3つの言葉「王様の酒瓶」@koru.
私は眠るのが怖い。
だって、眠ってしまったら私はあの世界で……。
酒瓶になってしまうんだもの!!!!!
いやぁぁぁぁ!!!
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ほら…今日も、私の中にお酒が満たされてる…。
ちゃぽん――――。
水音が私の中で跳ねる。
今日のは中々にアルコール度の高いお酒だわ。
その割りに口当たりがまろやかで…かなり高級なお酒ね。
私を満たすお酒を味見して、ほんのり気持ちよくなる。
瓶なのに味がわかるのが可笑しいなんて思わないわよ?
そんなの可笑しいなんて思ってたら、私が瓶になった事自体の説明をどうつければいいっていうのよ。
「いつまで待てば良い?」
低い声がしたので意識を上に向ければ、嫌になるほどの存在感を持つ男が居る。
なんたら国の王様で、酒瓶の所有者。
がっしりとした体躯に見合う大酒呑み。
ウワバミのわりには平日はがぶ飲みはせずに、美味い酒をじっくり味わって呑むのが好きらしい。
「まだか?」
我慢できないみたいに、その指先が酒瓶の縁に触れ、広く開いている瓶の口部分をゆっくりと撫でる。
ぞわぞわとするその感触に慄きながら、NOを示す。
「―――駄目」
性別の判らない(いや、瓶に性別なんてないんだろうけど)くぐもった音が、声のように瓶に響く。
「くっくっく…。 余を制止できるのは、お前ぐらいなものだ」
楽しそうな王様の声。
そして、指は瓶の表を包み込むように撫でる。
変な声が出そうになるのを堪える。
「震えておるぞ? 酒瓶のくせに酒に酔ったのか?」
愉快そうに言われて、かっと頬が熱くなる。
あくまでイメージ、実際には酒瓶なので変わらないんだけどね。
それにしても……
無駄なイケメンおやじめっ!
無駄な美筋肉つけてっ!
無駄な色気を駄々漏れさせるなっ!
あーもうっ! 酒瓶形でなけりゃ、お手合わせをお願いするのにっ!!(いや、大口叩いてしまいましたゴメンナサイ)
いいんだ、いいんだ、酒瓶は大人しく酒を熟成させてればさー。
不味い酒もそれなりに、美味い酒ならより美味くする魔法の酒瓶とは私のことよ! ふははははっ!
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・・orz
あーぁ、早く朝にならないかしら、そうしたらしょっぱい1Lの我が家のせんべい布団に転がる現実に戻れるのに。
しょっぱい現実だとしても、身動きが取れるだけやっぱり現実のほうがいい。
そ、それにしても、さっきからずっと瓶をくすぐるように撫でるのをやめて欲しいです!
身を捩りたくても瓶なので出来ず。
それでも小刻みに体が震えて、瓶の中のお酒に小波がたつ。
「心地よいか? ん?」
なんですかそのエロボイス!
「どれ、味見でも……」
瓶を持ち上げ、ぺろりと瓶の口についた雫を舐め取る。
「ひゃあぁぁっ!!」
ピシャンと瓶の中のお酒が跳ねて、王様の口元に跳んだ。
その雫を王様の赤い舌が舐め取る。
「―――良い味だ。 このまま、お前の最後の一滴まで飲み干そうか」
やぁぁっ! コップを! コップを使ってください!!
わたしの胸中の懇願など何処吹く風で、王様の少し酷薄そうな薄い唇が瓶に近づいてくる。
「本気ですか----」
悲鳴のような囁きのような音が酒瓶の中で反響するが、王様の行動を止めることはできなかった。
ひぁぁぁぁぁっ! ちょっと待ってぇぇぇぇ! 直飲みは駄目ぇぇっ!
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「―――っつ、今日も夢見が最悪だ……」
『本気ですかー!!!』と叫びながらの起床でした。
寝覚め最悪。
ベッドに身を起こしたまま、目を閉じて項垂れる。
あぁ、胸がまだバクバクいってる。
胸に手をやり深呼吸……、ん?
目を開けてパジャマを確認。
あれ? 着ていたはずのパジャマが…無い?
寝ぼけて脱いだのかしら。
顔を上げて、周囲を見まわ………。
「やっと目覚めたか、魔法の酒瓶よ」
お、お、おぉぉぉさまぁぁ!?
わたしの横には、上半身裸(下半身はシーツの中だ! きっとパンツは履いてる! うん!)の王様が、朝っぱらからいかがわしい※エロ気を撒き散らしていた。(※色気の上をいく何か)
驚いて硬直しているわたしの腕が引かれ、一瞬にしてベッドに押し倒される。
えぇ、それは見事な押し倒しでした。
「目覚めるのを待っていたぞ。 これでやっと、お前の美酒が味わえる」
にやり、と笑む王様の美顔が迫ってきて―――――。