告白 1
――白い砂浜、
青い海、
雲ひとつ無い快晴、
降りそそぐ太陽。
色彩豊かな大自然、人々の笑顔にあふれるアロハ・スピリット。
美しいビーチには水着やアロハシャツ、ワンピース姿の男女で賑わっている。
さながら南国のリゾート地のようで、
一行は開いた口が塞がらなかった。
「正気かよ……」
紗羅以外の、
野暮ったい雰囲気の三名は完全に浮いている。
「……本当に此処で合っているのか?」
「合ってるよー。ここ日差しが強いから嫌になっちゃうよねー」
ポーはあまり気にしていないようだが、ヒルと晩霞は居心地の悪さにうろたえた。
「こっちー」
ポーが自分のナイフの気配を辿り、先導する。
砂浜で遊ぶ人間たちが、何事かと奇異の目で一行を見、ヒルと晩霞は恥辱を受け、俯く。
「絶対殺す絶対殺す絶対殺す……」
晩霞がぶつぶつと呟く言葉に、ヒルはこっそりと同意した。
ふと、背後から声がする――
「やあ、久し振りだね、ポー」
呼ばれたポーは振り返り、首を傾けながら、口端が裂けそうな程にニタリと笑う。
「あらら? グリェーシェニク、久し振りー」
そこには、アロハシャツを着てはいるが、何もかもが普通すぎて特徴の無い男が立っていた。
彼はポーに軽く会釈すると、今度はヒルに爽やかな笑顔を向け、目礼した。
「君に会いたかったんだ。
この世界を見てどうだった?」
不躾にも、突然、彼はヒルにそんなことを言う。
――グリェーシェニク
彼の名を耳にしてから、ヒルの気配は殺伐としていた。
「お前が黒幕なんだろ? 魔族を使い、わたしをこの世界に引きずり込み、要を捕らえるように魔族を誘導し、チャルチやルードを殺すように魔族に情報を与えた!」
ヒルはルードから聴いた話に、独自の解釈を加え、彼にぶつける。
「黒幕なんて大層なものではないよ。
しかし、君の言う事もあながち間違いではない」
彼はあらかじめ決められた台本を読むかのように、演説するかのようにすらすらと言葉を紡ぐ。
「私の目的は初めから変わっていないのだから、私がどうするかは皆わかっているはずだよ」
すらすら、すらすらと――
「私は神と人間と魔族は一つになるべきだと想うんだ」
初対面同士が間違ってもするような話ではない。
「お前の目的なんてどうだって良い、わたしに迷惑をかけるなと言っている!」
彼は目を細め、彼女を蔑むように見た。
「……もう一度訊こう、この世界をその目で見てどう思った?」
「どうって……不便で、旧時代的で、皆生きるのに必死だ……」
訊かれたことにはなるべく答えてしまうのが、彼女だ。いかに気に入らない相手でも――
ふむ、と彼は満足そうに頷く。
「君ならそう言ってくれると思っていたよ。
話がしたい――私に力を貸してくれないか?」
さらりと口説く彼に、彼女は訝しむが、不思議と嫌な気分はしなかった。
簡単にいつでも殺せそうだからなのかもしれない。
「要を助けるのが先だ」
「その通りだ」
すかさず彼は同意する。
大仰に、両手を大きく広げていた。
「彼を取り戻し、記憶を取り戻したら、また私の元に来てくれないか? いや、約束しなくても来てくれると信じているよ――我々は味方であって敵ではないと、君自身がいずれ気付くだろう」
奇妙なことを言う彼を無視し、ヒルたちは先へ進む。
正直、これ以上関わり合いになりたくなかったのだ。
「おい、いいのかよ? 不穏分子は摘み取っておくのが常套手段だろ」
「……あいつともう一度話す……ことになりそうだから……」
煮え切らない彼女の返答に、晩霞は眉を顰めた。
「ポーさん、あの方はどういった方なのでしょうか?」
「グリェーシェニク? うーん。君たちの仲間かなあ?
初めての半分人間らしいよ?」
「「え」」
紗羅だけでなく、話半分に聞いていた晩霞も、ポーに注目する。
「でも何も力が無いんだ。その代わり、僕らと同じく寿命が無いみたい。半分人間だから、世界を変化させようと頑張ってるみたいだよ?」
「ポーさん……珍しく有力な情報を出しますね……」
「そういう奴って、そろそろ死ぬよなー」
晩霞の冗談に、ポーは泣きたくなった。
「あ、ココ、ココ!」
計らずも、ちょうど目的の場所を見つけたようだ。
ポーが何も無い空間に手を翳すと、ナイフと黒い入り口が現れた。
「っしゃー、行くか!」
晩霞が勢い良く飛び込むと、3人は後に続く――
・
真っ暗な空間に居ると、ポーはあからさまに生き生きとしている。
元々放っていた禍々しいオーラは、何倍にも膨れ上がり――あ、こりゃ死なねーわ――と、晩霞に前言撤回させた。
ポーを先頭に暫く歩くと、コンクリートの壁が在り、
その少し離れた所に、木製のヘアブラシが落ちていた。
ヘアブラシは、ちょうど真ん中辺りに風穴が開いている。
「何だ……?」
『エゼルですよ』
「「「――!?」」」
聞き慣れない声に、一行は戦闘体制に移行する。
「魔族の正体だよ。よくあることだ」
ポーだけは飄々としていた。
壁にできた闇の穴から喪服を着た若い女性と、高貴な佇まいの青年が現れる――魔族、ペルセポネーとミダイだ。
「ポー! あの女を捕まえろ!」
ペルセポネーの存在を確認すると、ヒルはすぐさま叫ぶ。
『らじゃー』
ポーは既に闇を移動し、
ペルセポネーの動きを封じようと迫っていた。
「もしかしたらもう要を何処かへ移動しているかもしれない! そいつを絶対に逃がすな!」
「私はあなたにも用があるの」
ペルセポネーが両手を上げると、
周囲の闇がヒルに襲い掛かる。
「――灼熱番人」
だが間髪入れず、晩霞が火柱を発生させ、周囲の闇を打ち払う。
「まともに戦うな! 要を取り戻すのが優先だ!」
「わーかってるっつーの!」
晩霞が援護し――ヒルは抜刀し駆け抜ける。
傍らで、ポーがペルセポネーもろとも、自身を更なる闇で包み込んだ。周囲とは隔絶された闇の中に、二つの闇は内包される。
「やあ、君の心の闇はどんなのかなぁ……」
実に楽しそうに口元を歪ませながら――
「……」
ポーは彼女の精神を侵し始めた。
ポー対ペルセポネーだと、
同じような能力だが、片や純血の神、片や中級魔族――ポーの方が圧倒的に秀でている。
しかしこの空間そのものがペルセポネーの能力の集合体だと言っても過言ではない――彼女が2千年かけて作り出した最高傑作なのだ。
たとえ彼女の身動きがとれなくとも、
彼女が精神攻撃を受けていようとも、
闇は際限なく、無差別に襲い掛かる。
闇に消えてしまったポーとペルセポネーを余所に、
空間内は、徹底的に、容赦無く、闇の雷が乱舞する。
ヒルも晩霞も思うように行動ができないでいた。
晩霞にいたっては、術を使い続け、自分自身が隙だらけである。
もしそこにミダイのナイフが襲えば、一溜まりもないであろう。
このピンチを打破するには、光の力が――ルードのペンダントの力が必要不可欠だ。
「どうして何も起こってくれないんですか!」
紗羅は必死に神気を込めようとしているが、彼女には何かに注げるだけの神気が無い。
ペンダントは無反応を決め込んでいた。
「――おい、ババア! てめーはすっこんでろ!」
ヒルだけでなく、紗羅の方にも気を配っている晩霞は、最も負担が大きい。
「ううう、なんでですか……」




