徒然一人称
1
新居買って2年
幸せどころか小さなトラブルや嫌なことばかりで
それを知った母親が心配して、なんか色んな人に声かけて変なおじさんを紹介された
占い師?じゃないんだって
母親も一緒にファミレスで会ったんだけど
あんまり愛想ない人で
プリン食べながら
「西側の廊下の窓、閉じちゃった方がいいよ」
って言われた
磨りガラスで外はすぐ隣の家の壁だしで
カーテンも付けてなかったんだけど
「窓は薄いから、色んなものが入りやすい」
って
後で母親にも聞いたけど、うちの間取りなんか説明してないし
おじさんに会うのも話すのも初めてだって
窓枠に貼るシートみたいなの貼り付けて、その上からタペストリー飾ったの
そしたら
『壁くらい厚手にしないと生温い』
って母親に連絡来て母親伝に駄目出しされてしまった
だから
分厚い値段も張るマットみたいなのを買ってさ
夫に設置してもらうために、垂らしてたタペストリー外したら
夫が
「ひっ……!」
って思わず声出してた
「何?」
って私は分厚いマットの包みを取ってたからわかんないけど
夫は
「いやなんか見間違いだった」
って
知らないけどすごい急いで分厚いパットを嵌めてくれた
それでパット隠しのそこにタペストリー引っかけたら
今度は10日くらいしてから母親伝に
「『目はなくなりかけている』って伝えておいてだって」
って再びおじさんから、今度は合格の言伝てをもらった
「目?」
そう
なんかね
おじさん曰く
隣の家との隙間が
『色々なもの』
のね
生きてるも死んでるも関係なくの通り道になってるんだって
でも
窓があるから
ふと立ち止まってじっと中を眺めることもあるんだって
ガラスが曇ってようが関係ないんだって
それで
何かが立ち止まって覗いてると
「なに?」
「なに?」
って他の「何か」たちも立ち止まって覗き始めて
段々
少しずつ大きな目になっていくんだって
でも今は窓をしっかり埋めちゃったから
目は段々興味を失ってほどけてる途中なんだって
でも
全部が全部
ただ塞げばいいって話じゃなくて
私の家の場合はたまたま目だったし
明かり取り用の窓でもないから
閉じるのが早いって結論になったけど
ケースバイケースで
他のケースにはそうそう簡単に当てはまらないって教えられた
窓は安易に閉じてもいけないって
難しいね
2
「生理の時のみに視えるんです」
って人に視て貰ったことがある
「2日目の金額設定を一番高くしてます、一番視えるので」
2日目が一番のピークらしい
「どのプランにします?」
と聞かれたのはそのせいか
値段が4日目と3倍くらい違う
普段から
「ピル飲んでるんですよ、仕事の予定立てられないから」
色んな理由でピルを飲むのは知ってたけど
こんな理由で飲む場合もあるのね
「はいこんばんは。さっそく始めますね、……ええっと、もうすぐでキッチンの電球切れるから替えた方がいいです」
あ、はい、そうします
「猫ちゃんがあなたのバッグに嘔吐してるの見えますね」
えっ!?
「バッグ、床に置かない方がいいです」
気を付けます
あとは冷蔵庫の中のもの、あれはもう食べない方がいいとか言われた
そう
そうなんだよ
確かに視えてはいるんだろうけど
なんか、正直大したことないなと思ったら
「……あと。あなたの仕事場で、隣の席の女性があなたの机の引き出しを漁ってるのが見えます」
は?
「今はハサミとかホチキス、使い捨てクリップを使ってる程度ですけど」
「あなたとの境界線が一方的に崩れてるから」
「そのうちあなたの、もっとプライベートな部分、ロッカーとかも勝手に漁るようになりますね」
「ロッカーは空っぽに、席替え程度でもだいぶ違うから頑張って下さい」
って言われた
上司に掛け合って
窓からの日差しを理由に席替えしてもらったからか
今のところ何もなく済んでるけれど
ハサミとか指サックが忽然と消えたりする理由だけでも分かってよかった
奮発して2日目にして正解だった
た、バッグは玄関にフック付けて引っ掛けてるよ
3
「まずは部屋の掃除しなさいな
そう、そんだけ
今日は料金は貰わないから
まぁでもせっかくここまで来たんだから、あんた、甘いもの好き?
私も好きなのよ、来た所にカフェあったでしょ、あそこ美味しいわよ」
無駄足も可哀想だから寄っていきなさいなってお勧めされた
1ヶ月後に改めて行ったら
「ありゃあ、こりゃタチ悪いのいるわね」
って初めて視て貰えた
「掃除して物は減ってるね?ええと、東だね、本棚を東の壁に移動させて、観葉植物もそっちにね、ベランダ側でいいから」
って模様替えと配置換えの場所まで指定された
それで
「あとはそうさね、強くなんなさい」
「心だよ、心持ち、気を強くしなさい」
って病は気からみたいな雑なアドバイスされた
三度目に行ったら
「あん?何、あんた、また来たの?まだ何かある?少しは防げたはずだけど?
え?お礼のお菓子?
そのためにわざわざ来たの?
予約までして?
あんたねぇ、そんなお人好しだと喰われる一方よ、貰うけどさぁ
え?あのカフェにお茶に来たついで?
そう!!
そうそ、それでいいのよ、その意気でいなさい!
あぁ、わたしも行くわ
今日から新作のケーキ出てるのよ、ちょっと待ってて」
「これよね、これ。
安くないけど美味しいのよねぇ♪
ね、美味しいでしょ?
は?
何から防げたのか?
隣よ、隣の住人の男、まだいるでしょ
隣の部屋の若い女のあんたに
並々ならぬ興味を抱いて
ちょっとでもなくあんたを監視してたのよ
気付かれないようにね
でもあんたは気付いた
弱いなりに女の勘が働いたのね
でももう大丈夫
ターゲットは
もうあんたから他に移ったのよ
……は?
はぁっ?
その新しいターゲットが心配?
あんたねぇ
人は人、あんたはあんた
それに、みんながみんな、あんたみたいに弱くないのよ
そりゃまぁあんたより弱いのも中にはいるけどね」
「そんなのはもうね、全くの管轄外よ
あんたも世界の戦争なんか終わらせられないでしょ
それと一緒、同じ、同じ」
「あんたはね、他人云々より
まずもっと強くなりな
今のままじゃ
差し出した手だって、手首ごと持ってかれて終わるからね」
4
「聞いてぇ、凄い腹立つことあったの」
なに?
「さっき早く着いてさ、占い行ってみたら、嫌なことばっかり言われた」
例えば?
「例えば、なんだったかな、そうそう、ちゃんと前取りしなさいとかぁ」
前取り?
「スーパーとかで一番前の商品取ること」
当たり前じゃないの?
「一人暮らしだと、少しでも賞味期限長いの欲しいの」
それで後ろの物から取ると
「そうだよ
でも
『そうやって自分だけが得すればいいって考えが、同じくらいの不幸を呼び寄せてる』
だってさ、ホントムカつく!
手前のは家族多い人が手前の取ればいいだけじゃん」
……じゃあ、その占い師は、視えてたんだ?
「知らなーい、適当言ったんじゃない?」
でも当たってると
「みんなやってるよ」
私はやってない
一人暮らしだけど手前から取るよ
「……」
何?
「……あの占い師と同じ顔するんだね」
どんな?
「その、憐れみみたいな顔」
そうなんだ
「はーぁ!もっとさぁ、いついつにどんな人と知り合って、いつ頃に結婚出来るみたいなのを知りたかったのにさぁ!」
それは
今のままじゃ無理だからのアドバイスだったんじゃないのかな
それに
後ろから取るの、やめないの?
「しつっこいなぁ!生活の知恵だよ!w」
何が面白いんだろう
ネットで好きなアニメ繋がりで知り合って、たまたま同い年で隣の県だったから、都内でやってるコンセプトカフェに一緒に行きましょうってなって、仲良くなったつもりの子だったけど
ダメだこれは
同い年で共通点は好きなアニメ、のみ
同じ年に生まれて、同じ地域に住んでたまたま同じ学校の同じクラスになった
それと同程度の薄く浅い縁でしかない
この子とは
もう個人的に会うのはなしにしよう
ごめん、今日バイトだから早めに行くね
「えー?なんのバイトだっけ?」
あぁ
「言ってなかった?スーパーの品出し」
そう
あんたみたいな後ろから品物取ってく客に迷惑してる1人だよ
5
昔から霊感なんてないし
むしろ何か「視える」って
脳や視力のバグくらいに思ってたんだけどね
数ヵ月前から
家にいても気圧の急降下みたいにぐらぐらしたり
突き刺すような頭痛がして
なんだろう更年期も終わりかけで勢い増してるのかしらといい迷惑だわって
原因不明だったんだけど
たまたま娘が頼んだ荷物を受け取った時に
すごい吐き気がしてね
そういえば娘が
「ネットのフリマにハマッてるの」
って言ってたの思い出したのよ
それで
娘が見慣れない服を着てる時に特に具合が悪くなることが判明したのよ
よく分からないけど
やっぱりこの年だしどこかしらおかしくなってるのかしらね
人の念?
みたいなものを感じやすくなってるのか
楽しいものには反応しないのに
悪いものだけに強くアンテナが働くのよ
困っちゃうわ
そうなの
それでここからが本番なんだけどね
今日は久しぶりに会えたのにごめんなさいね
本当に失礼だし怒らせるかもしれないけど
もうあのまま一緒にいたらもう失神するくらい気分悪くなっちゃって
だいぶ早めの解散になってしまって
本当に申し訳なかったわ
それでね
ごめんなさいね
あなたの着てた服
たぶんフリマとか古着屋のものよね
個性的で素敵だったけど
今も
思い出すだけでね
何か頭に黒いもやが掛かるくらい変な感じがするのよ
同い年だから老婆心なんて言葉を使いたくないけど
少しね
ほんの少し
なにもないと思うけど
あなた自身のことを気をつけて欲しいの
あまり話したくない事情であるだろうに、わざわざ教えてくれてありがとう
変な顔されてもおかしくないってその気持ちも解るわ
「この年にもなると身体にも心にも不具合もたんと出てくるわよね」
と心配はしたけど
少なくともあの場から具合が悪化してないならば安心したし良かったわ
そうそう
あの服ね
義母から貰ったの
趣味じゃないけど着て見せてってしつこくて
実はあなたに会う前に義母に会って見せてきたばかりなの
『いいわ、すごく似合ってる』
なんて言われて
いつも仏頂面なのに妙に笑顔だったわ
それで私も単純だから
満更でもなかったんだけどね
あなたの言葉を信じるなら
義母はこれをどこで手に入れたのかしらね
とりあえずネットで似たものを探して
これは切り刻んで燃えるゴミに捨てるわ
古布や資源ゴミで捨てると
ごみ捨て場から持ち帰る人もいるからね
ああ勇気を出してメッセージを送って良かった
耄碌したのかしらと思われてもおかしくないと思ってたから
信じてくれてありがとう
娘にはね
フリマサイトをやめてもらう代わりに服屋へ買い物へ行ったのよ
新品の服を買ってあげるためにね
喜んでたわ
それでついでに本屋に寄って「念とは」みたいな本を買っちゃったわよ
いい年してスピリチュアルよ
スピリチュアル
変換できてるから言葉は合ってるわよね?
あらま
いいわね女の子
うちの息子はなんだっけ
ほら、アニメみたいな女の子がパソコンの中で話してるあれ
なんとかチューバー
あれに夢中よ
息子なんか私が倒れてても
変なところで寝てるな
くらいにしか思わなさそう
旦那そっくりよもう
そうそう
私も聞いて欲しいことがあってね
義母が
懲りずに服を押し付けて来たの
どこから持ってきてるのかと聞いたけど教えてくれないの
だからね
その貰った服を使ってポーチ作って義母にプレゼントしてみたの
目立たないように内側にね
それからね
たった3日だったわ
倒れたのが自宅でだったから少し大変だったみたい
畳の上に倒れてたから畳から替えなきゃならないみたいで
それで6日後にお通夜なのよ
最近火葬場の予約も取れにくくて
夏場だからドライアイス代がかかって大変だって
でも
そうね
終わってしまえば何だか呆気ないものよね
落ち着いたら今度こそゆっくりお茶しましょ
ちゃんと新品の服を着ていくからね




