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草原での出会い

ノリに乗って、ただノリの赴くままに書いてみました。

 空が青い。

 真っ青に澄み渡る空、雲一つ無い綺麗な青空、きっと排ガスや公害に毒されていない綺麗な空気なのだと感じる心地よい風。

 遠くに見える山々まで見渡せる青い青い空。


 足下には、さわさわと素足をくすぐる柔らかい草があり、自身の後方に広がる木々や林や森を無視すれば、前方に広がるのは大草原だった。

 草木の匂い、空の広がり、人工物が一切見当たらない風景、それに頭上でさんさんと照らす太陽の暖かい光、

 このどれもが今さっきまで居た場所とはかけ離れていた。


「ここは一体、どこなんだああぁぁ、ああぁぁ、ああああぁぁぁぁ」


 思わず叫んでしまった声が、遠くの山にまで届いたかのように、山彦となって伸びていった。

 そう、さっきまで確かに、確かに、自分の部屋でゆっくりと寛いでいたはずだったのだ。


 いつものように、変わらない日常のひとコマとして、日々の会社とアパートの往復という作業から解放される休日。

 特に無趣味です、はっきりと言える程度にアパートの自室で、ただダラダラとゲームをしたり、漫画を読んだり、小説を読んだり、パソコンでネットサーフィンをするぐらいの休日。


 そんな休日を謳歌していたはずだった。

 それが何の前触れもなく、気が付けばどこともしれない草原に裸足で突っ立っていた。

 これが自分の見ている変な夢って可能性だって否定は出来ない。


 けれど、それにしては妙にリアルだった。

 さっきまで着ていた部屋着として活用している紺色のジャージは、時々カレーなんかがかかる事もあって、所々に洗濯で落ちない黄色いシミがくっついている。


 頭の横でぴょこんと跳ねている寝癖も健在だ。

 片手に握りしめているのは、さっきまで読んでいたライトノベルだった。

 よくあるダンジョンを攻略するような冒険を描写している、そんな小説だった。


 そんな所までもが、さっきまで過ごしていた部屋での状態を忠実に再現している格好で、別の場所に居るような夢を、自分が器用に見られるとは思えなかった。

 これだけ考えてみても、何か答えが出てくる事はなかった。

 いや、そもそも、何がどうなっているのか、


 その状況もわかっていないのだから、答えなんて物が見つかるはずもない。

 そう、それでも、それでもだ。

 今出来る事なんて、たったひとつだ。


「これは一体、どういうことだああぁぁぁ、ああぁぁぁ、ぁぁぁぁぁ」


 それ即ち、叫ぶことだ。

 山々に響き渡る自分の声、その声だけは確かにそこに存在しているように感じた。


「君の質問に対応してくれる山は、ここらへんに存在してる感じはしないから、叫ぶのは止めた方が良いと思うよ。ここらへんに住んでいる者達に迷惑をかけたいのなら、そのまま続けるのも良いだろうけどね」


 叫んでいた自分の背後から、声をかけられて後ろをくるりと振り返ってみた。

 自分以外で、その場に居たのは、先程まで見ていた澄み切った青い空と同じような色をしたローブを纏っている子供だった。


 足先は草に隠れていて靴を履いているのかどうかはわからず、頭の方はフードですっぽりと覆われていて、どんな顔なのか、表情をしているのかはあまりよくわからない。

 ただ、足下から上は全てが青一色というぐらいに青い子供だった。


「んん、君は多分日本人だね。君が左手に持っている本は、所謂ラノベって奴だろう。ショウタがよく休日に読んでいた物に似ているね。それに、君のそのダボダボとしただらしのない服はジャージだろ。


 ショウタはスウェットを部屋で着ている事が多かったけど、これを見るに私はどっちもどっちだと思うね。後は裸足というのも、日本人らしい生活様式だろう。


 さしずめ、あれかな。自分の部屋かどこかで、ラノベを堪能している最中に、気が付いたらこんな外に放り出されて、呆気に取られて叫んでいた、そんな所だろう」


 確かに、子供の言うとおり、黒髪黒目のどこにでもいるありふれた日本人だという自覚はある。

 ただ、初対面の子供にジャージを着ていてだらしがないなどと言われる筋合いもない。


 それに、ジャージだって着こなし次第でファッションとしても十分に機能するはずだ。

 ジャージにしろ、スウェットにしろ、本人が良しとしている服装なら、他人がどうこう言う筋合いじゃない。


「だ、だったら、何だっていうんだ。ジャージの何が悪い。そっちだって、顔をすっぽりと隠すような野暮ったいローブを着ているじゃないか。それに、このジャージだって少し傷んできただけで、新品の時は今よりもずっと見栄えが良かったんだ」


「ん、ごめんごめん。悪く言ったつもりはなかったんだ。フードは今下ろすから許してね。何しろ、さっきまで羽虫や蜘蛛や蚰蜒が溢れかえる森の中を歩いてきたものでね。フード無しでは気持ちが悪かったんだよ。それとジャージが傷んでいるのなら、後で私が見てあげるよ」


 別に服装の文句なんて言うつもりでもなかったのに、子供に向けた言葉はそんな事しか言えていなかった。

 それだけ自分に余裕が無かったということなのかもしれない。

 そんな自分の言葉に気を害した様子も見せず、むしろ悪かったとでもいうように軽く頭を下げて、すぐにフードを下ろしてくれた。


 フードに隠されていた、その姿は端的に言うなら綺麗だという一言に尽きた。

 ストレートに腰の辺りまで伸びる金髪に、すっと細く整った眉毛と、ぱっちり艶やかな睫毛も金色だった。


 瞳の色は着ているローブの青に、より深みを与えたディープブルーだった。

 鼻は潰れていたり団子でもなく、真っ直ぐすんなりと立っていて、唇はふっくらと瑞々しく健康的な桃色に輝き、顎は細く小さく収まっていた。


「綺麗だ」


 自分の口から思わず出てしまった言葉はもう隠すことも出来ず、目の前の子供、綺麗な幼女に届いてしまった。


「綺麗って、ああ、確かに随分と気持ちよく澄んだ青空だね。草も山も、この大自然は確かに美しいね。ただ私は、お兄さんみたいにそこまで感傷に浸る程には、自然に憧れはないんだけどね。


 遠くで見ている分には良いんだけど、実際にここに居て、その大自然の脅威というか猛威の中に居るぐらいなら、快適な都市で生活していた方が良いね」


 自分の発した意図は幼女に伝わらず、自然の美しさに目が行っていたと思われるに済んだ。

 それに、幼女は森の中を歩いてきたと言っていた。

 それに、この落ち着きようといい、格好からして現地で暮らしている人なのではと思えてきた。


 そうなれば、話は早い。

 ここはこちらを警戒させないようにして、どこかの街に、出来れば日本大使館のありそうな首都へと案内してもらえるように頼んでみる方が良いだろう。

 彼女はこちらを日本人だと把握していて、こうして日本語が通じているわけだから、どうしてこうなったかといういきさつは、さておいて、助けを求めるのが利口だ。


 自分よりも遥かに年下の幼女に街までの道を教えて貰う大人というのは、恥も外聞もない状態ではあるけれど、この状態ではそんな恥などかき捨てる他ない。


「えっと、俺の名前は赤塚健太アカツカケンタ。24歳独身で、どこにでもいる普通のサラリーマンなんだけど、お嬢ちゃんはわかってる通り、日本人だよ。それで、ここってどこの国なのかな。


 お嬢ちゃんの見た目からすると、ヨーロッパかアメリカ圏内のどこかじゃないかって思うんだけど、信じてもらえるかわからないけど、気が付いたらここに居たんだ。それで出来たらで良いんだけど、お嬢ちゃんが住んでいる街まででもいいから案内してくれないかな。それと出来れば、日本語の通じる役所も教えて欲しい」


「私の住んでる街?ケンタの言葉がわかるだけなら、別にそこらへんの商店でも、通行人でも、余程スラムに住んでる人でも無ければ通じる筈だよ。まあ、スラムなんてものはショウタのおかげで大分緩和されたから、まず問題は起きないけど、私の一存で不正入国者を認めるのは難しいかな。


 というより、ケンタは私の国に住みたいってこと?日本人にはあまり向いてないと思うけどなあ」


「あっ、いや、勘違いさせちゃったね。お嬢ちゃんの住んでいる街とか国では飛行機とか船は出てないかと思ってね。不正入国にしても、大使館を通してもらえればどうにかなるかもしれないし、それで日本に帰る飛行機にでも乗れればと思ったんだよ。


 もちろんお嬢ちゃんには、日本に戻れる手筈になったら、俺の出来る範囲でお礼はするつもりだよ。だから、お嬢ちゃんの住んでる街に連れて行って欲しいんだよ」


「お兄さんこそ勘違いしているようだから、はっきり言うけどさ。私の住んでいる国から日本に帰ることは出来ないよ。日本の大使館もないしね。そもそも、国交もないから無理だよ」


「はっ、ちょっとそれはおかしいだろ。だって、お嬢ちゃんのいうショウタって人は日本人だったんだろ。その人は、お嬢ちゃんの国で活動していたのだったら、国交があったってことだろ。ほら、どう考えてもおかしい」


 健太は何とかして、目の前の幼女を説き伏せようと必死だった。

 何しろ、今のところ唯一の手がかりなのだ。

 幼女の様子からして、如何にも面倒くさそうな雰囲気は感じ取られていた。


 確かに幼女の言うとおり、現在の健太は状況的には不正入国者になってしまうだろう。

 どんないきさつや経緯があろうと、それこそ拉致被害者だと訴え出ても、どこの誰が拉致してきたのかを証明出来なければ、怪しい入国者であるのを覆す事も出来ない。


 だから、ここで運良くたまたま知り合った幼女に、健太の事を怪しい不正入国者ではないと伝えて貰って、何とか日本に戻る手段を手に入れないといけないのだ。

 幼女の言葉を鵜呑みにするのなら、日本と国交を一切持たないのに、日本語が通じる国ということだ。


 それなら、健太も馴染むことが出来そうなものだが、幼女はそんな場所であっても、日本人にはお勧めしないと言い切っている。

 その時点で矛盾だらけの言葉に感じていた。

 幼女は健太を見てすぐに日本人だとわかっていた。


 所持品や服装でも知っていて、日本人の生活様式というか、スタイルも大体把握しているのだろう。

 それが好奇心によるものか、それとも幼女の国では多くの人が知っていることなのかはわからない。


 ただ、こんな幼女一人がそれを知っているとは考えにくかった。

 ある程度情報を学ぶ場所があるのだろう。幼女はため息をつくと、健太の質問に答えることなく、質問をしてきた。


「えっと、ケンタだっけ。色々と私に対して勘違いがあるようだから、質問するんだけどさ。まず、私は森を歩いてきた、って言ったよね。私の格好を見てどう思ったの」


 健太は、幼女にそう言われてみて、じっと幼女を観察してみた。

 服装は綺麗だし、顔立ちも整っていて綺麗だ。


「とっても綺麗だなあ。服も顔も綺麗だと思うな」


「いや、そういうお世辞はどうでもいいんだけどさ。まず、私は手ぶらだよ。森を歩いてきたのに、荷物を何にも持ってないんだよ。これが私みたいな奴ならともかくとして、健太はごく普通の日本人でしょう。そうしたら、気が付くべき違和感があるはずよ」


 健太の褒め言葉は、幼女に軽く受け流されてしまった。

 実は意外に手強い幼女だった。

 健太は手を打って幼女の言った違和感というものが理解出来た。


「そうか、森の中を歩いてきたにしたら、汚れていない事が不思議だってことだな」


「そうそう、ケンタも理解してくれたんだね」


「つまり、この先に見える森は歩いて数分で国道に出るんだな。それで、すぐにお嬢ちゃんの住んでいる街に繋がっている。このままだと下手をすればお嬢ちゃんの国で密入国者や不正入国者としての扱いを受ける可能性があるってことを、早めに気付いて欲しかったってことか、それに気が付かなくて悪かった」


「・・・・・・はあ、そういえばショウタが言っていたっけ。日本人は割と妄想と現実逃避のレベルが高いとか何とか。だからこそ、ある意味では非現実的な事でも許容できる可能性が高いとかね。


 じゃあ、ケンタにもわかりやすい言葉で教えてあげるね。ケンタは地球の日本って国から、異なる法則性を持っている別の世界、所謂異世界に呼び出されたのよ。少なくとも、現在いるこの地は、地球ではないわ」


 幼女の言葉は、健太の全身を駆けめぐ・・・・・・らなかった。

 どちらかというと、左の耳から右の耳に通り抜けて、そのまま過ぎ去っていった。

 そう、ここで凄まじい情報量というか、膨大なまでの情報が健太の中を渦巻いていた。


 それは現代人特有のスキル、そう、幼女が言った通りの現実逃避スキルを最大限に活用して、そこから妄想力が爆発的な広がりを見せて、そして、遂には健太のスキル欄には、現実逃避Lv10と妄想力Lv10の上位スキルが顕現したのだ。

 そう、そのスキル名は、ご都合主義Lv10だ。

第一話をお読みいただき、ありがとうございます。

更新は定期的に行って、きちんと完結まで持っていくので、ゆっくり読み進めてもらえれば幸いです。


感想はログイン不要で可能な形にしてありますので、お気軽に行っていただければ、と。


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