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告白 2



 「――晩霞! こっちはいいから、紗羅を守れ!」


 思うように進めないヒルはひとまず、ナイフで攻撃して来るミダイを排除するのに専念することにした。


――闇の雷が煩わしい。




 「知ってますか? 神界は、少しだけ魔界に繋がっているんですよ。覇空王様のお陰で――」


 「?」



 ミダイは攻防を続けながら、


 「――空漠たる釁隙(きんげき)の王――」


 芝居めいた言葉を、淡々と吐き出した。




 「何を……」


 「――虚妄の世界の支配者よ――」


 ヒルの素早い猛攻をかわしながら、

 淡々と、淡々と――



 「――我が眼前に立ち塞がりし、汝が忌むべきものを覆滅せよ――」


 言葉が増えるに連れ、周囲はざわめき、

 巨大な静電気の渦が螺旋を描きながら彼を包む。



 「――愚かなる神々へ永劫の滅びを与えん事を――覇空霹靂破(ディメンス・ブレイク)



 言い終わると同時に、彼を中心とした広範囲に、無秩序な爆発が起こった。



 それ一つで民家が一軒、吹き飛ぶほどの威力を持つ爆発が、次々に発生する。


 ヒルは反射的に桐截に任せ、

 野生の勘と動体視力で回避した。


 が、同時多発的に発生するからには、避けきれない。


 「くッ……」


 空間を斬る刀を盾にし、


 何とか持ちこたえる。



 ミダイが使用したのは、魔王の一人である覇空王(ディメンスト)・ヴィアベルの魔力を借りた、最上級の魔術だ。


 本来ならば魔族が存在しないはずの、ここ神界内では使用できないのだが、ヴィアベルによって僅かに空間が繋げられ、不可能ではなくなっていた。


 魔術とは、上級魔族の力を借りて発動する術である。


 主に人間が使うのだが、下級魔族も自分より上位魔族の力を借りて魔術を使うことができた。


 ミダイは下級といえどもヴィアベル自身が創造したのだから、通常下では詠唱を短縮できるのだが、


 神界は敵陣で、彼は場違いなので、完全詠唱をしなければ発動できなかった。


 


 爆撃をかわし縦横無尽に駆け抜けるヒルは、既に人間の動きを超えていた。

 どうしてそんなことが可能なのかは彼女にはわからなかったが、


――明日は筋肉痛だな、


 という確信だけはあった。



 しかし背後と右側面の爆撃をかわそうと左の隙へ受身をとりながら倒れこんだ先に――闇の雷が奔る。


 闇はヒルの片腕を貫通し、鋭い痛みを与え、直後に電撃による衝撃を与え、


――…………ッ!?


 同時に爆撃が治まる。


 「ヒルさん!!」


 一連の攻防をただ見ているだけだった紗羅の悲鳴が響き渡るが、


 ヒルは彼女を無視し、右腕全体に広がる激痛すらをも無視して、左手に握った刀でミダイを斬る。


 それを彼はナイフで受け、二人は膠着状態になった。


 彼のナイフの超振動は要の刀には何ら影響を及ぼさない。


 当然ヒルはそのことを知っているので、刀でのみ彼のナイフを捌く。



――壁が、どんどん遠ざかる!


 ミダイの魔術とペルセポネーの闇による攻撃に、ヒルは苦戦を強いられていた。




 「ひ、ヒヒ、ヒ……ヒルさんが!」


 かつて無い、負傷しながら苦戦するヒルに、紗羅はひどく動揺している。


 血相を変え、ヒルとミダイの様子を凝視する彼女には、他の情報が一切入らない。


 握り締めるペンダントは小刻みに震えている――


 彼女自身が無意識に震えているせいだ。



 「おいブス!」


 雷に焔の弾をぶつけ相殺しながら彼女を守る晩霞。


 彼の叫びは、当の紗羅には届かない。



 「おいババア!!」


 晩霞自身は雷をかわし、

 紗羅へ当たりそうなものだけ焔を使う。


 轟音に加え、放心する彼女に、晩霞の怒声は届かない。



 「くっそ、ふざけんな……!

 おいブス!――紗羅!!」 


 「――っ!?」


 晩霞は叫びと同時に、紗羅へ焔を放つ。


 焔は彼女の頬を掠め、

 漸く彼女は晩霞の方を向いた。



 晩霞は息も絶え絶えに、怒鳴る。

 

 「踊れ!……――てめーの取り柄はそんだけだろうが!」


 「――!!」


 紗羅は、瞬時に彼の意図を理解した。



 自分は何を思い上がっていたのか、彼の言うとおり自分にはそれしか無いのだ――そう彼女は心の中で呟き、


 目を閉じ、

 気持ちを落ち着け、

 ペンダントの存在を確認すると、


 悠然と、


 踊り始めた――



――ヒルさん、すみません。私が未熟なばかりに……。



 彼女が舞い、


 晩霞が周囲の不安要素を断ち切る。



――待っていてください、もう少しです……。



 死地のど真ん中で悠然と踊るのは――異常としか言い様が無い。



――“私が”ヒルさんを助ける!



 強い意志に応じ、徐々に胸元のペンダントは光を帯び始め、


 踊りによる神力に反応し、


 どんどん光は溢れ出し、



 やがて周囲の闇まで巻き込む――



 

 光が空間を包み込み、

 邪魔な闇が消え去ると、ヒルは身体が軽くなったような錯覚に陥った。


 後ろを振り返らずとも解る――何が起こったのか。



 「紗羅……よくやった」


 「……光!? 光の神は、一柱しか存在しないはずだ!」


 「此処に居なくとも、意志は託された――」



 ヒルは“フ”と不敵に嗤うと、

 一気に畳み掛ける。

 

 上段、


 横薙ぎ、


 逆巻き、


 右袈裟、


 加速する斬撃に型など無い――



 どんなに軽い彼女の攻撃でも、ナイフのみで応戦するのは至難の業である。



 「――颯然翠緑なる者よ――」


 ミダイは詠唱を開始する。


 先程とは違い、一般的なレベルの魔術だ。

 本来なら魔族は呪文詠唱無く、簡単な言葉のみで発動できるはずの術だが、今は短縮した詠唱と呪文が必要である。


 ヒルが詠唱を止めようと、更なる攻撃を繰り出すが、

 ミダイはもう攻撃を受けようとはせず、大きく飛び退いた。


 「――一陣の風よ――風破斬(ラミナ・ダ・ヴェント)

 「――火渦(フオ・ウォリュオ)!」


 大きな風の刃が発生するが、すぐさま螺旋を描く焔と衝突し、消え去った。


 「てめーの相手はこの俺だ!――ヒル、さっさと行け!! ……って……」


――言われるまでも無く、ヒルは駆け出していた。


 「……薄情にも程があんだろっ!」


 ミダイは彼女を追おうとするが、焔の壁に阻まれる。

 底冷えのする冷ややかな視線で、晩霞を睨んだ。


 「こんな焔で僕のナイフが防げるとでも? 見たところ他に武器も無いようですし……」


 「防ぐ必要は無ぇ! 今すぐ、てめーを燃やし尽くせば良いだけだ!」


 


 

 「――焔牢(フオ・ジエンユー)


 晩霞の呪文で、地面から幾つもの炎の帯が巻き起こり、螺旋状にミダイを包んだ。

 あっという間に、ミダイの姿が炎の塊で見えなくなる。



 直後、晩霞は崩れるように膝を付く。


 顔色が悪く、額は脂汗でぐっしょり濡れていた。



 焔牢(フオ・ジエンユー)は晩霞の技の中で最も大掛かりなものだ。

 炎の量が多く、操作も難しい。


 体力、集中力共に、彼はそろそろ限界だった――



 だがヒルはそのことに気付いている。それに、ペンダントに力を与えている紗羅も、同じく限界が近い、という事にも――


 

 壁まで近づくと、


 駆ける勢いはそのままに、


 彼女は斬撃を放つ。



 轟音を立て、壁に四角く穴が開いた。



 中の様子に、ヒルの動きが止まる――




 拷問器具の数々に、眩暈がした……。


 完治している筈の、背中が疼く。

 息が荒くなっているのは、戦いの最中だからか、それとも――


 受け入れたはずの光景を、警鐘のように脳が勝手にフラッシュバックさせた。


 “ごくり”と音を立て唾を飲み込み、一歩後ずさる。


 「ヒル……っ――!!!」


 晩霞の叫びに恐る恐る振り返ると、

 倒れた紗羅と、光が若干弱ったペンダントが目に入った。


 「チッ……」


 舌打ちすると、彼女は意を決し、部屋に向き直る。



 奥の壁の中央に――天井に繋がれた要が、ぐったりと項垂れていた。




 要は未だこの部屋に繋がれていたのだ。


 この世界が神界である以上、

 魔族にこの空間以外安息の場所は無い。


 此処から出て更に魔力を制限され、敵陣で逃げ惑うよりも、此処で戦うことを選んだのだ。




 要は見たところ外傷が無いようだが、意識を失っている。


 「――要!」


 ヒルが叫ぶと、彼は鈍い動作で――目を開いた。



 深刻な問題で意識が無かった訳ではないようで、ヒルは安堵する。



 二人の目と目が合う。


 お互い何の感慨も湧かないようで、さして表情が変わらない。



 「――お前……」


 掠れているが声も出せるようだし、問題は無いと判断して、彼女は要の手枷を破壊する。



 「急げ! 一緒に来た奴らが……仲間が危ないんだ!」


 彼女は性急にそう言うと、床に崩れ落ちた彼に半ば無理矢理に肩を貸して、立たせて歩かせる。


 身体が思うように動いていない彼は、彼女の行く手に重く圧し掛かった。


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