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ホワイトカラー

作者: 藤也
掲載日:2026/03/01

 「お二人さん!お疲れ様っ」


 流星は元気よく声をかけると前を歩く2人組の女子生徒の間に割って入る。


「わっ、ビックリした!なんだ流星じゃない!」


 これは智佐。


「なんだはないだろ!嬉しいくせに」


「毎日会ってるし、特別な気持ちは湧かないかなあ」


 冷静に流星を見やる雪。


「雪はいつもクールだなあ?」


 ひょうきんでいつも明るい智佐と、どんな時も冷静でクールな雪。智佐と雪は2人とも吹奏楽部。高校では運動部に所属している流星。2人の女子と1人の男子。

 意外な組み合わせではなく、この3人は小学生の頃からの幼馴染で今でも同じ学校の同級生。気が合うせいか幼いころから3人はよく遊びとても仲が良かった。小学校、中学校、高校とみんな同じコースを歩んできた。この日はたまたま帰る時間が一緒になり3人で下校することになる。


 3人での下校の途中、女子2人に挟まれる格好になった。でも3人とも特別にそんなことは意識などしていないのだろうか?いつも通りの様子に見える。


「ああ、それにしても腹が減ったな。練習がきつかったし、学食のお昼御飯が全然足りなかったよ」


「アンタは運動部だし体も大きいからね。そうだ!今度私がお昼のお弁当作ってきてあげようか?」


 と真ん中の流星の方へ顔を向ける智佐。


「ええ?いいのか智佐?俺、メチャクチャたくさん食べるぜ?」



 2人の会話の内容が耳に入った瞬間、クールな雪の顔が少し引きつった。


 鞄の柄を持つ両手に、ギュッと力が入る。



「あんたの好物くらいわかってるよ?小学生の頃から全然変わらないからね。

 雪もどう?お弁当作ってあげない?」


「・・・・。私はパス!料理なんて普段はしないからね。お弁当なんて作ったこともないわ」


 ツーンと顎を振る雪。


「残念だなあ、雪の手料理も食べてみたかったな!!」


 いつも通りのたわいのない話をしながら、夕陽が差し込む帰り道で笑いあう3人。

 足元からすぐ後ろに伸びる3人の影も笑っていた。


 バス停まで来ると智佐は、笑顔で明るく流星と雪に手を振って別れた。彼女はバス通学である。

 そのあと流星と雪はすぐ近くの駅まで歩いて電車に乗った。ここから2駅ほど電車に揺られて帰る。


 電車は割と空いており向かい合わせの横長のシートに数人の乗客が座っている程度である。

 先に電車のシートに座った流星。

 続いてその横にちょこんと座った雪。


「なんかいつもより距離が近い気がするのは気のせいだろうか?」と思う

 流星。


 でも悪い気なんてしていない様子である。

 そこへ彼女は何やら自分の鞄をごそごそとし始めて、


「流星!この飴、すごくおいしいんだ。食べる?」


 と言った。雪の手にはポップな包装紙にくるまれた小ぶりな飴がある。


「え、飴?どうしたの急に」


 すっとんきょうな声が出る。


「いらないの?」


「あ、食べます・・・」


 雪のストレートな言い方にやや気押されながら答えた。


 夕暮れの電車の中でシートに並んで座っている2人。流星と雪との間にスペースはあまりなく、お互いの肘が当たるくらいに距離が近い。雪は飴の包装紙を取り、左の手のひらに飴を載せる。流星は手を出してすぐ隣の雪から飴を受け取ろうとした。

 が、雪は彼のほうへ向き直るとその綺麗な右手の指に小さくて丸い飴をつまんで流星の顔に近づけた。


 雪は彼の口元へと飴を運んだ。


 そして彼女の指先が流星のくちびるに軽く触れた。


 口の中に飴玉がころりと入っていく。

 突然のことにドキリ、としてしまう流星。



 女子の手から直接飴を口に運ばれるなんて今までにない経験である。

 続いて彼女は自分の口へと飴を運び頬張る。カラコロ、と口の中で飴を転がす音が聞こえる。


 雪の大胆な行動に流星の心臓はドキドキしてしまい、先ほど口に放り込まれた飴がなんの味なのか全然わからなかった。


 電車の車窓からは夕陽が入ってきている。2人の若い学生の微笑ましいやりとりを見て、向かいのシートに座るおばあさんがニコニコと優しい笑みを浮かべていた。


 数日後の3月14日。この日はホワイトデー。

 2月のバレンタインデーに2人からチョコレートを貰っていた流星。

 まず初めにバレンタインのお返しのチョコレートを3組の智佐に手渡した。くるくると変わる表情豊かな智佐はオーバーアクションで喜んでいた。彼女の魅力はこういうキャラクターにあると思われる。クラスメートにも人気があるらしい。


 その後2組の雪には格好良くラッピングされた小さなマカロンを手渡した。両手でマカロンを大事そうに受け取った。


 智佐にはチョコレートを手渡し、雪にはマカロンを手渡した。

 流星にとって2人とも大切な友達であるが、ホワイトデーのお返しのプレゼントの意味は違うものとなった。


 そのお返しのプレゼントを手にした時いつもクールな雪の顔が、チョット驚いた顔になった。


 そして小声で「・・・、ありがと」と呟いた。


 ホワイトデーのお返しのプレゼント。マカロンの意味は「特別な人」


 背は高くごつい体だけれどわりと童顔な流星だが、この時だけは雪とあまり目を合わせることもできず、マカロンを渡すとそれ以上の会話もなく直ぐに自分の教室へと引き返してしまった。小学生の頃からの付き合いの2人が今までにこんな雰囲気になったことはなかったし、彼女のあんな表情を見たのも初めてだった。



 流星の渡したマカロンの意味は彼女にも伝わったのだろうか?

 きっと伝わっているだろう。


 そんなホワイトデーの物語。

幼いころから仲の良い流星、智佐、雪の3人。智佐がお弁当の話題を持ち出すシーンに対抗して、


そのすぐあとに電車で雪が流星のすぐ隣に座り、直接飴を彼の口へと運ぶシーンなど異性に対する


彼女なりの精一杯のアプローチを感じ取ってもらえたら嬉しいです。


ここまで読んでいただいて有り難うございました!

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