瑠璃の家からの帰り
「今日はごめんね、あんなことになって。」
「……いや、全然大丈夫だぞ。」
俺と瑠璃は外を歩いていた。あとから、荷物を取ってきてくれた瑠璃にそのまま少し送ってもらっている。
「……それって本当はお姉ちゃんとお母さんとのこと期待してたってこと?」
「いや、それはない。本当にない。断じてない。」
「……否定の言葉が強すぎて逆に怪しいなあ。」
瑠璃はじろっとこちらを見てくる。違うのだから、たくさん否定するのは当然だろう。
そう思いながら、瑠璃のほうを見ると神妙な面持ちに変わっていた。
「……実はお姉ちゃんとお母さんが私の彼氏を襲うのこれが初めてじゃないんだ。」
「……そうなのか。」
まあ、当然と言えば当然かもしれない。サキュバスだし、とても想像できる。
しかし、それって危ないって分かってて呼んだってこと?
「ただ、今までの彼氏はそれを喜んでたふうでもあったから。あまり強くは止めなかったんだけどね。」
「ああ、何となく想像できるな。」
思春期男子たちは猿みたいなやつが多いから、むしろわくわくしてそうだな。
「まあ、それで受け入れてげっそりして帰っていく人何人もいたけどね。」
「……怖い世界だ。」
俺もそうなっていた世界線があったのかもしれない。
「泰輔君を呼ぶかめちゃくちゃ迷ってたんだけどね。ただ、うちの家族が呼べってうるさくってね。それに、私も泰輔君と二人きりでゆったり普通に会話とかしてみたかったから呼んじゃったんだよね。」
瑠璃は呆れたように笑う。
「泰輔くんのこと呼ぶけど、絶対何もしないでね!って今までで一番強く言ったんだけどね。お姉ちゃんもお母さんも分かったって言ってたのに……。ほんとにごめんなさい。」
言って、瑠璃は深々と頭を下げる。そんなに謝らないで欲しい。結果的には瑠璃が止めてくれて何事もなかったんだから。
「いやいや、瑠璃のおかげで何の問題にもならなかったし、それに俺もお邪魔してみたかったから、瑠璃の家に。おかげで楽しかったし。」
「そう……。」
瑠璃の表情がホッとしたものに変わる。
もちろん緊張はしていたが、行きたかったのは本心なので安心してほしいところだ。
「でも、泰輔君はやっぱり違うと思ってた。私の見立て通りだね。」
瑠璃は人差し指をピンと立てながら微笑む。
買いかぶりすぎなような気もするが、想像通りだったのなら何よりです。
「まあ、でもしばらく私の家には来ない方がいいかも。」
言いながら瑠璃は少し俯く。
まあ、あんなことがあったのなら呼びたくなくなるだろう。俺も進んでいきたいかと言われると、素直に首は縦に振れないわけだし。
「今度は泰輔君の家にお邪魔させてもらおうかな。」
「俺の家、何にもないけどな。ただ、部屋があるだけだ。」
今の俺のアパートの部屋は2LDKで俺と父親の二人暮らしだ。二人とも物欲がなく、部屋には何もない。まあ、お金があんまりないっていうのもあるけど。
「何もないのは悪くないよ。ゴミ屋敷より幾分かましでしょう?」
「……極論が過ぎる。」
そりゃ、足の踏み場もないよりは良いだろうけど。だからって面白みがない家に来たいと思うだろうか。
それに……
「……あと割と汚い。俺と父親の二人ぐらいだからな。掃除もあまりしないし。」
「え?そうなの?……じゃあ、私が掃除しないとね。」
瑠璃はニヤッとした笑みを浮かべる。
……なんでそんな背中に炎が見えるくらいやる気がある感じなんでしょうか。しかも炎が青いタイプだし。
「いや、それはさすがに申し訳ない。お客様の手を煩わせるのは紳士としては見過ごせない。」
「いつから紳士になったの。……まあ、泰輔君はそうとも言えるかもね。」
ちょっと含みがありますねえ。雫川さん?それは何に対しても積極性がない俺の性分を揶揄しているんでしょうか?
そんな会話をしながら瑠璃と住宅街を歩く。さきほどの恐怖のシチュエーションは現在の小気味よい会話に上塗りされ早くも過去の物へと変わっていっていた。
……ただ、あまり聞くのも良くないだろうが、一つだけ気になる点がある。
「……瑠璃もお姉さんや母親と一緒の感覚持ってるのか?」
一応、瑠璃もサキュバスであの人たちの家族にあたる。
ただ、今までの瑠璃を見ている感じ、あの人たちと一緒のようには思えない。だから、隠しているのかそれともそういう感覚はないのか、純粋に気になってしまった。
「……分からないんだよね。私としては持ってないと思いたいんだけどね。もしかしたら持っていて、その気持ちを押さえつけているだけなのかも。……だから、体液が不足したときいつもより積極的になっちゃうのかもね。」
「……なるほどな。」
確かに、その瞬間の瑠璃はいつもとは違い、性の方面に積極的だ。急に変わることもあるので、驚くこともなかなか多い。
まあ、嫌いではないので、全く持って問題はないのだが。
「でも、もしかしたらその気持ちを持っていて、それを他人に危害を加えないために抑えているのなら、めちゃくちゃ偉いと思う。」
これは心からの本心だ。
今まで付き合ってきた感じ、瑠璃は他人を慮るタイプで他人のためなら自分の欲を抑えるとても優しい心の持ち主だ。
推測ではあるが、俺の予想も当たらずとも遠からずといったところだろう。
「……ありがとう。そんなふうに言ってくれるのは泰輔君だけだね。」
瑠璃は頬を赤くしながらハニカむ。
ただ、思ったことを素直に言っただけなので、その反応をされるとこちらも少々照れくさい。
「……俺にこれを言わせたのは瑠璃の普段の行いゆえだよ。」
「ほう。具体的にはどういう行い?」
「……それはまた言葉がまとまったら、140文字以内で言います。」
「何そのXみたいな縛り。……まあ、楽しみにしとくね!」
瑠璃は笑顔ではしゃぐ。
この素直なところが瑠璃の良いところだよな。




