光の記憶 2
「先生! どうして先生は俺の父親の半分しか生きてないのに、干からびた皺くちゃのジジイなのですか!」
翌日ルードは清清しい面持ちで、いつも通りチャルチと一緒にスコラへ行くと、要が既に老人を質問責めにしている最中だった。
その隣には、ニタニタと不気味に哂う、ポー。
「……なんで、なんでオマエがここにいるんだよ!」
ルードは震えた声で叫び、彼を指差す。
皆が注目した。
「え? だって独りは寂しいし、出るよ」
二、三ヶ月は閉じ込めてやろうと思っていたのに、あっさり目の前に現れた。
驚いたのは、彼が自力で出れることなんて、知らなかったからだ。
ルードは気付いていない、怒れば怒るほど、ポーが泣きながら楽しんでいる事を。
ポーがわざと彼を怒らせて自分好みに仕立て上げようとしているのも。
それこそがポーの能力の正体で、アイデンティティだとも。
ポーはどんなに虐めても次に顔を合わせれば、いつも通りの笑顔で平然としていた。
だから余計に酷い虐めをしたし、虐めている間に得られる恍惚状態が癖になって、深みに嵌っていく。
そして、その度にルードの中の何かが壊れていった。
「……が、はっ」
ポーの頭を押さえ、水瓶の中に突っ込む。
ルードの命令で、チャルチがやる。
土に埋めたり、
磔にして魔獣の群れの中に放置しても、
目を離せばいつの間にか消えている。
恐らくは、闇の能力を使っているのだろう。
だが光は闇に優位という性質の相性から、ルードの前でだけはポーは消えることができない。
だから、こうしてポーが消えないように見張りながら、水責めにするのだ。
「お前ら!」
そこへ誰かが割って入る。
要だ。
「チャルチ、放せ」
「ルード様……」
チャルチはルードの顔色を窺う。
彼女が従うのはルードにのみなので、例え皆に慕われている要の言う事だろうと、彼女は動かない。
「いいわよ……もう」
忌々しげにルードが呟くと、チャルチはやっとポーを解放した。
「げっほ……。
うげぇー、水いっぱい飲んじゃったよ」
犬のように水を飛ばしながら、ポーはニタニタ笑っている。
「っち……」
「お前等……いい加減にしろよ。ポーに遊ばれてんだぞ? 気付かないのか?」
要はこういう時いつも割って入る。何処に居ようと現れ、トラブルを解決する。
「そんなの、解ってるわよ! でも、こうしないと眠れないのよ!」
「だからさあ、それが駄目なんだよ。
無限ループってやつ? お前らが構うから、余計ムカつくことになるんだよ」
溜息混じりでそう言うと、
「兎に角。これ以上こいつの相手すると、頭可笑しくなっちまうぞ。
俺が預かるから、お前らはもう関わるな」
そう二人に忠告して、ポーを引き摺りながら、要はさっさと何処かへ消えてしまった。
「ねえ、ルード様。私も要様と同じ意見。
あまりポー様に関わるのはルード様の為にならない……」
「うるさいわね!」
「……」
チャルチはルードと同じ光の神殿に住んでいた。
彼女はルードの世話役で、護衛でもある。
世界に散らばる神の総数は1千万柱程。
数が多ければ、優劣が付けられる。
神にも魔族と同様に格があった。
ルードやポー、要といった固有の能力を持ち巨大な神殿を有する神が最上格で、世界中の人々が信仰する。
一方チャルチ等は地方の郷村に祀られる土地神で、信者も最上格の神に比べれば圧倒的に少なかった。
神は天災や戦乱からあらゆる生物を守護するが、時には力の弱い神が強い神に助けを求める事もある。
チャルチは同じ年に生まれたルードに仕えていた。
だからこそ、チャルチはルードの事が心配で仕方ない。
ルードが元々女の子達との遊びが好きなのはわかっていたが、最近は女言葉まで使い始めた。
明らかにポーの影響だろう。
ポーと関わっていく事で、彼がどんどん変化していくのに彼女は言いようの無い不安を感じた。
そんなある日、スコラに新しい仲間が加わった。
神にしては珍しく、何の特徴も無い少年だった。
その姿に子供達全員が目を奪われる。
「彼は半分人間なんだ――」
先生の言葉にルードは目を見開く。
ルードだけではなく、全員がざわついた。
神と人間が直接会う事は殆ど無い。
こんなに間近で人間を見るのは、彼らにとっては初めての経験だからだ。
しかも、半分人間だという、そんなモノが存在するなんて、聞いた事が無い。
それもその筈。
彼は史上初めての半神半人なのだから。
「半分……人間……!?」
ルードは無意識に立ち上がっていた。
その姿に特徴の無い少年は、にっこり笑って、会釈した。




