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Beautiful World  作者: 剣崎月
3/9

[03]ワスラン侯子と皇王ラインハルト

 ワスラン侯子はワスラン侯国の唯一の生き残り。

 この世界は神聖帝国と連合王国の二大強国があり、あとは小国が怯えて暮らしているという、非常に分かり易い構成になっている。

 俺がいるのは連合王国。連合王国というと内憂が多そうに感じられ――実際そうだが、連合王国ゆえに、庇護を求め傘下に入りたがる国も多いので、上手くいっていることになっている。

 連合王国と敵対しているのが神聖帝国。

 いつも戦争をしているらしく、ゲーム初めにワスラン侯国が攻め滅ぼされる。これはどうやっても防ぐことができない。

 他の国の場合は防ぐことができるのだが、ワスラン侯国はイベントフラグ滅亡なので回避不可能。

 ちなみにこの戦争を命じたのはラインハルトではなく、彼の父ベネディクト。このワスラン侯国侵攻が切欠でラインハルトとベネディクトの関係はこじれ”絶対地雷異世界トリップ女子高生勇者逆ハーのアルテミス”がラインハルトの元へとやってきた所で決裂、そしてラインハルトが皇王位を獲るのだが――


 ワスラン侯子を登場させる手順は、いつも通り連王に呼び出され、今回は連王の願いを聞いて女を治療してやり、シルヴィアが来ないよう見張ってやる。プレイヤーの強みはシルヴィア”には”殺されないこと。


 他のキャラには殺されることがある ―― 一回目の時、殺されたよな……。


 シルヴィアが来ることなく、妾の一人が無事に寝息を立てて、そしてワスラン侯子が王宮に到着。

 ワスラン侯子は保護を求めて連合王国へとやってきたのだが、この侯子を保護するうま味などない。そんなヤツ殺してしまってもいいのだが、ここはBLゲームの世界。

 連王は保護の代償として体を差し出せとなり、他に行くあてなどないワスラン侯子は連王に身を委ねる。

 彼、着の身着のまま、所持金0でやってきたんだから、物語としてはそうなるだろう。そんなヤツがワスラン侯国の跡取りだってどうして解ったかって? それは侯子が用いた移動手段が証明してくれた。

 侯子は大きな黒い鳥に乗って逃げてきた。

 この大きな黒い鳥の体にワスラン侯国所有の焼き鏝が押されているので、侯子は本物だと認められたってわけだ。

 この世界の移動手段は馬、蜥蜴、鳥、竜の四つ。馬は数が多く、竜はごく限られた者しか乗ることができない。


 そして俺は今日も王の寝室の隣の部屋で、すすり泣く声を聞くハメに。妾の部屋からは退出したよ。ちなみに侯子を犯すルートの際に団長はいない。理由は知らないが。


 このワスラン侯子、連王の毒牙にかけず、逃がしてやることも可能なのだが、その先はここで襲われる以上の悲惨な結末が待っている。

 侯子を鳥に乗せて逃がしてやる――プレイヤーができるのはそこまでで、隣国あたりで神聖帝国の追手に捕まる。

 鳥はここで殺される。

 そして侯子は神聖帝国へと連れて行かれて、変わり果てた両親の目の前でベネディクトに犯され、そのまま破壊される。

 神聖帝国を滅ぼした際に、両手足切断され、麻薬漬けにされ両親を殺害を指示したベネディクトに玩具にされ、発狂したワスラン侯子と対面し ―― 逃がしてからの上記の経緯がオートで流れてこの救いようのない経緯を知ることになるのだ。

「うふ……うふふ……あははは、べねでぃくとさま、ごほうし、ごほうし、ごほうし、ごほうし……ぎゃははははは!」


 暗転した画面に台詞だけが出て終わる。


 どっちもどっちだが、連王に抱かれてシルヴィアに一思いに殺してもらったほうが楽だと、鬼畜な俺でも思うわけよ。

 そう、侯子に未来などない。

 苦しみが長引くか短いかだけ。非情な運命を背負った十二歳の少年に合掌。声聞く分にはなんかイッたみたいだし。彼の命運は尽きた。

「ちはや」

「はい、陛下」

「傷を治してやれ」

 すっきりとした表情で現れた連王。相手のことなど意に介さずにやった後始末をしろと。仕事であり強制イベントだが、尊敬値は下がるよな。俺には感情パラメータないけど。あるのは腕力とか敏捷性のみだけど。

「かしこまりました」

 連王と入れ違いに部屋へと入り、そしてベッドの上で失神状態の侯子と対面。さて、そろそろ来るはずだ。

「動かないでください、ちはや殿」

 後ろからシルヴィアの声。

 通常の場合、ここで初めてプレイヤーはシルヴィアという存在を知る。

 普通にプレイをすると、城からの使者、そして城へと行き、連王の頼みを聞いて女性を助けて――これが正常なプレイ。だから一番最初に押し倒されるのはワスラン侯子。

 そしてプレイヤーが治療のために侯子に近づくと、背後からシルヴィアに声をかけられ、動くことができなくなり目の前で侯子の喉が引き裂かれる。

 プレイヤーはシルヴィアという殺人鬼がいることを知ることになるのだ。

 なにも言わずに部屋を出て行こうとするシルヴィアを、俺は呼び止める。

「シルヴィア殿、お待ち下さい」

「なんでしょう? ちはや殿」

「マントが血まみれです。こちらで処理しますので」

「お願いします」


 なぜ耳からの一突きにしない? こんな返り血を浴びるような真似を! そこがシルヴィアなんだけどさ。


 このような証拠の品を一々回収するのが攻略のポイント。

 俺は血塗れたマントを持ち、団長のもとへと向かう。

「団長閣下!」

「どうした……その血は?」

 ここで証拠の品”血塗れのマント”を使い、団長にシルヴィアを告発することも可能だ。初見の九割はここで証拠を提示するだろう。

 だがこの初回は絶対に無かったことにされる。

「ワスランの侯子が殺害……それよりも、シルヴィア殿の……」

「シルヴィアがやったのか?」

 団長も”思う”ところはあるようだ。

「違います。見覚えのない者でした。シルヴィア殿に罪を被せようとしたのだと考えられます」

「ちはや、怪我はないのか?」

「ありません。侯子を守れず、申し訳ございませんでした」


 最初から守る気なんてないが。侯子は死亡確定なので守りようないし。

 これで実績解除され、先の二人の攻略実績と合わせて、侯子と同じイベントフラグ用死亡確定キャラクターが一名、実績解除用キャラクター二名、そして通常攻略キャラクターが八名追加される。


「ちはや」

「はい」

「この事は、黙っていてくれないか」

 団長はシルヴィアの行動に気付いて、もみ消すようなこともする。そこがフェルディナント×シルヴィア推しの一因でもあるのだが。

「この事といいますと?」

「シルヴィアのマントが使われたことだ」

「分かりました」


 ワスラン侯子を殺害したのは神聖帝国の者だと連合王国が発表し、これで元々仲が悪かった連合王国と神聖帝国は益々亀裂が深まる――深まってもらわないとゲーム的には困るので、問題ないどころか大歓迎だけどな。


 侯子が神聖帝国エンドを迎えた場合、シルヴィアが現れるのは少し遅れる。もちろん、プレヤーの知らないところで、次々と連王が抱いた男を殺して回っているが正体は不明のまま。そのうち神聖帝国の暗殺者が王宮に入り込んでいるという噂が立ち、噂通りに暗殺者が忍び込み、連王が発見して押し倒し、乱暴にいただいて、俺が治療へと向かい――そして、シルヴィアがぶっ殺す。


 BLってのは、取り敢えず侵入してきた暗殺者を襲うのは基本だ。


 まずは実績解除に関係のない、通常攻略キャラクターから落としていこう。

 侯子の代替えキャラクターは九人を落とすと、正式登場となる。発生条件がシルヴィアの殺害男性数が累積十名なので。

 殺害していないのに、自分のせいになっているという可哀想なヤツだ。名前はバートラム。実績解除フラグでもあるキャラクターだ。

 もう一人の実績解除キャラクターの名はハインリッヒ。

 このハインリッヒだけは城内にいても他の攻略対象キャラクターとは違い、バートラムに殺害されないので、ゆっくりとプレイができる。


 さて、まずは王妃シンシアの弟から落としていくか――どうせ正式エンドじゃないだろうが。


「おはようございます、ちはや様……どうなさいました?」

 召使いのリリーが濃い青のカーテンを開くと、窓から朝日が射し込んでくる。なかなか起き上がらない俺を心配して、リリーが覗き込んでくる ―― この世界に来てから六度目のオープニング。


 次は王妃シンシアの兄を落としてと――実は連王、兄弟が本命で、身代わりとしてお妃を迎えるのがBL的正義。


「おはようございます、ちはや様……どうなさいました?」

 召使いのリリーが濃い青のカーテンを開くと、窓から朝日が射し込んでくる。なかなか起き上がらない俺を心配して、リリーが覗き込んでくる ―― この世界に来てから七度目のオープニング。


 弟と兄を落としたから、次は妾の異母兄を落とすとするか……さくさく行くぜ!


「おはようございます、ちはや様……どうなさいました?」

 召使いのリリーが濃い青のカーテンを開くと、窓から朝日が射し込んでくる。なかなか起き上がらない俺を心配して、リリーが覗き込んでくる ―― この世界に来てから八度目のオープニング。


 正式エンディングに到達できないなあ。お前等、パラメータ上がるの早すぎるんだよ。もっと連王とプレイヤーを焦らせよ。よし、君に決めた! 王宮内図書館の司書の君だよ。


「おはようございます、ちはや様……どうなさいました?」

 召使いのリリーが濃い青のカーテンを開くと、窓から朝日が射し込んでくる。なかなか起き上がらない俺を心配して、リリーが覗き込んでくる ―― この世界に来てから九度目のオープニング。


 そろそろ神聖帝国でベネディクトとラインハルトの間に亀裂が入ったことだろう。

 ワスラン侯国を手に入れたベネディクトは、次の国に食指を伸ばそうとするのだが、侵略を嫌うラインハルトが待ったをかける。

 そうしている間に、あの厄介な女がやって来るのだが……今はとにかく攻略だ。

 こいつらを全員攻略して学園を出さないことには、あの厄介な女を阻むことができない。





「おはようございます、ちはや様……どうなさいました?」

 召使いのリリーが濃い青のカーテンを開くと、窓から朝日が射し込んでくる。なかなか起き上がらない俺を心配して、リリーが覗き込んでくる ―― この世界に来てから何度目かもう忘れたがオープニング。

 九人全員攻略したので、次からは少し気を使って攻略してゆくことにしよう。まずは皇王ベネディクトが放った刺客、バートラム。お前だ。



 あとワスラン侯子はイベントフラグ用キャラクターなので、一度殺されると二度と登場することはない。安らかに眠れ、ワスラン侯子。

 そして安らかに死んでるんじゃねえよ、皇王ラインハルト。生き延びて攻略対象らしく攻略されろよ。なに逆ハー女庇って死んでるんだよ。馬鹿じゃねえの。つくづく邪魔な女だな”絶対地雷異世界トリップ女子高生勇者逆ハーのアルテミス”こと、荻原水姫。


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