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奇々怪々な日常

私の隣の席は…えっと…誰だっけ?

作者: 荒城 十晴

「針堂波流っ!!良かったら今度の日曜日に俺と…、つ、付き合ってくれないか!?」

昼休み、人がまばらに居る教室で次の現国の授業の準備をしながら購買の紙パック紅茶をずるずると飲んでいたら知らない人がスッパァン!!と教室の引き戸を開け、ずんずんと私の方まで来て、いかにも切羽詰まった感じで声を掛けられました。

(パツキンや、この人…。ウチの制服だよね?パーカー着てるからよく分かんないし?同級生?でも、知らんし…。パツキンだし、目立つと思うんだけどな…)


あ、紹介遅れました。私、針堂しんどう波流はるです。ピチピチの17歳。華の女子高生なるものでっす!…嘘です。図書室に埋もれて本を読みながらにやついてる暗くておかしな子です。ほっといて下さい!静かに本を読めるって素敵じゃないですか。一応、勉強は一通り出来ます。反面運動大っ嫌いです。名前と【ある】事がコンプレックスです。自己紹介としてはこれで良いでしょうね。現状に戻ります。


ポケ~ッと声の主を見ていると段々目が潤んできている。よくよく見たら目は黒いから染めてるんでしょうね。


「い…嫌なのか?」

そんな事、甘いマスクのイケメンに言われようともこっちはあなたの事これっぽっちも知らないんですよ?


とりあえず、紙パック紅茶を机に置いて返事をする。

「いや…。知らんがな…」


「なっ!?なんでだ!?俺、波流の隣の席居たはずだぞ!?」

隣?そう言われて頭を回す。

「…えっと?…確か…九条君?」


パアアッ!!そんな効果音が聞こえてきそうな程顔が明るくなった。


「知ってたんじゃねえか!脅かすなよ!」

「いや、四月の時からずっと居てなかったじゃない?」

「学校自体には来てんだよ。それに…席に着けなかったのは…」


何故そこで黙る。ちらっと熱の籠もった目で見ないで!!


「で、日曜日どうすんだよ?」

期待と希望を含んだ顔で見てくる。


「あ、ごめんなさい。パスで」

その日はお姉ちゃんの仕事の手伝いがあるし、なにより神社の掃除と管理をしなければならない。お姉ちゃんも一応巫女さんだけど、性格がちゃらんぽらんだから私がしっかりしないとね。


(だけどなんで、九条君固まってるんだろ?)


その場に居た人間は発言者以外は全て凍り付いた。

「………なんでだ?」

若干怒気を含んだ声が聞こえてくる。

「七面倒だから」

けろっと答える。


だってその日は朝6時から神社の境内の掃除をしないといけないし、その後はお姉ちゃんの手伝いがあって終わるのが午後2時。そこからは自分の好きにしていいので勉強したり本を読んだりそのままお姉ちゃんにネタを考案したりして過ごしたいのだ。それに、自分の時間をよく知らない人の為に割きたくないのだ。なによりインドア派だし。


ビシリッ。また発言者以外の周りに居た人間全てが音を立てて(想像の音)凍り付いた。

「……っ!来いよ!!」

先程とは別の意味で顔を真っ赤にして私の手を乱暴に掴もうとするが、

パシッ!

軽くその手をはたく。

「気安く触らないで?鬱陶しい…」

こういう手合いには強気で行かなくちゃ相手の思う壷だとお姉ちゃんに聞いたからなるべく嫌そうな顔をする。


バキャッ。

もはや当人達以外の人間は修羅場と化したそこから恐怖で動けなくなっている。

「………っ!!」

ギリッと歯を食いしばる音が聞こえるが、

「あなたのくだらないお話しは以上ですか?終わったなら席に着くなりどこかに出て行くなりさっさとして下さい。もっと言うなら私、授業を受ける事を最優先したいのであなた如きに授業を潰してまで会いたいとは思いませんし…。なんなら罵詈雑言をつらつらと言って差し上げましょうか?」

やりすぎだろうか?でも、ここで王手を打っておいた方が後腐れは無さそうだし…。うん、もう言っちゃったししょうがないか!


教室に居た同級生達は彼女の周りにブリザードが吹雪いているのが見えたそうな。

現に周りがお腹いっぱいになるほど凍り付いている。

対する彼はどうであろう。

まるで、今か今かと噴火する時を待つ活火山のように怒り心頭と言った所である。


「…もういい。…俺が悪かった…邪魔したな…」大きな溜め息を吐くとすごすごと顔を伏せながら教室を出て行った。


私はなんか悪い事したな~。と思っただけで別段特筆するような感情は無かった。


というか、「私、九条君の下の名前すら興味なくて知らないんだけどな…」


トドメの独り言がもう一度周りの同級生達を凍り付かせた。


それから放課後~


(さて、今日の授業は終わったし、帰ろっと。あ、お姉ちゃん今日のお夕飯はハムカツが食べたいって言ってたしそうしようかな?)


私、実は自分でも自覚するぐらいシスコン気味なんです。

お姉ちゃんぶっ飛んでるけどね…。(お給料を貯めてセグ○ェイを買って神社の境内で乗り回す位ぶっ飛んでる。…ちなみに昨今の日本ではセグ○ェイで道路を走ると50万位罰金取られますからね?まあ、その話には一応オチがあってお姉ちゃんがセグ○ェイに乗っていたら何故か階段からセグ○ェイごと落ちてお姉ちゃんは落ちる直前に飛び退いて大丈夫だったけどセグ○ェイは大破したという妹の私にとってはお姉ちゃん馬鹿じゃないの!?と泣きながら責めた出来事がある。恐るべし…セグ○ェイ!!)


教科書を鞄にしまって帰ろうとしたら、

「針堂さん居ますか~?」


そんな声と共に私の行く道を塞いだ男の人が居た。


よく見たらこの人も髪を染めてる。全体的に見て薄っぺらそうな人だな~。


「はい。針堂は私ですが何用でしょうか?」

「ん~?君がそうなんだあ?あの女殺しの和真かずまをバッサリ振った女の子ってのは?」

ニヤニヤと笑っている顔は女受けが良さそうな端正な顔をお持ちだったが正直気持ち悪い。なんかシリアルキラーっぽいし…。

「?私、和真なんて人知りませんよ?」


ドシュッ!!

(誰かの心に何かが深々と刺さった音)


「……あれ?君覚えてないの?」

若干口元がひくついている。

「はい。女殺しなんて物騒な人に会ってたら自首する事を勧めてますよ」


ザクッ!!

(さらにえぐられた音)


「いや、意味違うからね?」

「あ、それはそうと歯に青ノリ付いてますよ?」


ピシッ。

(凍り付いた音)


「嘘!!マジ!?」

慌てている。

「はい。あ、鏡ならあそこに有りますから見て来たらどうですか?」

教室の奥にある鏡を指差す。

「サンキュー!急いで見て来るわ!」

「いえいえ、お役に立てて何よりです」


急いで鏡に立ち、青ノリを取っている彼を尻目にさっさと靴を履く。


「そういえばあの人何の用だったのかな?まあいいや、帰ろ…」

ガシッ。

「……逃がすかよ」

幽鬼のような凄まじい表情をした九条君に捕まりました。


「九条君?私、さっさと帰りたいんだけど…」

「…イイじゃねえか。少し付き合えよ…」

「いや………っ!!」

拒否の言葉を口にすると同時にギュッと腕を掴む手の握力が増す。

「…拒否権はねえよ?」

ニヤリと野獣のような笑みを浮かべる。

「はあ、最低ね…」

ここまでするとは最早諦めの方が強いわ…。

「なんとでも言ってろよ…。おいっ!!いつまでやってんだ!!明信あきのぶっ!」


あ、応援呼ばれた。


ん~?まあいいや。適当に時期見計らって叫ぶか…。


「いやー。すまねぇな、和真…」

「あー!なるほど。九条君の名前だったのか~」

「知ってた筈じゃ…」

「いや、九条君にそんなに興味無かったし」

ギリィ…。また握力が強くなった。

「いつ…!…それに私、不良とかって子供の頃から嫌いなの。特に弱いものいじめする奴がね…。むしろ憎くて殺したい位なの…」

これは本音。昔、由乃お姉ちゃんは中学生の時、太っていることでいじめられて泣きながら自殺しようとするまで追い詰められていた事があり、シスコンの私にとってそれ以来、いじめをする不良ヤンキー共は老若男女問わず私の抹殺の対象にしている。勿論本当に殺す訳ではない。ただ、社会的に抹殺するだけです。泥水啜すすって自分の所業を味わえってんデスよ。


「ん~。とりあえず場所移動しよっか?」

おお、薄っぺらい人!有り難い。

「そうだな…」

「ありがとうございます」

さて、チャンスは一回きりだろうしな…。まずは【人が少ない場所】に二人を連れて行くこと。次に【目撃者が居ない場所】に連れて行くこと。最後に【この二人の耳に直接聞こえる】ようにする事。


となると、「じゃあ南側の階段の踊場とかどう?あそこなら誰も居ないし静かに話しが出来るよ?」


「…解った」

「和真、これはアレだな?」

にやついた顔で九条君に耳打ちする。


「……ッ!!言うな!!」

顔を真っ赤にする九条君。


…ああ、なるほど。18禁的な事考えてるわけですか。しかし残念。私はあなた達の粋ちをすい益…。あ、変換間違えた。生き血を吸います。


そして南側の階段・踊場にて、


「あのな…その…俺は…お前の事が…す…すすすっ!!お前に黒ストッキングを履いて貰ってそれを俺にビリビリって破かせて欲しいんだ!!」


テンパった挙げ句の果てに告白の言葉がただの変態の言葉になった瞬間。


「……………」

「………おい、和真?」

「……変態」

「うっ!やっ、ち、違うんだ!!」


後ずさりしようにもテンパってる人が離してくれない。二人以外には誰も居ないし…、派手に叫びますか。


すうっと胸一杯に息を吸い込み、目一杯叫ぶ。


「-----ッ!!!!!!!」


言葉ですらないその叫びは、常人の耳には、鼓膜を突き刺すような鋭い声になっている。


「………っ!!!!??ぐっ……耳が、潰れっ!?」

「っあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!!」


よし、耳を塞ぐために手が腕から離れる。

そして、


「なっ!!?波流っ!?お前…その髪…」


髪を彼等に向かって伸ばす。


私の正体は磯女なのだ。ちなみに長女の鈴奈すずなお姉ちゃんは針女。もう一人お姉ちゃんがいるが海外に仕事に行ってて家に居ない。ちなみに由乃ゆのお姉ちゃんはイクチ。私の家計は妖怪の血を引くそうで物心付いた時には、髪を自在に伸ばしておしゃれしていた。

ただしその頃から自分が異端であることも理解していた。


だから、


「あなたと私じゃ越えられない壁があるの。…だから、ごめんなさい。今から血を吸うけど貧血になって倒れるだけだから安心して」


彼等の肌にまとわりついた髪が血を吸う。

血が髪を伝う。私はそれを吸収する。食事ではない。半妖以下にまで薄まった血筋では血を飲んだ所でそんなに変わらない。味は美味しく感じるけどそこまで飲みたいと思わない。ただ、栄養ドリンクを飲んだみたいな感じだ。


「波流っ!!…それでも…お前が…好きなんだ!!」

貧血によって顔色を悪そうにしながら彼が絞り出した声は涙となって消えた。



--私じゃあなたを色んな意味で傷つける。


「………ごめんなさい。今日の記憶は消すね…」

気絶した彼等の額に手を乗せて呪文を唱える。


「あなたにはもっと良い人が見つかるはずよ…。私みたいなのじゃなくてもっと普通に可愛らしい女の子が…」


最後に気を失った彼に告白の返事をした。誰にも届かない恋の返事を。


「-----」


そう言って逃げるようにその場から立ち去った。お姉ちゃんに追及されないようにしないと。


私も普通に恋をしてみたいと思った事もある。


だが、周りと余りに違いすぎる。次元が違うと言っても良い。お姉ちゃんの友達の弟さんみたいな恋もしてみたい。けど怖い。拒絶されたくない。みんなみたいな恋バナをしてみたい。だけど、中世の異端狩りとかを読むといまでも震えが止まらない。

人が正義を振りかざし虐殺する。

大勢の前では所詮私は化け物なのだから。

そんな何の生産性のない事を悩みながら私は帰路についた。




4月に隣の席を見たとき、正直情けねえぐらい好きになった。


染めてないのが丸わかりな程黒くて真っすぐな猫っ毛、香水などは振っておらず、その髪からほのかに香るいい匂い、軽く噛んだだけで噛み痕が残りそうな柔らかい身体、声や喋り方、立ち振る舞いの良さ、大きな胸、聖母を想わすような優しい顔、そして、

「えっと九条君?で合ってるよね?はい、消しゴム落としたよ?」


何の打算も感じさせない笑顔。

この性格の良さ!

俺の好みのどストライクだった。

いつもだったら何の気負いもなく声を掛けられるはずが一緒に居ることさえ恥ずかしくなって最初の一回きりで教室には入れなくなった。

席替えが始まるまで来れなかった。

ダチに頼んで写真を撮って貰ったがこれがまた良かった。見るだけで幸せになり、声を録音してそれを目覚まし代わりに聞くだけでその日1日余裕で生きてける。


ダチからは女殺しが腑抜けになったとか変態になっただとか言ってたがぶん殴って黙らせた。


付き合ってた女達とは全部縁を切った。


それから2カ月が経ち、俺はどんどん想いを募らせていた。


ああ、彼女の隣に立ちたい。胸を張って付き合っていると言いたい。彼女の笑顔を見たい。俺にだけ声をかけて欲しい。全てが愛しい。誰にも渡したくはない。そんな感情まで生まれる始末。



だから、勇気を出して誘ったのにその努力に釣り合わないあっさりとした拒否の言葉。止めろ。止めてくれ。嫌だ。聞きたくない。嫌わないで。お願いだから他人事のような態度をとるのは止めてくれよ。

色んな女と付き合って馴れたつもりだった。だけど初めて俺は傷ついた。振られるのはこんなにも辛いのだと。


自分がすげぇダサく見えた。あいつに嫌な顔をされただけで嫌な汗が身体中にべっとりと吹き出た。激情に駆られてあいつに乱暴に手を伸ばして手を軽くはたかれて拒絶された時は、心臓が苦しい程痛かった。敵意溢れる言葉が容赦なく俺の心を粉々に砕いて、切り刻んだ。好きと言う感情がこんなにも弊害になるなんて思ってもみなかった。俺も適当に女と遊んだ事があるが彼女もこんな気持ちだったんだろうか。俺があいつを好きになった事自体が神様の天罰だったのだろうか?


情けなくなってあいつの居る教室から飛び出した。久しぶりに目に溜まった涙を見られたくなかった。


誰も居ない屋上にまで走っていって着いた途端、壁にもたれて泣いた。我ながらひどくなっさけねえ。


で、ダチの明信が来るまでただひたすら泣いていた。


ここまでは覚えている。

昨日いつの間にか気を失っていて気づいた時には五時を回っていて、階段の踊場でダチと二人で伸びていた。それでここまで至った経緯を思いだそうとしたのだがどうしてもこの先から思い出せない。

これから先を思い出そうとすると酷い頭痛がする。

何か大切な事を忘れている。


これから先で唯一覚えているのはテレビの砂嵐みたいなノイズの掛かった記憶で、薄れていく意識の中、俺は何かを言っていて、波流は悲しそうな顔で一筋の涙を流しながらなんて言っているのかは分からないが、完全に拒絶された事は覚えている。


だけど俺がその【言葉】を言った時、波流は悲しそうな目とは違ってとても嬉しそうな表情をしていたんだ。

どうしても思い出したい。波流が最後に言った言葉を…。どうしても知りたい。彼女の本当の答えを…。


それを思い出せたらきっと彼女との壁が無くなるんだと思う。それまで待ってろよ?波流!

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