素晴らしい血筋
随分間が空いてしまいましたが、少しずつ更新したいと思います。
「…っと!ちょっと!そろそろ起きなさいよ、リアム!」
「や、やめろ、シャルロット…二日酔いしてる大人を全力で揺すって起こすんじゃない…吐くわ…」
シャルロットにぐらんぐらん揺らされて強制的に目を覚まさせられた。あー気持ち悪…
昨日ギルドをでて直ぐに都市に向かっても良かったが、あの旅行客のおっさんに勧められたし、せっかくだし一泊していくことにした。
言ってた通り酒は旨かったし、食事も良かった。でもそのせいでちょっと飲み食いし過ぎたな。二日酔いがハンパない…
窓から覗く太陽から考えるにもうすぐお昼ってところか。
「今日はどうするの?まさか、もう魔神将を倒しに行っちゃう!?」
「いや、いかねーよ!2人で魔神将が何人もいる魔帝国に乗り込めるか!」
しょうがないな、この残念ちんちくりんは…
そうだな、今日とこれからの大まかな予定を立てた方が良いか。
「これかは俺達は最終的には魔神将討伐を目指して旅をするわけだが、そんなに直ぐに魔帝国に行くわけじゃない。まずは都市クリネイストに向かおう。そこで情報収集と、協力してくれる人がいるかもしれないからそれを探すんだ。今日は武器を買ってから、都市に向かって出発ってところか」
「確かに2人は心許ないわね…わかったわ!」
意外に物わかりの良い子みたいだな。ギルドの時みたいに言い合いになるかと思ってたがならなくて良かった。
「それはそうとシャルロット、昨日の食事代はどうなったんだ?」
「あなたのポケットとか探したけど、お金が見つからなかったから私が立て替えといてあげたわよ、早く返してよね」
そういえば銅貨一枚も持ってなかったんだな。酔って食い逃げとかしてなくて良かった。
「こんどクエストクリアした時にでも払うよ」
「そう、それなら良いわ」
「そうか、なら良かった。武器を買いたいからもう一度お金を立て替えてくれ」
「え?」
「いや、武器を持ってないから買いたいんだけど金がないんだよ」
魔法を一応は使えるけど、強い魔物がでた時用に剣もあった方が良いしな。アメリアさん曰くランク3、つまりシャルロットぐらいの強さで大丈夫ってことはまだ必要ないかもしれないけど、念には念を、だ。
「いや、そういうことじゃないわ、リアムが武器使うのが少し意外だっただけよ。ギルドに入ってきた時何も持ってなかったし、ロッドを素手で倒したから拳で戦うのかと思ってたわ」
拳だけで魔法とか使ってくるやつに勝てるかっ!
「しっかり返してくれるならいいわよ。これから色々お世話になるだろうしね」
色々お世話か、何か若干のエロスを感じずにはいられないな。ぐへへ、色々お世話してあげようじゃないか。
「どうしたのリアム、凄い気持ち悪い顔してるわよ?」
おっと、いけないいけない。気を引き締めなければ。
「そんなこと言うなよ。それじゃ、武器を買いにいこうか」
部屋を出ようとしてある事に気づいた。
「あれ?俺昨日宿屋かりたっけ?」
「私がかりたのよ。リアム酔いつぶれて酒場で寝ちゃうんだもの」
「そうなのか。悪かったな」
「感謝してよね!私がここまで運んであげたんだから」
ん?私が運んだ?
「俺結構重いと思ったけど、良く運べたな」
「私、身体強化魔法使えるのよ」
なるほど、そういうことか。身体強化魔法がどんなのかはわからないが、おそらくトール達が使ってたあの時速100キロで走ったり、デコピンで岩を割ったりできるようになるやつだろう。シャルロットと腕相撲したら負けそうだな。
「そうだったのか、運んでくれた上に宿屋まで借りてくれてありがとな、シャルロット。また貸しを作っちまった」
「宿屋のお金はいいわよ。私もこの部屋を使ったしね」
「お、お前もこの部屋で寝たのか?」
「そうよ。ダブルベッドがあるでしょ」
「べ、ベベ、ベッドも2人で使ってたのか?」
「そうよ」
なんだとぉぉお!俺の馬鹿っ!馬鹿っ!何で爆睡してんだよぉ!同じベッドでちんちくりんとはいえ女性が寝てたってのに!
「どうしたのよ?もしかして同じベッドって嫌だった
?」
「いや、ぜんっぜんそんなことないよ!むしろ嬉し…いや、なんでもない」
「そうよね、変な顔してたから一瞬イゼリオに嘘を教わったのかと思っちゃったわ」
イゼリオ…?あ、ギルマスか!
「ちなみにイゼリオに何て教わったんだ?」
「一緒に旅をする仲間は同じベッドで寝るのが当たり前だ、って」
残念なのか、純粋なのか…
イゼリオがからかって言ったのを信じちゃったんだな。何はともあれイゼリオ、グッジョブ!
ぐへへ、これは夜が楽しみでっせ。
「なるほど。その教えは大切にしような!」
「顔が怪しいんだけど…」
「そんなことない、ない!早く武器を買いにいこう」
「うーん…信じるわよ?」
会ってからまだそんなに時間が経ってない人を直ぐに信じちゃ駄目でっせ、シャルロットはん。
さて毎日の楽しみができたところで武器を買いに行くか。
クルッカス町。シャルロットから聞くに、どうやらここは町に成ってからまだ日が浅いらしい。そのため殆どの建物が木造だし、今買いに向かってる武器等もあんまり良い物が揃ってないそうだ。
「他にも2つ理由があるんだけどね。1つはここら辺にはそんなに強い魔物が出ないから、高品質な武器が必要ないってことよ」
「…」
「どうしたのよ、急にポカーンとしちゃって」
「いや、シャルロットって以外に色々知ってるんだな、今までこの町周辺の森で戦いに明け暮れた日々を過ごしてきたのかと思ってた」
「女子に向かって失礼ね、そんな戦闘狂みたいな事してないわよ!」
そうだよな、シャルロットも年頃の女の子だし流石にそれはないか。
シャルロットとそんな話をしていると、前に冒険者で賑わう建物が見えてきた。
「ほら、武器屋に着いたわよ」
やっぱりここが武器屋か。昨日「次会うのは魔神将を倒した後だ!」とか言っちゃったのにギルドにいた人達にもう会っちゃいそうだな…
鉄製の頑丈そうな扉を開くと、中は武器と防具で溢れていた。
「凄い数だな、質より数を優先してるって事なのか?」
「そうよ、察しがいいわね、それがさっき話してたもう1つの理由よ。ここでは質が良い高価な物を作っても皆がそんなにお金を持ってないから売れないのよ。だから質と値段がそこそこの物を作るんだけど、それだと壊れやすくて買い換えの時期が早くなるから、数が一杯必要になるのよね」
なんだこいつは。本当にシャルロットなのか?シャルロットはこんなに博識だったのか?まさか今まで馬鹿の振りをしていただけなのか!?
「シャルロットさん、今まで馬鹿にしてすいませんっした!」
「どうしたのよ急に、気持ち悪いわね」
はっ、ついつい変なことを口走ってしまった!
「いや、冗談だ。何でもない」
「ならいいけど…早く武器を選びまし」
「よぉ!シャル!あれ?お前相変わらず全然成長してねぇな!」
「ぎゃあっ!ってハイゼ!私に抱きつくんじゃないわよ!ってか揉むな!」
突然よく日に焼けた少年がシャルロットに後ろから抱きついた。いや、抱きついて胸を揉んだ。
そして豪快にシャルロットにぶん殴られた。
「し、シャルロット。この人、間違えた、この変態は?」
「なんだい、兄ちゃん!初対面の人に変態なんて随分ひどいこと言うな!」
うおっ、あの威力でぶん殴られたのにピンピンしてるなコイツ!
てか誰でも後ろから突然抱きついて胸を揉む奴を見たら変態って思うぞ。もしくは変質者。
「私にフられた男よ」
「お前フられた相手に抱きついたのかよ…」
「いや、違うぜっ!兄ちゃん!シャルは恥ずかしくてOKが出せないだけなんだ!そうだろ?シャル」
「いや、全然そんなこと無いわ。あなたのこと好きじゃないし、むしろ嫌いだわ」
「ほら、聞いたかい?兄ちゃん。この恥ずかしがり屋の言い訳をよ!」
「いや、今のは言い訳って言うより心からの言葉だったような…」
「も~、兄ちゃんもわからないのか。町の誰もわかってくれないんだよな~」
うん、話してて大体ハイゼの事がわかったぞ。こいつは馬鹿だ、すっごい馬鹿だ。全ての物事を自分の都合通りに解釈してしまうロッドの用な男だ。その上、元気が良すぎて何かうざい。
「リアム、この馬鹿は放っておいて早く武器を選びましょう」
「そ、そうだな」
改めて武器を見て見ると、色んな種類があるな。どうしようか、ここはやっぱり盗まれた神刀と同じ長刀にするか。
…どれが良いやつなんだろうか?長刀全てに目を通したがどれがいいのか全くわからん。
達人みたいに剣を見て「ふむ、これは良い剣だ」とかわかればな~。どれも同じに見えちまう。
武器屋の主人に聞くとするか。
「おっさん、長刀でお勧めのはどれだ?」
「おぉ、坊主初めて見る顔だな!」
「昨日この町に来たばっかりでね」
「がっはっはっ!なるほどな!」
声でけぇ…年配とは思えない。いや、声だけじゃなく、体も凄いな、めちゃくちゃマッチョだ。顔もゴツくて、マッチョな体がよくあっている。あれ?この顔どっかで見たことあるな。ま、まさか…
「シャルロット、もしかしてこの人ってロッドの…」
「…もしかしなくてもそうよ、この人はロッドのお父さんなの。でも、ロッドと同じように考えては駄目、この人はとっても良い人なの」
そうなのか。まぁ博識なシャルロットがそういうんだからそうなんだろう。
「爺ちゃん、帰ってきたぜ!!!」
ハイゼがそう叫びながら武器屋の主人に抱きついた。えっ?爺ちゃん?
「おぉ、我が孫よ!鍛冶修行は終わったのか?」
「バッチリだぜ!」
仲良く話すハイゼと武器屋の主人。ま、まさか…
「…今の会話でわかったと思うけど、ハイゼはロッドの息子よ」
やっぱりか!お爺ちゃんから半端ない元気を、ロッドから半端ない馬鹿を受け継いでこの子は生まれたのか、恐ろしい子っ!
「兄ちゃん、長刀の話だけどよ、今お勧めなのはねえんだ。ちょうど昨日良いやつが売れちまってな」
「そうなのか」
じゃあどうするかな。良いやつじゃないので妥協するか、違う武器にするか。うーん、悩む。
俺が黙り込み悩んでいると、武器屋の主人がシャルロットに話しかけはじめた。
「シャルロット嬢ちゃんがここに来るのは久しぶりだな。前に家でバイトしてた時以来じゃねぇか?」
「そうね。私はバイトしてた甲斐もあって、自分で武器の整備はできるから、来る機会が無かったのよ。
久しぶりに来てみたら、鍛冶修行に行っていたハイゼが帰って来る日と重なるとは思ってなかったけどね」
「やっぱり…運命。なのかな」
「いや、それは無いわ」
「またまた~、照れるなって!もう俺たちは結ばれる運命なんだよ!本当に恥ずかしがり屋なんだから!」
ピキッ!とシャルロットの顔に青筋が入る。
そろそろ止めないとまた怒りの鉄拳が振り落とされそうだ。
「おい、ハイゼ。俺達はこれから旅に出るから武器を買いに来たんだ。主人と話をしたいからちょっと静かにしててくれ」
「えっ、シャル旅にでるの!?しかもこの男と!?」
流石ロッドの息子。人の話を全く聞かない。
「そうよ、それに長旅になると思うわ。長い間あなたと会わなくていいとなるととっても気分が爽快だわ!」
爽快に言い切るシャルロット。こんなキツいこと言われたら流石にハイゼも折れるだろう。
「へっ、そんな強がるなって。この男の代わりに俺が一緒に行ってやるからよ!」
うん、凄いメンタル。
「全力で拒否するわ。」
「だからそんなに強がらなくて良いって!」
「強がってないってば!」
仕方ない、場を納めるためにも、ここは大人の技を使ってハイゼを黙らせるとするか。