相手は他人を身勝手な都合で拉致しても、何とも思っていないような悪逆非道な存在だ。
そんな奴に良心の呵責はないのかと訴えても意味はない。
相手の身勝手な理由に従って協力するのは、本音としては嫌な事だが、今はそれに従うしかない。
「わかったよ、お嬢ちゃん。それで俺は一体何を手伝ったら良いんだ。といっても、俺は見てわかるように自衛隊に所属していたわけでもなく、基本インドア派の会社員だから、大した協力は出来ないぞ。それこそ、猛獣や怪物に遭遇しても何も出来ずに終わるぞ」
「えっ、手伝う気があったんだ。私としてはケンタが働きたくないけど、そのうち日本に帰りたいとか、そういう事なのかと思ったから、私の調査が終わるまで安全に生活出来る場所を用意するつもりで動こうとしてたけど、それなら、それで、現地人調達が省けるから助かるかな」
幼女は時折、両腕を明後日の方向に伸ばしたり曲げたりしながら、健太に受け答えをしていた。
健太としては、何もしなくても問題ないと言われているようで、そこに若干の違和感を覚えたが、それ以外の部分としては召喚した側の者と判断して間違いは無さそうだった。
「それじゃあ、お嬢ちゃん。俺が手伝う代わりに必要となるもの、この場合だと武器とか道具だな。そういった物は用意してもらえるのか」
「そりゃまあ、協力者をみすみす簡単に死なせるわけにはいかないからねえ。私の可能な範囲で出来るよ」
よしっ、誘導成功だ。
健太は思わず内心でガッツポーズを取りたくなったが、ここでよくあるパターンはあまりにも要求を増やしすぎると、相手を怒らせて何も得られなくなるということがある。
だから、ここは召喚側にとって不利益にならないであろう要求から求めるところだ。
「それじゃあ、ここが異世界だというなら使われている言語が違って意思疎通が出来ないと困る。だから、言語の翻訳は欲しい」
「うん、翻訳だけだと聞いて話せても書くことが出来ないから、全言語の理解が必須だね。用意するよ」
「それと、物の持ち運びをする為の荷物入れが欲しい。出来ればかさばらなくて大量に入る物を」
「基本容量無制限の時空間を用意すれば良いね。生物を入れるのとか、時間経過の有無とかの設定を個別で自由に振り分けられる物が良いね」
「それと、この世界の事を何も知らないから、食べて良い物とそうでないもの、危ない物の判別が出来ないと困る。物とか人とかを鑑定出来るようにしたい」
「それは物体の解析かな。もしくはラプラスの悪魔みたいな物かな。まあ、それっぽい物を用意するよ」
「後、この世界で生き抜く以上は強い力が欲しい。魔法とか使えるようになりたい」
「魔法は適性が低そうだからお勧めしないわ。この世界でさえ、あるのかないのかわからないほどにケンタから見える魔力量は低いから、魔法よりは武器と身体強化が良いと思うかな。武器は個人携行をする程度の物を道具袋に入れて用意しておくね」
「それと最後にメニューが欲しい。自分の今の状態、ステータス、持ち物、周辺地理とか、敵の位置情報、そういう事を管理する機能が欲しい」
「いや、うーん、流石にそれらを実現する物は思い当たらないなあ。それって本人の想像力とか思考力、本能とかに根ざしてる何かに思えるから、身体強化に脳の機能も加えて強化するから、それでどうにか対処してちょうだい」
幼女が一切不満を出さなかったから、ついつい欲しい物全てを言ってしまっていた。
ただ、異世界に来たら魔法を使ってファンタジーを堪能出来ると思っていただけに、魔法の才能がない、と断言されてしまうと少々空しいものがあった。
健太からの要望を聞いた幼女は、ローブの左手側の袖に右手を突っ込んで何かを取り出そうという動作を見せてから、何かを取り出して手の平に乗せていた。
「指輪か」
健太は幼女の手の平に乗っているものが指輪に見えた。
特に何かの宝石がついているわけでもなく、そうかといって、魔術的な紋様や幾何学模様が描かれているような物でもなく、何の装飾もない銀色に光る指輪だった。
「うん、形状は小さい方が良いかなあって思ってね。私の手も見ればわかる通り、全ての指にしてるし、便利な機能を持ってるアイテムは目立たない方が良いかなあって思ったから、それにした。
その指輪を付けるだけで、さっき言われた要望は多分全て可能になってると思う。サイズに関しては自動的に調節してくれる魔法金属を使用してるからブカブカであっても、逆に小さすぎて入らなくても、はめようとすれば勝手にサイズ修正してくれるから問題ないよ」
そう言いながら幼女が差し出してくれる指輪を、健太は受け取ってから、特に意味はなく右手の親指に少し小さくて入らないかな、と思いながらも入れようとすると、指輪が大きくなり、すんなりと奥まで入ってから、きゅっとしまって丁度良いサイズで落ち着いた。
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