雫川の葛藤
一階の食料品売り場の近くにあるアイス屋さんに俺と雫川は到着した。白い壁にメニュー表や店名が書かれたオーナメントがあり、他にちょっとした観葉植物やアイスの作りをした光る置物、お客さんが商品の提供を待つ用の椅子が3脚あり、シンプルな作りになっている。料理場とこちら側は白い壁で隔てられており、店員さんと顔を合わせることが出来るのは、商品を提供してもらえるカウンターだけだった。
俺と雫川はそれぞれ商品を注文し、商品を受け取り、近くにある席へと座る。
「うん、美味しい!」
雫川が注文したものを口にし、頬に手を添える。
それはストロベリーパフェで、彼女はニコニコしながら食べ進めていた。
「ああ、そうだな。」
俺もそれに同意する。俺が食べているのはブルーベリーとラズベリーが乗ったパフェで、こちらも美味しい。うんうん、美味い。
「……もーらい。」
と、俺が無心で食べていると、雫川が勝手に俺のパフェをすくいあげ口へと運んだ。
「……まあ、いいけど。」
一言断ってほしいものだ、と思っていると、なぜか雫川の表情が曇っていった。
「……泰輔君ってあんまりテンション変わらないよね?」
雫川はそう言って、ムスッとした表情をする。……やっぱりそう思う?
「なかなかな。気持ち的には高揚してても表には出づらいんだろうな。」
まあ、これに関しては自覚していることなので、申し訳ない。
「表に出づらいということは、ものすごくテンションが上がることがあったら、もしかしたら少しは表に出る?」
「どうだろうな。……基本一人でいるときのほうがテンション高かったりするし。」
「そうなの!?え、どんな感じなの?」
なんか急に雫川のテンションが上がった。そんな、面白い話ではないんですが……。
「いや、そんな人様に言うようなことでは……。」
「教えてよ。私を不機嫌にさせたお詫びに。」
「それとこれとは話が別だろ……。」
と、拒否してみたものの雫川は譲ってくれず、渋々話すことにした。
「はぁ……。ていうか、別に変ったことはないぞ?テレビとかYOUTUBEとかみて笑ったり、ゲームとか小説や漫画読んで興奮したり……そんな感じだ。」
「……興奮というのは?」
「?普通に展開が面白くて、気分が高揚したり……ああ、雫川が期待してたことではないぞ、ごめんな。」
変態の雫川様のご期待に沿えず、申し訳ないところだ。
「別に期待してないからね!?」
ということは、やはり考えてはいたということになるな。へぇ~。
「やっぱり、ちょっと変態だよなあ。」
俺が面白がりながらそう言うと、雫川は少し物憂げな表情になり、視線を少し下に向けた。……やばい、からかいすぎたか。
「……まあ、サキュバスの性なのかもね。泰輔君は引いたりする?」
ああ、なんだそういうことか。
「いや、別に。意外ではあるけど、そうなんだって思うくらいだな。」
「いや、それはそれで何かもうちょっと何か思って欲しいってところではあるけど……ありがとう。」
「これで、お礼を言われるのはもったいない気もするが……。まあ、受け取っておきます。」
雫川のこういう一面って本当、可愛いなと思う。……俺にはもったいない気がするな。
「……じゃあ、泰輔君がそっちの意味で興奮してるところ見たいな今から。」
パフェも食べ終わり、そろそろ席を立とうかというところで急に雫川の様子がおかしくなった。目が移ろになり、息も少し浅くなっている。この兆候が出るときは十中八九体液が足りていないときだ。
「了解。」
俺はそう笑顔で答える。これ、ちょっとどころかかなりの変態だよな。
まあしかし、今の雫川、なんか普段とのギャップで面白いんだよな。それに俺自身、その行為自体楽しみではあるわけで。
雫川に連れられ、エレベーター横の階段があるフロアへと着く。サキュバスの性質のせいなのか、雫川はこういう死角になる場所をよく知っており、毎回連行される。
ただ、ここは周りの人から死角にはなっているが、それでも見えないわけではない。だから、普通は恥ずかしくてキスなんて無理なのだが……、サキュバスには特別な能力があるらしい。
「……さすがに結構ドキドキするよな、これ。」
「泰輔君でも感情が隆起するんだね。まあ、私もだけど。」
言って、雫川は唇を奪ってくる。雫川の唇と舌の感触を感じながら、俺は周りを見る。確かに、人は通っているのだが、みなこちらに気付いている気配がない。どの人も素通りしており、こちら側に目を向けている人もいるが、目が合うことはなかった。
これが、サキュバスの能力らしく、一定期間周りの人の視界から外すことができるらしい。俺も最初は半信半疑だったが、この状況で何回やってもこちらを見て驚く人や目が合う人もおらず、本当なんだと認識することができた。
……それにこいつが本当にサキュバスだと実感できたのはこの体験が大きい。普通の人間ではこんなこと出来ないからな。
……にしても
「本当毎回毎回積極的だよな。」
あなた、ちょっと自重しようと思わないよ?場所も場所だし……。
「仕方ないでしょう?それが私の性なんだから。」
「それはそうなんだろうけど……。」
妖艶な彼女を見ながら俺は本当に性だけが原因なのだろうかと半信半疑になっていた。
――――――――
「……泰輔君の体液が足りなくなってくると、途端に発言がおかしくなっちゃうのよね……。」
言って、雫川は少し顔を赤くする。体液が足りないときの言動は本人からしても恥ずかしいらしい。酔っぱらってる感覚に近いのかもしれない。ただ……、
「そうか?そんなに変わってるようには思わないぞ。」
「……それはそれで、私のことどう見えてんの!」




