ギルドマスター
「や、やっちまった…」
争いごとを起こすつもりはなかったのに、ついついカウンターしちまった…
やばいな。アメリアさんも「なにコイツ、信じられない」みたいな目で見てるし、絶対引かれてるよ。うわ~、どうしよ…
俺がロッドを殴ったことで しーん とギルドが静まりかえっていると、ギルドの奥の扉が開き、顎髭を生やした渋い顔のおっさんが出てきた。
「こんなにうちのギルドが静かなんて、何かあったのか?」
「イゼリオさん…」
アメリアさんが呟く。イゼリオ、か。この人かなり強そうだし、ギルドマスターっぽいな。
イゼリオはギルドの中をぐるっと見回し、俺達の所で視線を止めた。
「おいおい、またロッドが何かやったのか?いや、今回はやられたのか。アメリア、何があったか説明しろ」
「は、はい!最初に、ロッドさんが新人の方にいちゃもんを付け始めてー
アメリアさんが事情を説明してくれてるけど、これ大丈夫なんだろうか。ギルド内で相手を殴って気絶させる、ってギルド使用禁止とかならないよな…
ーということなんです。恥ずかしながら、ロッドさんが殴りかかった時に目をつぶってしまいまして…目を開けたらこの状況でした」
「仮にも元冒険者が喧嘩如きで目をつぶってるんじゃねぇよ。それにしても、ロッドは本当しょうがねぇな、2ヶ月間ギルド使用禁止にしとけ。新人の野郎は一応被害者だから、罰則は無しだ」
「わかりました」
よかった~、ギルドカード作った日に使えなくなる、なんて恥ずかしいことにならなくて。
「おい、新人。えーっと、確か…リアム、だったか?」
「そうだけど…」
じっと見つめ合う俺とイゼリオ。いや別に変な意味じゃないぞ?俺は相手の魔力がどんなものか探ってるだけだからな。多分イゼリオも同じようなことしてるんだろう。
「お前、そんなに強えのに何しにこんな田舎まで来たんだ?」
何しに、か。俺の意志でここに来た訳じゃなくて、偶々アフロディーテにここに送られただけだからなー。いや、偶々じゃないのか、素晴らしい出会いがあるって言ってたし、狙ってだな。
取りあえず適当に言っとこう。
「ちょっと都市での疲れを癒やしにね」
「…いや、嘘、ですよね。リアムさん、都市に行きたいって言ってたじゃないですか」
なんでバラしちゃうんですかアメリアさん!
「色々あってね…」
「言いたくないなら、言わなくてもいいけどよ。でもお前、新人でその強さって神醒教か?」
「神醒教?何ですかそれ?」
「流石に名前ぐらいは聞いたことあんだろ。あの神の力を手に入れるとかいってどっかにある聖地に籠もって修行ばっかしてる狂ってる宗教だよ。でもその反応からして違う見てぇだな」
「あぁ、あれね。あの狂ってるやつね」
「…その反応からして知りませんでしたね」
やめてっ!アメリアさんそんなことボソッと言わないで!
神醒教ね、どっかに籠もって修行ばっかりしてるって、まるでシヴァと組んでたベルナデットみたいな奴らなんだな。
…あれ?もしかするとこれはもしかするのか?アフロディーテも知り合いが来てるって言ってたし。
うわぁ、あいつとは会いたくねぇ…狂った宗教の教祖が知り合いとか本当やだわぁ…
「じゃあ何で新人なのにそんなに強えんだ?」
「神様に修行をつけてもらいまして」
「くっくっ!なるほど、ならその強さも納得だな」
当たり前だけど、信じられてないな。凄い笑ってるし。
そうだ、魔神の事でも聞いてみるか。ギルマスって何か色々知ってそうなイメージあるし。
「なぁイゼリオ。魔神って知ってるか?」
「魔神?それって魔神将の事か?」
「魔神将?」
「知らなそうなので言いますけど、魔神将と言うのは魔帝国アルデバランの幹部達を指します。何人いるかはわかっていませんが、その強さは人間の強さとは思えないそうですよ。事実、小国がいくつか、魔神将に滅ぼされていますし」
そんなに強いって事は、魔神将が魔神達なのか、魔神達と何らかの関係があるか、のどっちかだろうな。
それにしても、アメリアさん頼りになる~!これは、素晴らしい出会いってアメリアさんのことだったりするのか。
でも、あの巨乳嫌いが巨乳の女性との出会いを素晴らしい。なんて言うだろうか、いや、言わない。
「イゼリオ、俺の事を知りたがってるみたいだし、目標だけ教えてやるよ。」
「はっ、随分上から目線だこと。それじゃあ教えてもらおうかな、目標は何なんだ?」
「魔神将を倒すことだ!」
『はっはっはっ!』
『ロッドを偶然倒せた新人が魔神将を倒すだとよ!』
『調子にノりすぎだろ!』
俺の言葉を聞き、今まで静まっていた奴らが急に笑い出した。
「くっくっ、いくらお前が強くたってそりゃ無理だろ。さっきアメリアが小国が滅ぼされた、って言っただろ。俺はその滅ぼされて小国の一つを拠点にして活動していたランク7パーティーのリーダーをやってたんだよ」
「まさか、魔神将と戦ったのか?」
「おう、そうだ。あれはまさに化け物だったよ。人間には使いこなせないと言われる、黒魔法を使いこなしていたしな。生き残った奴は俺みたいな強い臆病者しかいなかった」
神達と激しい戦いをしたって聞いてたことからわかってはいたが、相当ヤバいみたいだな。それに何だよ黒魔法って。神達にもそんなの使ってる奴いなかったぞ。
…でもっ!
「関係ないね。それに俺約束しちまったんだよ、奴らを倒すってな」
ギルドに更に笑いが巻き起こる。ぽっと出の新人がいきなり魔神将倒すって言ったらこうなるのか、違うギルド行ったら言わないにしよう。
「アメリアさん、いろいろ教えてくれてありがとう。もう用もないし、出てく事にします」
「すいません、リアムさん。皆さんが気分を害するようなことをしてしまって。それとお強いのは本当だったんですね。リアムさんだったら都市まで自力で行けると思います」
「わかりました」
アメリアさんに礼を言い、ギルドを出て行こうとすると、
「待って!」
と、声がした。
「私が手伝ってあげる!」
振り返ってみると、そこには冒険者のような格好をして仁王立ちをしている少女がいた。
貧乳の人は巨乳の人に敵対意識を持っている、ってのは俺の偏見ですかね…?