夫はそんな不安を抱えていた
俺はどうしようもない不安を抱えていた。
「どうしよう、妻が、美咲がパパ活をしているかもしれない」
相談したのは俺と美咲の共通の知り合いの真紀だ。
「どうしてそう思ったの?」
「最近一人で旅行に行ったり、ブランドものバッグやアクセサリーを買っていたりするんだ。確かに夫婦共働きだけれどそんなに余裕があると思えないんだ」
「へー、だから誰かにお金を出してもらっていると考えているの?」
「そう考えた方が自然だ」
「へえ、美咲ってそんなことするんだ」
そう、それは俺も意外だった。でもそう考える以外に話の辻褄が合わなかった。
「俺も意外だった。どうしよう、どうすればいいんだろう」
思わず頭を抱えた。美咲はそんなことをするはずがないと思いつつもそれ以外に考えられない自分が辛かった。
「何を悩んでいるの?」
真紀はまるで今日の夕飯を決めるような声で俺に問う。
「いや、それは。何に悩んでいるかと言われれば」
「あなた前から言っていたじゃない、夫婦仲は冷え切っているって」
確かに言った。確かにそう言っていた。でも、あれはなんていうか。もっとかまって欲しかったから言っただけというか。特にそんな深い意味はなかった。俺にとっては。
「それはそうなんだけど」
でも、ここでそんなに深い意味はなかったと言うのはよくないような気がした。
「だったらパパ活を理由に離婚しちゃえばいいんじゃない?」
「それはちょっと」
そう、それはちょっと。だって離婚するなんて考えてなかった。だって、美咲がもっと俺にかまってくれればそれでよかっただけなんだ。
「パパ活が理由だったらあっちが悪かったってことで離婚できるでしょ?」
でも、真紀はどんどん離婚の方向に話を動かしていった。
「それもそうだけど」
「そうすればなんの問題もなく別れられるわよ」
大丈夫、何も問題はない。それは当たり前のことだ。悪いのは美咲だ、みたいな声で伝えれば気持ちはすぐに整理できたようだった。
「そうか、パパ活を理由にすればいいのか」
まるで天恵を得たような気持ちだった。そんな俺を真紀は肯定してくれた。
「ふふ、安心した?」
「うん、ありがとう」
さっきまでの不安はどこにいったんだろうか。俺は美咲と離婚して真紀と結婚すればいい未来が来るのだと信じていた。
疑う前に色々気にすることあるだろ、とは考えない方向で。