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光と水 3



 「アタシ達。今の神界に不満を持ってる者の事を、仮に革新派としましょう」


 「反対に要やポーの、現状を維持したい者を保守派とするわ」


 相変わらず離れた所で、ポーがぼそりと呟いた。


 「僕はどっちでもいいんだよ。ただ友達二人が保守派だから真似してるだけ」


 彼を無視して話は続く。


 「革新派と言えども、皆それぞれ色んな考えを持ってるわ。

 私とルードは、ここから出て、人間達の革新的なファッションに触れたいっていう目的が有る」


 ヒルは顎に手を当てながら、話に集中している。


 「あのさ、ここって……この神の島、って事?」


 「そうね。でも、ソレは半分間違っている」


 「神界は島だけじゃなく、その周辺の海や空も含む。空間の結界で囲まれた、総てよ」


 「アタシ達は、この空間の結界から出たいの」


 彼女の疑問にルードとチャルチ、次々答える。


 「空間の結界?」


 「ええ、結界に触れると、地図でいう、ちょうど対角線上に位置する、別の結界内部に出てしまうの」


 「それ、前聞いたことある」


 「僕だよー、僕が言ったんだよー」


 ポーが距離をとりながら、嬉々として手を上げていた。




 「結界の外は“無”が拡がってるって聞いたけど?」


 「それは誰にも判らない。貴方にしか」


 「? 結界の外に出たいんだろ? 何も無いかもしれないのに、何故『人間のファッション』に触れられるんだ?」


 「それは……」


 二人は言葉に詰まった。


 「言えないんだったら、言わなくていい」


 「いいえ、そうじゃないの。やっぱり“人間”って頭の回転が早くて、感心しちゃったのよ」 


――っていう事は、やっぱりわたしは人間。


 その事実に安堵するも、同時に疑問が湧き上がる。

 人間である筈の彼女が、“空間の結界”をどうにかできる、人外の力を持っていると彼らは言うのである。


 「結界が張られている状態での外の事は知らないわよ。

 何処にも繋がってないのかもしれないし、どこかに繋がってるかもしれない。結界の正体もよく知らないし……空間の何かだな、って位にしか判らないの。

 でも、そんな事はアタシ達にとって、どうでもいい事」


 「結界が解かれると、おしゃれな人間が居るって事?」


 「まあ、そういう事ね」


 「ちょっとー、それで良いの!?」


 また遠くでポーが何やら言っていた。



 

 「空間って言ってもこの結界は、要の力とは全く関係ないのよ。それは周知の事実」


 「この結界を破れるのはアンタだけ。

 だから、革新派のアタシ達は、どんな手を使ってでも、アンタを手に入れたかったんだけど……」


 「あの魔族! 自分だけさっさと闇で貴方の所に行って、あろうことか、要を連れて来たそうじゃない!」


 「それは……」


 呻くように低く声を出したヒルは、眉を顰める。


 「要なんて連れて来たって、何の役にも立たないのは判ってる筈なのに!」


 「やっぱりアイツ、何か企んでいたのよ! だから魔族なんて、さっさと殺しちゃいましょうって言ったのに!」


 「わたしのせいなんだ」


 ぎゃーぎゃーと文句を喚く二人を、ヒルは遮った。


 「わたしを庇って要は連れていかれたんだ。

 わたしが何もできないで、動けなかったから、弱いから、こんな面倒な事態になってる」






 「「……そ、そうなの?」」


 両手を繋いでいた二人の手が離れる。


 「で、でも。あの魔族、元々何か企んでいたのよ。

 そうとしか考えられない!」


 チャルチが慌てて、彼女を励ますような素振りをして、


 「だから、アンタのせいじゃあ、ないわよ」


 ルードもそれに続く。

 

 「あの魔族が居なければ、アンタをこの世界に喚ぶこともできなかった。

 仕方ないとは言え、ソレを利用したアタシ達にも責任は有るわ」


 「ちょっと待て、何で慰めようとしているんだ? わたしが余計な事を言ったのは悪いが、責任の所在なんてどうでもいいだろ。

 それより要の事だ、結局要はどうなったんだ」 


 「「いいえ! どうでも良くないわ!」」


 二人はヒルの目の前に、ビシッと一差し指を突き出した。


 「私達は“美”の神!」


 「外見だけじゃなく、内面の美しさも兼ね備えているの!」


 「「だから責任逃れはしない!」」


 「……」

 


――なんだ、こいつら。凄く疲れる。


 会話が一向に進まず、疑問が解消されないストレスが彼女を苛立たせる。


 だが、次の彼らの言葉に、苛立ちも吹き飛ぶことになる。


 「だから、要の事はアタシ達に任せなさい!」


 「……。

 ……は?」


 「私達が要を救ってみせる!」


 「いや、いやいや。

 話が見えない! 要はどうなったんだ!!」


 彼らの一方的な決意に、ヒルは焦り、怒った。


 「要は、今! どうなってるんだ! 答えろ!」


 「ちょっと、そんなに怒らないでよ」


 チャルチは彼女を慌てて宥める。


 「そ、そうよ。アタシ達だって詳しくは判らないんだから。

 ただ、アノ魔族と一緒に行方不明なのだけは確かなのよ」


 「だから、きっと魔族が要を使って何か企んでいる筈よ」


 「それが、命の危険もあるって事なのか?」


 「「そうね」」


――……。


 ぎり、と奥歯を噛み締める音が闇夜に響いた。


 「だったら、わたしが探す」


 他人に任せる。という選択肢は、彼女には無かった。

 それは自問自答の末、棄てた選択だ。



 チャルチは急に真剣な顔をする。


 「いいえ、貴方にはもっと重要な使命が有る!」


 「重要な、使命?」


 ヒルの問いに、ルードが答える。


 「そう、記憶を取り戻しなさい」


 「記憶……」


 自分の記憶。

 そこに何か有るのは、彼女自身、既に何度も言われ解っていた。


 「アンタがどうしたいかに関わらず、総ての状況を打破する鍵は、アンタの記憶の中にしか存在しない」


 「記憶が、鍵……?」


 「要を探す事も、救う事も、私達にだってできるけど。記憶を取り戻す事は貴方にしかできない」


 「どうして、わたしなんだ」


 それは、この世界に来てからずっと考えていた事だった。

 自分は特別な存在では無い。

 その他大勢の中の一人なのに、何故選ばれて此処に居るのか。


 だからこそ、他にも同じ境遇に遭った人間が存在するのかと思ったし、保護を求めようとした。


 だが、その前提が大間違いだと、認めざるを得ない段階に来ていた。




 「自分にしかできない事をしなさい。貴方にはその責任が有る」


 「責、任……」


 「要の事は大丈夫! きっとアタシたちがアンタの許に連れて来てみせるわ」


 胸を張ってそう言う二人の目を、ヒルは見た。

 曇りの無い、綺麗な瞳だった。まるで子供の目でも見ている感覚に陥る。

 純粋さ、自分の欲しい物を手に入れたい直向さが、ひしひしと伝わる。


――わたしとは大違いだ。わたしには下心しか無い。


 こいつらに利用価値が有るか、自分にとって有益かどうかしか、彼女の頭には無かった。


 彼女はふっと口許を緩め、彼らに自らの答えを告げる。


 「じゃあ、任せることにするよ」

 

 結論として、要の捜索は彼らに委ねた。


 あの少女の姿をした魔族が関わっているならば、自分よりも遥かに強いこの二柱の神に任せた方が良いと判断したのだ。

 それに、事情も彼女より詳しいし、彼らの口振りから、あの魔族とは何らかの繋がりが有るように思える。


 雲を掴むような話だった要の捜索も、彼らの方がずっと現実的に可能な事だろう。


 そう彼女は判断したのだ。



 ルードとチャルチの目的は、ヒルに記憶を取り戻させ、神界から出ること。

 要が死ぬ影響で、彼女も死ぬ事は彼らにとっても、あってはならない。


――だがそれも、こいつらの言うことが全て本当のことだった時の話だ。


 もし、何処かに嘘が紛れていたら、要や自身の危険が増す。


 では何故彼らに任せたのか。


 ヒルは彼らを信用などしない。


 彼らに任せるか否か、それにより、メリットがあるかないかしか考えない。機械的に判断したのみだ。


 彼らの協力を断れば、手掛かりすらない、何もない状態に戻る。


 逆に協力を得れば、今より事態は進展する。それが、良くも悪くも。


 いつ死ぬか判らない現状だ。博打をしても、事態を進展させることが、何よりも急がれたのだ。



 「おっけー! どーんと任せなさい!」


 チャルチが胸元に手を添え、ウインクする。

 自称、美の神だけあって、その仕草も嫌味無く美しかった。


 「あのさ、連絡は逐一欲しいんだけど。何か連絡手段は無いの?」


 「うーん。鳥を使いましょうか?」


 「鳥? 伝書鳩?」


 「そんなダサい鳥、人間くらいしか使わないわ。アタシのはこの子」


 ルードが何かを包み込むように、両手を合わせる。

 すると、指と指の隙間から、光が溢れてきた。


 すぐに光が治まると、ルードは両手を広げた。


 「じゃーん。可愛いでしょ? キニチ・カクモちゃんよ」


 「インコ?」


 彼の掌に、大きめの派手な鳥が乗っている。色は赤、黄、青とまさしくインコのようだった。


 


 「ちゃんと餌をあげれば、神界内何処へでも声を伝えてくれるわ」


 見てて、と彼は言って、懐から小さな果実を取り出す。


 「先に餌をあげてー……」


 果実を嘴あたりに持っていくと、鳥が啄ばむ。


 「そして、伝えたことを教えるの。『ポーの根暗』

 はい、今度はアンタがあげてみて」


 ルードがヒルに果実を渡す。


 彼女は鳥をまじまじと見てから、手を差し伸べた。


 奪い取るように鳥は彼女の掌から餌を銜えると、パクリと丸呑みしてから、


 『ポーの根暗』


 と、ルードの声そっくりに喋った。


 「凄い」


 「でっしょー? この子もそれなりに強いから魔獣に襲われても平気よ!」


 「成る程」


 「酷いよ!」


 納得するヒルの後ろでポーが泣きそうな声を出していた。





 

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