表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Beautiful World  作者: 剣崎月
5/9

[05]異世界に召喚された四人

 名前と職業がこんなにも似合わないやつもいないだろう――日本人の感性として。いや本国には居るんだろうが。ゲルハルトの本国がどこか? 俺は知らないが。

 イベントの為に死ぬ一度きりのキャラクター「男娼ゲルハルト」


 連王と団長が狩りへ行き、馬車で帰国するのだが、その時街中で男娼ゲルハルトを見かけて――


 ゲルハルトの攻略手順を確認して、連王が居ない間に色々と用意しておこう。

 まずは街へ行って情報を集めつつ、薬草を購入。調合室へと入って、調合開始。薬は次回プレイに持ち越されるので、作り置きして損することはない。

 作った薬を王宮内で販売。結構な額を稼いで、天狗と名付けた黒い鳥の元へと行き、餌を手から直接与える。

 連王から指示された仕事をこなすと給与がもらえる仕組み。そして自分の技量でも稼げる。連王はケチではないが、異世界トリップ女たちと渡り合うためには、自分で稼いで色々できるようにしておかなくては。

 天狗は最初、こちらを向きもしなかったが、通いつめやっと餌を食べてくれるようになった。

 お前のご主人さまはここで殺してやったほうが幸せなんだぜ……説明したところでどうしようもないしな。

 ま、これからも餌を与えて、懐かせて、乗る特訓をして高速移動できるようにし、井上を殺しに行く。

 異世界から召喚された女は四人。

 アルテミスこと荻原水姫。「ウィルはダチ」の御坂香。そして異世界召喚で唯一イベントフラグ死亡キャラクターの井上真茶春雫、十六歳。アルテミスと同い年。

 真茶春雫は”まティるだ”と読む。


 真が「ま」

 茶は「ティ」と英語読みすべし。

 春は「る」とだけ読む。”は”は読まない方向で善処せよ。

 雫は「だ」とも読めるそうだが、普通は”しずく”だよな。


 井上はこの名前のせいで幼稚園の頃から虐められ、中学から引きこもりになり、高校へは通っていない。

 マティルダって顔でもないしな。召喚された四人を顔で並べると、御坂(十人中八人は振り返る。俺は振り返らない二人に入る自信がある)がトップで、次がアルテミス(幼いが神秘的な雰囲気を持ってるって誰かが言ってた。ハーレム要員が多すぎて分からん)

 三十五歳で恋人に振られた八島みゆき。ごく普通の三十五歳。

 その三人に大きく引き離されて井上まティるだ。

 井上と八島やしまはアルテミスと御坂の二人とは違い、王族の元にトリップしない。八島は親切な村人ばかりという天国のような村にトリップし、歓迎されてそこで暮らしている。対する井上は森の中に一人きりというハードモード。

 なにも分からず彷徨い、果物を見つけて口にするのだが、その森は領主の持ち物で、勝手に収穫して食べることは固く禁じられている――

 見つからなければいいのだが、運悪く井上は見つかり、そのまま牢屋に繋がれ、巡回裁判官が来るのを待つ身となる。

 井上を殺すためには、この巡回裁判官の足を止めなくてはならない。

 それというのも巡回裁判官は、井上が異世界から召喚された人間だと見抜き、無罪にしてバクスター伯爵の元へと連れてゆく……こうなると井上を殺すチャンスがなくなってしまい、イベントフラグが立たない。

 バクスター伯爵とは攻略対象ハインリッヒのこと。あいつは良い奴なので、異世界から来た女を見捨てることなく、元の世界へと戻してやる。ハインリッヒ、魔力はないが魔法については詳しく、連王と知り合いなので魔力を持っている部下を派遣してもらう――その部下が俺ことプレイヤーで、そこで井上の存在を知ることになる。

 この流れでは井上帰還を阻止することができない。なにせ術そのものはハインリッヒが執り行う。俺は燃料というか、動力というか、そういう立ち位置なので。

 当初、井上を殺すことを思い付くやつはいなかった。

 だがとあるプレイヤーが「あのムービー」を見て、巡回裁判官よりも早くに井上の元へ辿り着けば、なにか別ルートが発生するのではないかと考えて実行に移す。

 脇目もふらず天狗を育て、領主の城を目指す。だが領主の城に入ることはできず、周囲をぐるぐる回るだけ。プレイヤーは連王直属の部下だが、ここは連王の支配領ではないので、ごり押しできないのだ。

 そうしていると、巡回裁判官を発見する。

 井上を帰還させる前に話しかけたら、別のことが聞けるのではないだろうかと試したところ、巡回裁判官と話が弾み、領主の城へ行くのが一日遅れる。

 打ち解けたソイツと共にプレイヤーは領主の城へとゆき、


「昨晩死にました」


 投獄され衰弱死した井上と対面。

 驚くプレイヤーをよそに、領主と巡回裁判官が話しをする。黙っていても話が終わらないので、プレイヤーはフラグを建てるべく井上の死体からに触れると突如光り出す。

 領主は投獄したのが異世界人であったことに驚き、領主は巡回裁判官に慈悲を求める。異世界人を投獄し殺すのは、重罪ってほどではないが罪になるのだ。

 巡回裁判官が領主の罪を妥当に裁き、プレイヤーは井上の能力を継承。プレイヤーが強力してやり領主の城にいる魔法使が、井上の遺体を元の世界に送り返す。


 異世界から来た生き物の死体は返却するのが決まり。


 井上の遺体を送り返すと、ムービーになる。井上の葬儀の場面で、死んだのが「井上」という名字であることを知り、引きこもっていた過去と原因だろうと推測される「まティるだ」という名を目の当たりにする。もちろん名前、読めはしないのだが。だって「井上 真茶春雫 様 葬儀会場」だ。振り仮名振られてないから。

 名付けた母親が父親に葬儀場で殴打されるも、誰も制止せず。喪服で鼻血吹きだしながら「改名認めないでごめんなさい」「世界で通用する名前だとおもって……」と詫びるも、父親に蹴られて机の角に頭をぶつけるが、父親はそれでも容赦無く踏みつけて、鼻の骨あたりが折れる音が聞こえる。

 それを見ている親族が「あれでマティルダって読ませるとか」「父親は必死で抵抗したのに、離婚を突きつけられて」「生後すぐ離婚したら親権は母親だから、阻止できないしね」「改名まで反対して」「旦那さん、やっと白血病が治ったのに」「闘病中も気にしていた」「病死したことにも気づかなかった鬼親」「マティルダはないよ」零しているのを聞いて、そこで初めてアレが「まティるだ」だと知る。

 父親はまともで、名前を直そうと必死だったが、自分が白血病にかかり、改名まで手が回らなかったことも判明。



 で、井上を殺害すると何が起こるのか?



 井上の能力は感情パラメータ以外のパラメータ「能力」を見ることができるようになることと、プレイヤーもキャラクターを殺害することができるようになる。シルヴィアのように、ほぼ制限無しとはいかないが、自分のSTRやAGIが相手のDFEやVITを上回っていると殺すことが可能になる。

 井上はワスラン侯子と同じなので登場することなく、次回プレイでも最初から殺害スキルを所持している。

 シルヴィアの証拠品を回収・処分して歩く必要がなくなるので、これはかなり動きが楽になる。

 このスキルとパラメータを上げ、天狗を乗りこなし、トリップしたばかりのアルテミスを殺害するのが、このゲームの正しい攻略法だろう。まだ成し遂げた奴はいないが――この世界にきたのだ、必ずや成し遂げてみせる。


 ちなみにシルヴィアが殺害できないのは、愛しい連王……神子なので殺されても困るが。それと団長――最終兵器チートなので殺せるはずもない。そして逆ハーのアルテミスとプレイヤーである俺。


 必ずや逆ハーのアルテミスを殺す。井上、お前の死は無駄にはしない。まだ見殺しにしてはいないが。


 それで、この重要なイベントの鍵を握る巡回裁判官。

 どこをほっつき歩いているのか分からない。移動手段は蜥蜴なので、道なき道でも平気につき進む。蜥蜴は馬と違い、どこでも移動出来る設定。

 そんな巡回裁判官を見つけるためには、鳥か竜に乗り上空から捜すのが最適。蜥蜴に乗って追いかけるというのも手だが、巡回裁判官ほど蜥蜴に乗り慣れている者もないので、追いつけずほとんど井上生存ルートになってしまうので。

 ちなみに井上生存ルート、生きて元の世界に帰してやると、井上はネットで注文した薬で、服毒自殺して終わる。荷札の名前は暗がりに埋没して読めず。

 生存ルートでは名前すら分からない。



 もう一人の異世界トリップ女性、八島みゆき。

 三十五歳の誕生日に彼氏にふられた。それも彼は二十三歳の社員に乗り換え――俺はみゆきだけは好きだ。他の二人は好かないが(井上は一度きりなので除外)この女は許容できる。

 八島が住んでいる村は、時間経過的に【中期初め】で海賊に襲われる。八島は村を守るために戦い、その場に団長が通りかかり討伐する。神聖帝国をも滅ぼせる団長が来たのだから、負けるはずなどない。

 団長は八島が異世界から来た女であることに気付き、帰還を希望するかどうか尋ねる。八島は村での生活を気に入っているので帰るつもりはないと告げる。

 だが、自分を捨てた男への恨みは忘れていない。だから自分を帰還させる代わりに、自分を捨てた男を過酷な地に呼び出して苦しませて欲しいと。

 憎しみに囚われる気持ちがどうとか、お前なんか殴る価値ないというタイプではなかったようだ。

 二十三歳の女のほうを苦しめろと言わないあたり、まともと言えそうだ。

 復讐する時点でまともではないと言われそうだが、そこは個人の自由。復讐してから立ち直る人だって大勢いるだろう。


 復讐という言葉が世界に存在する以上、復讐から目を逸らしてはならない。


 こうして八島の二十代前半から三十代半ばまでという、女としてもっとも美しい時期を無駄にさせた元彼氏は呼び出され、悲惨な人生を送ることとなる。

 陵辱・暴行・隷属の三セットを三回、完璧にこなし、神聖帝国でバートラムに殺害され、生ける屍として行進し、ドロドロになりながらつき進んで最後は溺死。


 生ける屍が溺死! 騒然になったのは懐かしい想い出だ。


 溺死というより、細胞が破竹の勢い(?)で海水を吸い込み、膨張して破裂したようだが。詳しいことは分からない。

 生ける屍彼氏がボロボロになった肌、右目が落ち、歯がまばらになった口を大きく開き「助けて、助けて。溺れる、泳げない」言うが、そこは笑って見送るのが礼儀だ。


 元彼氏は八島をふる際に言った「やっぱり結婚相手は両親が揃っていないと。孤児は駄目だって両親が。俺も両親と同じ意見だ」――八島は二十代前半で母親を、二十代後半で父親を失った。両親を失うには早い歳だが、八島が遅くに生まれた子供であることと、人間生きてると半数以上は親のほうが先に死ぬわけで。それを孤児というのは、ちょっと違うと俺も思う。元彼氏の言い分に八島が腹を立てるのは当然の権利だろう。

 だがこれは、考えようによっては八島なりの優しさだったにちがいない。ほら、元彼氏は両親よりも先に死なないと、見下されるべき孤児になっちゃうから。元彼氏は孤児になる前に死ぬべきなのだ。元彼氏の言い分を尊重するとな。


 八島の元彼氏? もちろん死体は元の世界に送り返されたさ。二十三歳の婚約者が眠っているベッドへ――あとは、言わずとも分かるだろう?


 この元彼氏が溺死するイベント、随分と長いが、八島の元彼氏のイベントではなく神聖帝国に戻ったバートラムが死ぬイベントの一部分。暗殺者として連王の元へと来て、感情を友好にし、故国でスパイ活動をしてもらうのだが、逆ハーのアルテミスに乗り換えると発生するイベント。

 回避もできるが、このルートを進むと逆ハーのアルテミスが、連王の前に現れるのが遅くなるので、大体の人がこのルートを選ぶ。


 名前の読み方が分からないと言えば、この逆ハーのアルテミスの本名も読み方が分からない。難しい名前ではないが水姫「みずき」あるいは「みき」の二種類がある。大穴で「みずひめ」とか「あくあぷりんせす」発展系で「まーめいど」「うんでぃーね」なども考えられるが……後半は井上と被るので、考慮しなくてもいいはずだ。


 他の三人は振り仮名が振られているのだが、アルテミスだけはそれがない。


 恐らくというか、攻略の関係上アルテミスを通り名にさせたいが為に、振り仮名を付けなかったと考えられている。 

 アルテミスと呼ばれるようになった経緯は、こいつの過去を強制的に見るハメになるミニゲームで分かるのだが、皇王ラインハルトが「アルテミスのようだ」言った所からついた。

 後宮の中庭で、月明かりが眩しい夜に、全裸で水浴びしていた女に感動するとか……童貞なのか? 皇王ラインハルト ――


 ”アルテミス”ギリシャ神話では処女神の一人にカウントされる女だ。だから――処女じゃなくてしまおう!――BWを女性陵辱ゲームとして楽しんでいる人たちが、逆ハーのアルテミスを陵辱する攻略方法を編み出した。

 この副産物により、攻略が格段に楽になった。

 何故なら、処女性を失ったアルテミスは、唯の女に成り下がり、誰も相手をしなくなる。ハーレクインあたりなら、優しく包み込んでくれる男性もいるようだが、ここは残酷なBLゲーム世界。

 特別扱いされなくなった女など、ゴミクズ以下の存在となり――連王も興味を失う。BWで中期以降に登場するキャラクターを落とすためには、必ずアルテミス陵辱ルートに進まなくてはならない。そうしないと、攻略途中で全部アルテミスに持っていかれる。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ