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光と水 2



 店先で深々とお辞儀をして送る店主とその家族、従業員一同を尻目に二人は質店を後にした。


 次にヒルは呉服屋で、中古の中羽織を購入し、ポーのローブからそれに着替えた。


 羽織は膝下までの長さで、中の小袖よりも少し長い。

 すると、足元が寂しくなる。

 丁度良く、別の店で脚絆と手甲を購入して、着けた。



 装備が完了し、どっと疲れが押し寄せ、二人は溜息を吐いた。

 相変わらず街は賑やかだ。人の邪魔にならないように、通りの隅で立ち止まった。


 ポーが「お茶しようよー」と誘ったが、ヒルは「無駄金使いたくない」と一蹴する。


 「僕が奢るからー」

 意外にも、彼はしつこく食い下がる。


 それを見ていた茶屋の娘が、

 「坊、旦那がそう言ってるんだ! 寄って行きなよ!!」

 と嬉々として割り込んできたのだから、ヒルは仕方なく店で休むことにした。


 「君さ、完全に男に間違われてるけど? いいの?」


 出された茶を啜りながら、彼女はポーにニヤリと不敵な笑みを向けた。


 「それが狙いだからな」


――でも、かなり年齢を低く見られてしまってるのは、誤算だった……。


 首を傾げるポーから目を逸らし、空を見上げる。

 からりと晴れた、清々しい空だった。


  

 

 注文した団子を食べ終わると、ヒルは先程の娘に尋ねた。


 「この辺で、要って神、見た事無い?」


 「ええ? 知らないよ! この辺ったって、神様は、たっくさん居るからねえ。覚えきれやしない!」


 「? この辺って沢山神がいるのか?」


 「あんた、他所の人? いるよ! 沢山! ほら!!」


 そう言って娘が指差す方を見ると、遠くに城が見えた。


 「あのお城に住まわれて居るのさ。ざっと、300人は居るんじゃない?」

 「さっ、300!?」


 ヒルは驚いて茶を溢しそうになる。


 「一つの域にそんなに神が居る事もあるのか!?」


 「どうかなぁ。純粋な神ってなかなか居ないもんだよ?」


 横でポーがニヤニヤしながら口を挟んだ。

 それを一瞥すると、彼女は娘に再び尋ねる。


 「要って、他の域の神様なんだけど、何か知らない?」


 「他の……。さあ? そういう話は聞いたことないねえ」


 「じゃあさ、魔族は? 魔族って見た事無い?」


 「マゾク? なんだい、それ?」


 「いや、いい。ありがとう」


 話が終わると早々に、ヒルは立ち上がり、店を後にした。

 


 代金を払ったポーが後から追いかける。


 「誰に聞いてもあんな感じだね、ここには居ないんじゃない?」


 「どうだろうな、もっと詳しく調べた方がいいのか……、先を急いだ方がいいのか」


――先を急ぐべきだろうな。


 要が今どういう状況かは判らないが、良くは無いであろう事は判る。

 彼が死んでは全てが終わる。

 帰る事は叶わない。


 だから先を進む事に決めた。


 賑やかな街を後にし、橋を越え、門を潜る。

 すると、さっきまでとは別世界のように、しんと辺りは静まり返った。


 「どうする? 次は何処に行く? 僕、物理的な事は得意じゃないから、一日に何度も移動できないけど」


 なんとなく、ポーは楽しそうだった。

 無理もない、今まで一人で歩いていると不気味がられ、忌神だと人々に恐れられていた彼が、久し振りに人間社会に触れる事ができたのだから。


 「いや、ここからは普通に歩くよ。わたしは人探ししているんだ、見落としたら見も蓋もないだろ」


 「ええ!?」


 先を急ぐ彼女の後を、ポーはゆるゆるとついて行く。

 

 「歩くの面倒くさいよ」

 と、文句を言いながら。



 その大きな川を前に佇む頃には、すっかり日が暮れ、辺りは暗くなっていた。


 しかし、周囲は見通しの良い野原で、月明かりのお陰で、さほど暗くは感じない。


 だからこそ、今の状況が良く判る。


 「あららー」

 橋が見当たらない川を前に、先に進めなくなったのだ。


 どんなに目を凝らしても、橋らしき物は見えない。

 川は流れこそ緩やかだが、かなりの幅が有り、渡るのは困難に思える。


 「橋が無いって事は、人の生活域から外れたって事か」


 ヒルは冷静に、現状を分析している。


 「ねーどうするの? こんな川いくらなんでも渡れないよ」


 「なんだ、簡単なことだろ。お前の闇で向こう岸まで行けばいいじゃないか」


 「あ、そっかー。君頭いいね」


 「お前が馬鹿なだけだろ」


 溜息を吐きながら、彼女はポーの傍に寄った。

 しかし、咄嗟に振り返る。


 「何か居る……」

 今向かおうとしている、川の先だ。


 「神気」


 惹かれる感覚に、これが“神気”と呼ばれるモノだと最近になってやっと解った。


 「要じゃない、誰か居る」


 神気に種類が有るとは思えなかったが、それだけは判別できる。


 だから刀に、手を掛けた。



 徐々に、人影が確認できるようになる。

 神気が無くとも、誰かが其処に居るとはっきり判った。


 人影は二つ。

 川の向こうの草叢を歩いて、此方に向かって来る。普通に歩く速度だ。


 段々と川に近付いて行く。


 やがて、川淵まで辿り着いた。


 「!?」


 しかし、二人は全く歩く速度を変えずに、そのまま、川に足を踏み入れる。


 「なっ!?」


 すると、二人が歩く側から川の水が捌けて行った。

 滝を逆さまにしたように、轟音を立て、まるで水が二人を避けるように、両脇に上昇し流れる。


 二人は何食わぬ顔で、悠々と歩いて此方に向かって来る。

 水の無い川は、進む程に谷になっており、此方に辿り着くには少々時間が掛かりそうだ。


 「な……あ、あああ」


 その光景に、驚き、動揺の声が上がる。


 ヒルの声ではない。


 意外にも、ポーの口から漏れ出た声だった。


 「ポー?」


 ヒルは、普段の彼らしからぬ様子に、訝しんで、彼を見た。




 「ヒル、行こう! 早く」


 「どうしたっていうんだ」


 ポーの尋常じゃなく落ち着かない様子に、彼女は戸惑った。


 「ああ! もう!」


 焦る彼は、ヒルの戸惑いなど無視して、強引に彼女を脇に抱える。

 それとほぼ同時に、足許に闇を広げた。


 今は夜。彼の得意な時間帯である。


 闇は瞬時に発生し、ポーとヒルを呑み込む。

 “筈だった”


 闇は発生したと同時に、“消え去った”


 「あ……あ、あ」


 ポーは激しく動揺している。


 闇が消えたのは、彼の意図しない事だったようだ。


 「ポー! 離せ!」


 抱えられていては、刀が抜けない。

 ヒルはじたばたと暴れるが、彼は既に抱えるというより、しがみついており、びくともしない。


 「いい加減にしろ! 戦えないだろ!」


 「あらぁ。ヤル気満々じゃないの? 怖いわあ」


 ヒルでもポーでもない声が、闇夜に通り抜けた。

 いつの間にか、滝のような、溯る水の轟音は消えている。

 二人の通る道周辺の水だけ、その場で静止していた。

 


 近付いて来る二人は、まだ此方とは距離が有る。


 しかし、顔立ちが判る程には近くなっていた。


 片方は線の細い男性で、紫色のウェーブがかった髪が肩まで長い。

 ニコニコとした表情と、優雅に歩く姿が、モデルや俳優のように美しい。


 他方は色白の目の大きな可愛らしい女性で、露出の多い服を着ている。

 それは、服というよりボディスーツといった方が適当な程に、身体の線が判る。

 ヒールの高いロングブーツが、脚線美を隠していたが、スタイルの良さは明らかだ。

 髪は水色で、ぴったりと纏めていて、本来の長さが判らない。

 全体像を例えるなら、水泳のシンクロでもするような格好だった。


 二人の姿も見ないのに、ポーはそそくさとヒルの後ろに隠れて、縮こまってしまった。


 「あらぁ? もしかして、ポーじゃない?」


 先程と同じ声が、響いた。

 鼻に掛かった声なのに、良く通るのは、声の大きさのせいだ。


 「相変わらず、誰かの後ろでビクビクしてんのね! ほんっと、陰険!!」


 ポーがびくりと震える。


 ヒルは自分にしがみつき、怯える彼を無視し、声の主に思わず言ってしまった。


 「おかま!?」



 「おかまじゃないわよ! 失礼ね! 踏んづけるわよ!」


 声の主。男性の方が怒って地面を蹴った。


 「何でもいいけど、それ以上近付いたら斬る」


 ヒルは刀を抜き、二人を警戒して構える。


 「ちょっと、レディに向かって物騒な物向けないでよ!」


 そう言って女の方も怒ったが、

 「そうよ! 失礼しちゃう」と男も一緒になって文句を言うのを、ヒルは怪訝な表情で見た。


 「お前は男だろ」

 「男じゃないわよ! 失礼ね!!」


 男の方が、間髪入れずに反論する。


 「?? じゃあやっぱり、おかまだろ」

 「また言ったわね! 許さない!!」


――いや、おかまだろどう見ても……。


 怒る彼らに、どう対処して良いか判らず、いっそう警戒すると、後ろから軽く羽織が引っ張られた。


 「や、やめた方がいいよ……いじめられるよ……」


 ボソッと、囁くポーは何とも情けない。 


 「ポー、あいつらに虐められてるの?」


 「昔の事だよ……」


 ふーん、と興味無さそうに返事をするが、二人を捉える視線は一瞬たりとも気を抜いていない。



 「とにかく、お前達は何なんだ? なんでこんな所を歩いている」



 二人が現れるタイミングが良すぎる。

 こんな夜に、何も無い場所で、神気を帯びる程の神が二人歩いているのはおかしい。


 もしかしたら、こちらに接触しに来たのかもしれない、と彼女は警戒する。


 「何って、私たち、神界イチのおしゃれさん! ファッションリーダーの美人ガールズよ!」


 女の方が堂々と、腰に手を当てその大きな胸を張る。


 横の男が間髪入れずに割り込んだ。

 「アタシが美と光の神ルード!」


 「その親友で、美と水の神チャルチ!」


 二人は自己陶酔気味に、自らの美をアピールすべく立ち止まりポーズを決めていた。


――こいつら馬鹿か? 自分で自分の特性をバラしてる。


 相手に自分の情報を与えるのは、戦闘において、デメリットになることが多い。


 「名前なんて聞いてない。お前らはわたしの邪魔になる存在かどうかを訊いている」


 ヒルは、慎重に言葉を選び、彼らに問う。


 「ちょっと何よ、失礼ね! 私達の名前に興味無いっていうの?」


 「……」


 


 チャルチは甲高い声で、文句を言っている。


 その隙にヒルは、自分の後ろで縮こまっている大男。ポーに耳打ちした。


 「こっそり闇で移動しよう」


 ポーは反応こそしなかったが、彼の背後から、じわじわと闇が発生してきた。


 ローブが上手い事それを隠し、ルードとチャルチからは見えない。


 闇はどんどん増え、屈めば入れそうな程の大きさに成る。


 ふと、ルードが口を開いた。


 「ポー、アンタってホント、昔から根暗よね」


 ポーがそれにビクリと反応する。


 「いつも要の後ろに隠れてコソコソと。だから人間にもなめられるのよ。

 アタシはねえ、アンタみたいな暗くて陰険で湿っぽくて不気味で、黒い服ばっかり着てて、ファッションに全く興味が無い奴が、だいっ嫌い!!」


 そう言って彼は、首から下げていたペンダントを引き外した。


 すると発光し、巨大化。細長い棒状になっていく。


 何十倍もの大きさ、彼の身長よりも長い、2m程になっている。

 それを握り数回、回転させる。

 空を切る音が、重たく、重量感が窺える。


 だが、重さなど無いようにピタリと静止させ、彼は正面に構えた。



 彼、ルードが両手で掴むそれは、黄金に輝く槍になっていた。


 柄は金。穂先は銀で、それ自体が発光している。


 「ヒル!」


 ポーはもう隠れて闇を広げるのをやめ、一気に大きくさせ、ヒルと共に入ろうとした。





 その瞬間、白い帯状の液体が二人の周囲を巻く。

 「な!?」

 

 激しく飛沫を上げながら、それは球を形成するようにどんどん二人を包み込み、巻き上げる。


 毛糸を巻くようにぐるぐると回転して、


 やがて白く飛沫を上げていた液体は落ち着き、綺麗な透明になった。


 まるで大きなガラス玉のように、それは空中に浮かんでいる。


 中にはヒルとポー、二人が収容されていた。


 “ゴポゴポ”と二人の口から空気が漏れる。


 「逃げようったって無駄よ!」


 チャルチが川の水で二人を閉じ込めたのだ。


 「うふふ、闇夜に浮かぶ水槽……素敵。でも、中の生き物が美しくないわ!!」


 ルードは不適な笑みを浮かべ、両手に構えていた槍を片手だけで持つ。


 そして槍を持つ手を顔の横まで引くと、軽く助走をつけて――――


 投げた。


 呆然と発光していた黄金の光は、放たれると五条の光線状になる。


 かなりの重量がある槍は、すさまじい空を切る音を上げ、放物線を描いた。


 「ご……ごぼ、ごぼぼ!!」


 ポーは焦って何かを言っていたが、水中なので判らない。


 水の檻に閉じ込められたのは不意の事。二人の息は早くも限界に近かった。



 ヒルは息を止め、その一瞬に集中した。


 光線はうねり、時折バチバチと音を出す。

 穂先は真っ直ぐに二人へ向かう。


 ヒルは静止し、待つ。


 ギリギリまでひきつけ、

 槍が正面に到達するのに合わせて、


 斬撃を放った。


 身体の中心線を真っ直ぐに下ろす。綺麗な一撃だ。


 その一閃は水ごと空間を切り分け、穂先の先端と衝突した。


 二人を覆っていた水の檻は、風船が割れるように弾けとぶ。


 刀と槍はただ一点で、競り合っている。

 見えない力が、二つの武器の間で働いていた。


 「「神剣!?」」


 ルードとチャルチが驚いて声を合わせる。


 「ま、まずいわ!」


 「ポー! なんとかしなさいよ!!」


 「ご、ごほっ。……えー?」


 焦る二人に、ポーは首を傾げる。


 「その子死んじゃう! 何とかして!」


 ルードは自分が仕掛けたにも関わらず、かなり慌てている。




 彼の槍は、要の刀と同じように生み出された神槍だ。


 五つの光は同時に五体の敵を貫くと言われている。

 その正体は稲妻であり、槍本体も灼熱で、自動的に敵に向かって飛んでいく。


 その性質から、ルードの槍は「必然の勝利」とか“生きていて意思を持っている”とか、様々な伝説があった。


 槍が本来の姿をしている時は常に灼熱で、周囲に危険を及ぼす。

 だから普段は、彼の胸元にペンダント状にしてぶら下がっていた。


 対峙する二つの秘宝。


 空間に隙間を開け、斬ったように見せる要の武器も、灼熱を帯びるルードの武器も、互角の力比べをし、一点で競り合っている。


 しかし、今、厄介なのは五条の光線の方だった。


 ヒルは全身ずぶ濡れ。

 稲妻である光線で、感電の危険が生じる。


 「ちょっと! ポー! ボケっとしてないで!! あああ、ほんっと、のろま!」


 「んー、大丈夫だと思うけど……」


 ポーは犬のように全身を身震いさせ、水気を掃った。




 稲妻はうねるように暴れている。

 まるで、貫く獲物を探しているように。


 ゆっくりと地面に触れそうになる。


 その瞬間、導かれるように一気に地を走って、ヒルの足許を伝った。


 「くっ……」


 ヒルは視線だけ下に向け、歯を食いしばる。


 「「きゃああああっ!!!」」


 低い声と、高い声の悲鳴。


 そして、


 “ぱしゅ”


 と間抜けな音がする。


 「「「!?」」」


 稲妻は彼女の体表面に吸収されるように消え去った。


 「ほらねー」


 「え……まさか」


 チャルチが美しい顔を崩し、眉間に皺を寄せた。



 「おちついてー! 小っちゃくなって!!」


 いつの間にかヒルとポーのすぐ傍まで駆け寄っていたルードが、宥めるように槍に手を翳す。


 すると、槍は再び全身から発光させ、みるみるうちに縮こまって、やがて、小さなペンダント状に戻った。


   

 「あー、危なかった。

 折角ひと月探してたのに、無駄になるところだったわ」


 駆け寄ってきたチャルチが、ほっと胸を撫で下ろした。


 「?」


 「私たち、あなたを探してずっと歩き回ってたのよ」


 「とりあえず要のおうちに行って、事情を聞いて、それからずーっとアンタを探していたの。あの子達から聞いたアンタの特徴と、だいぶ違っていて気付かなかったわ」


 ルードは首のチェーンにペンダントを付けながら、説明した。


 「何なのこいつら。結局のところ、敵なの? 味方なの?」


 ヒルはポーを振り返り、訊ねる。


 「敵だね」


 「そう」


 刀の切っ先を、ルードの喉許に突きつける。

 俯き気味の顔が上がった。


 「ちょ、ちょっと待ってよ! 話くらい聞きなさいよ!」


 「敵なんだろ? やらなきゃやられる」


 チャルチが慌てて止めに入る。

 「仲悪いだけよ! ちょっとポー、何とかしなさいよ!」


 「えー」


 「わたしたちを殺そうとしたろ」


 「ポーがあんなんで死ぬわけないでしょ!」


 「訂正。わたしを殺そうとしたろ」


 チャルチは押し黙る。

 殺そうとしたつもりは無かったが、死んでも構わないというような攻撃をしたから。


 


 「一大事なのよ! 要が行方不明なの!」


 「!?」


 切っ先がブレた。

 動揺が、そのまま伝わる。


 「ルードから剣を離して! 一時休戦よ! 貴方の主の事なんだから!」


 ヒルはポーの表情を見る。

 いつもと変わらず、ニタニタ不気味な笑顔。

 仕方なく、口を真一文字に結び、渋々刀を納めた。


 ルードとチャルチは大げさに胸を撫で下ろし、大きな溜息を吐く。


 「用件は?」


 「そう、ね。まず私たちの目的から言うわ。

 簡潔に言うと、ここから出たいの」


 ヒルの睨みに、少しだけチャルチは怯みながら説明を始めた。


 「要が死んだら貴方も死ぬんでしょう? それじゃあ……『ちょっと待って』


 ポーが三人から少し離れた位置で、急に声を上げる。


 「何? 何なの? 邪魔しないで」


 ルードとチャルチは彼を睨む。それに一歩後退りながら、彼は搾り出すように言った。


 「……お、狼君が、怒るから……」


 「「?」」


 二柱の神は、意味がわからず静止した。


 


 ポーの言葉に、ヒルが説明を加える。


 「たぶん、わたしの記憶を取り戻す妨げになるから、余計な情報を与えるなって事じゃないか?」


 ポーが首を縦に振って肯定した。


 「なっ!!!」


 「なんですって!!!」


 「き、記憶が無いって……、どういう事?

 私達ここから出られないの!?」


 「ちょっと、それ困るわ! アタシ達何の為に長い事、だっさい奴らと一緒に我慢して行動してたと思ってるの!?」


 ぎゃーぎゃー喚き立てる二人に、ヒルは苛立ち、咳払いをする。


 「あのさあ、要に何かあるんだろ? 話を進めて。

 なるべく過去の事、わたしの記憶に変な先入観を与える事に触れないよう、注意して」


 「う、そうね。わかったわ」


 二人は両手を握り締め合いながら、話す。



 


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