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黒い世襲 2



 本城の一室で、紗羅とヒル、及びポーが座っていた。


 もうすっかり日は暮れ、蝋燭に灯りがともされる。



 同行していた紗羅の兄、秀嗣が人を集めようとしたのを、ヒルとポーが煩わしいと制したので、紗羅は早々にこの貴賓室に彼らを案内した。


 「本日は此処をご自由にお使いください」


 にこりと優雅な笑みを浮かべる紗羅に、ヒルは溜息を漏らす。


 「結局泊まることになるのか……。なんだか邪魔ばかりされる気がする」


 「久し振りに部屋で寝れるんだから、いいじゃない」

 そう言うポーは、何が楽しいのか、ずっとニタニタしている。



 「あの、いつもはどうされているんですか?」

 「「野宿」」



 即答する二人に、紗羅は苦笑すると、


 「では、後ほど湯を用意させますので。疲れを癒し、布団でお休みください」


 「うん、それより――」

 「記憶、でしたね?」


 「うん」


 「今、調べさせておりますので」

 「へえ……」


 あの時か、と屋敷に上がって直ぐに紗羅が女中に何やら耳打ちしていたのを思い出し、ヒルは感心した。


 



 「例の、幼馴染なのですが」


 煩わしいのが嫌いだというのを考慮し、紗羅は端的に話し出す。


 「彼は、私と同じ様に人間から産まれた神です。私とはスコラで幼い時から共に学び、そしてずっと主席でした。

 とても博識で、自ら術を開発したりしています」


 「開発?」


 「私達の力は弱いので、先程のように陣を使ったり護符を使ったりして補うのですが、それを研究して新たなものや、より強力なものを作り出したりしているのです」


 「へえー」


 今度はポーが感心した。


 「成る程ね、確かに手掛かりにはなりそうだ」


 「はい。ですが、一つ問題が。

 私が知っている限り、彼はスコラの在る域に留まっている筈でしたが、それももう二十年も前の話なので、現在も其処に居るかどうか……」


 「二十年か……」


 浮かない顔になるが、それを振り払うかのように、ヒルは紗羅に視線を合わせる


 「いや、闇雲に行動するよりずっといい。スコラって何処に在る?」


 「ご存知ありませんか? ポー様も通われていたようですが?」


 「僕はもっとずっと大昔だよ。今のは知らないよ」  




 「? そうなんですか? スコラができてから、ずっと変わらずあの場所に在ると学んだのですが……」


 「スコラって学校でしょ? そこら中に在るわけじゃないの?」


 生じた疑問を、ヒルはすぐさまぶつける。

 

 「いいえ、世界中に一箇所だけです」


 「そうなの?」


 ヒルはまたこれまでと同じく、隣に座るポーに確認した。


 「それは僕の時も一緒」


 「スコラは世界中から神の子供達が集まって、政治経済を始めとした学問や、域の統治方法を学んでいます。

 スコラに通う子供の域は、大抵上手く統治されるので、親が積極的に通わせるんです」


 「ポーもそうなのか?」


 「うーん、僕らの頃も世界中から通ってたけど、そんなんじゃなかったよ? いつも遊んだりお喋りしてただけ」


 「そう……か」


 二人の話を聞き、ヒルは何かに気付く。




 「隣の域にも辿り着けない奴が、どうやってそのスコラが在るっていう域まで通うんだ?」


 「皆、腕の立つ行商人達にお金を払い、連れて行って貰うんです。

 それから十五年程学んだ後、帰りも同じようにして帰って来ました」


 「行商人……」

 ヒルは眉間に皺を作り、小さく呟く。



 「はい、あの方達に連れて行ってもらうのが、一番安全ですから。

 勿論、莫大な費用が掛かるので、私の兄弟で域に通わせて貰ったのは、私一人だけです」


 「何で、敢えておまえなんだ?」


 「えっと、それってどういうことでしょう?」


 「いや、あの秀嗣とかいう兄の方がマシな気がする」


 「わ……私も、それは……そう思います」


 普通なら怒っても良い様な言い草だ。

 しかし、紗羅自身もかねてよりそう思っていたので、反論しようにも、的を射すぎていて、する余地が無い。




 「まあ、大体解ったよ」


 「あと、彼の出身域は知っています。あちらに居なければ、そちらの可能性もあります」


 「成る程ね、お前はソイツが見つからなければいいと思ってるわけだ」


 「……」


 部屋に静寂が訪れる。


 紗羅は柔和な笑顔を貼り付けているし、ヒルも少しだけ笑っているようにも見える。が、空気が張り詰めたように、緊張感が漂っていた。


 ポーだけは、取り残されたように、何も変わっていない。



 「ヒルさん……ちょっと宜しいでしょうか?」


 貼り付けていた笑顔を取ると、紗羅は(えら)く真剣な表情で、ヒルを見据えた――




――暖かな蝋燭の灯りの許、

 紗羅は一人自室で書物を読んでいた。



 長い髪は梳かれ、寝巻き姿だ。



 口を開けば天真爛漫、天衣無縫、無邪気な可愛らしい女性なのだが、

 こうして口を閉じ、大人しくしていると、見た目相応に成熟した雰囲気を醸し出す。



 

 もう暫くは戻らないと覚悟してこの部屋を飛び出したのに、戻ってみれば、落ち着く。


 普段通りに、眠る前の読書を愉んだ後。


 灯りを消し、

 布団に入り込んだ。



 少しして、深く、穏やかな寝息がする。



 一晩中異形の獣に怯えて、休む暇も無かった紗羅は、安心したのか、すんなりと眠りに入った。



 そこへ、


 “カタ”


 と、静かな音を立て、扉が引いていく。



 月明かりを背に、黒い人影が、室内にすべり込んだ。


 影は、紗羅が眠っているのだと判ると、慎重に扉を閉めた。




 扉が閉まると、完全に室内は暗闇に戻る。

 その中で影は、探るように、そ、と紗羅の足許へ擦り寄っていく。



 紗羅は変わらず、眠っている。



 それを確かめながら、影は彼女の足許だけ布団を剥いだ。



 下半身が露わになると、足の踵をそっと掴み、大きく開脚させる。

 為すが儘、夜着の裾が割れた。


 そこに、するりと身体を忍び込ませ、事を為そうとまさぐる。



 紗羅はまだ、起きない。



 下半身を押し付けた時。漸く、


 ぱち、と垂れがちで大きな目が開いた。


 「ひっ……」


 異変に気付いた紗羅は、身体を起こそうとするが、重いものが圧し掛かりできない。


 「ぃ……やぁ……」

 恐怖を覚え、必死でもがくと、上半身に被さっていた布団が剥がれた。


 そこで、自分を襲おうとしている犯人を目撃する。



 「兄上!?」


 呼ばれた秀嗣は、掌で紗羅の口を塞ぐ。


 「ンん!? ……んー!!」


 「お前が戻って来た事を、一番初めに気付いたのが俺で、幸運だったよ」


 「んー……っ!」


 「お前も父上の死期が近いと気づき、ここから逃げ出したんだろう!?」


 頭を左右に振り、髪を乱しながらも必死で逃げようと抵抗する。 


 「大人しくしていろ」


 「うー! ……ンんーっ!!!」


 尚も激しく暴れる彼女から、一際大きな悲鳴が上がった。


 秀嗣は紗羅の髪を鷲掴み、枕の上に押し付ける。

 起き上がろうとする彼女の頭を何度も枕に打ち付けた。


 枕で衝撃は和らぐといっても、激しく何度も脳が揺さぶられ、髪がブチブチと抜け落ちる。


 「い、痛ァいっ!! やめてください!」


 「だったら黙って俺のものになれ」



  恐怖と痛みで、紗羅は委縮してしまった。


 「ふん、手間をとらせるな」  


 「う、うう。いやあ……」




 秀嗣が顔を近づけると、紗羅は全力で背ける。


 「いや!」


 顔を押し退けようとする両手を捕まえ、布団の上に押さえつける。

 紗羅が全身をよじるように暴れても、腕は少しも抜ける気配がしない。


 強く目を閉ざし、必死に逃げようと顔を背けている彼女の唇を、奪おうとしたその時――


 外から声が掛かる。


『なんだ、大事な話って?』


 その低くも高くもない声に、ピタ、と秀嗣の動きは止まった。

 代わりに、紗羅は目を見開き、思い切り叫ぶ。


 「ひ、ヒルさん! たすけっ……」


 言葉は、途中で掌に遮られた。


――お願い……!!


 紗羅は、呻きながら、必死で助けを願う。


 どうか、この状況に気付いて、自分を助けてくれ、と。



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