静かな奇跡
「ドアが閉まります。ご注意ください。」
平日の朝、多くの学生がいる駅のホームで私は落とし物を拾った。よく見るとそれは生徒手帳だった。駅員さんに渡さなきゃいけないのは分かってるけど、今日寝坊して学校に遅刻しそうな私にはそんな時間がなかった。だから、そのまま学校に向かった。
「結衣、おはよ!」
教室に入った瞬間、こう言いながら私に抱き着いてきたのは親友の佐藤夏樹だ。
「おはよ!」
そんな夏樹に私は挨拶を返した。
「ねぇ結衣、それ何?」
夏樹が、生徒手帳を指さして聞いてきた。
「あーこれね、駅で拾っ…」
「みんな、席についてぇ。」
私が、夏樹に今朝の出来事を説明しているときに、山田先生、通称山ちゃんが教室に入ってきた。朝の会が終わり山ちゃんが教室から出ていくと、夏樹が小走りで私の所に来た。
「さっき言いかけてたけど、駅でその生徒手帳拾ったんでしょ!」
私が言いかけてたことを夏樹は理解したらしい。
「そうだけど。」
「ついに結衣にも運命の人が現れたのね!」
夏樹がまた変なことを言い始めた。夏樹はすごく恋愛が大好きな女の子だ。こんな風によく運命の人と言っている。
「だってさ、よくあるじゃん!落とし物を拾ってその人に届けていい感じになるみたいなの。それで、結衣は生徒手帳に載ってる写真見たの?」
そんな少女漫画みたいなこと現実では起きないって。私は心の中で夏樹にツッコんだ。
「見るわけないじゃん!」
「なんでよ。すごいイケメンかもよ!見なよ!」
だから、そんな少女漫画のこと起きないって。その瞬間、夏樹は生徒手帳を私から奪って中を見た。
「きゃぁぁぁぁ!イケメンだぁ!」
夏樹が騒いだ!
「結衣!結衣!すごくイケメンだよ!」
夏樹が言う通り本当にイケメンだった。
「結衣、なんか書かれてる。」
夏樹に言われよく見ると、確かに何かが書かれてた。そこにはこう書かれてた。『俺は耳が聞こえない』、と。私と夏樹は驚いた。
その日の帰り道、私は駅員さんに生徒手帳を届けた。今までは落とし物を届けてもお礼しか言わないのに、今日はいろいろなことを聞かれた。
「名前は?」
「福井結衣です。」
「電話番号は?」
「XXX-XXXX-XXXXです。」
「住所は?」
「〇〇県〇〇市〇〇区〇〇庁X-XXです。」
なんでこんなに聞かれたのかすごく不思議だった。私は家についてもずっと考えてた。生徒手帳を届けるとあんなに聞かれるのかな…と。
翌朝、私のスマホに電話がかかってきた。知らない電話番号だったので私は出なかった。すると、留守電が入ってることに気づいた。聞いてみると、
『先日は、生徒手帳を拾ってくれてありがとうございました。お礼がしたいので午後5時に〇〇駅の改札で待っています。来てくれると嬉しいです。』
こう彼は言っていた。だから私は午後5時に〇〇駅に着くように学校を少し遅く出た。駅に着くとスマホをいじってる男性がいた。多分その人だと思い私は彼に近づいた。すると彼は、
「もしかして、生徒手帳を拾ってくれた方ですか?」
と聞いてきたので私はうなずいた。
「お会いできてうれしいです。俺耳が聞こえないので筆談で話しませんか?」
と言われた。だから私はうなずいた。私たちは駅の近くのマックで話した。
〈今日は来てくれてありがとう。なんで届けてくれたの?あっ、もしかして中見てない?〉
と彼が言った。そして、私は中を見たことを素直に謝った。
〈理由なんてありません。ごめんなさい。中は見ちゃいました。〉
〈中見たのに届けてくれたの!?〉
〈はい。でも、なんでそんなに驚くんですか?〉
別に届けるのは普通のことなのに、なぜそんなに驚くのだろう。不思議な人だなと思った。
〈だって俺…〉
〈もしかして、耳が聞こえないからと言いたいんですか?〉
〈うん。〉
〈そんなの関係ありませんよ。〉
本当に関係ないと思った。
〈そう言ってくれるのすごくうれしい!名前さ結衣ちゃんだっけ?〉
〈はい!〉
彼が名前を知っていることに驚いたがすぐに駅員さんが言ったのかと理解した。
〈いい名前だね!〉
〈ありがとうございます!誠人くんですよね。間違ってたらごめんなさい!〉
〈あってるよ!何歳?〉
〈15です。何歳ですか?〉
〈俺も15だよ。だから、敬語やめてよ〉
〈うん!〉
私たちは2時間ぐらい話した。次の日も、次の日も話した。いつの間にか私たちはすごく仲良くなり、毎日のように会って話すようになった。連絡も繋いだ。
ある日、私たちが2人で筆談しながら歩いてると、クラスメイトの真矢ちゃんと亜由美ちゃんに会った。彼女たちは意味深な笑みを浮かべスマホに何か打ち始めた。それを私たちに見せてきた。そこに打たれていた内容はすごくひどい内容だった。
〈もしかして、耳が聞こえないの?可哀そう!生きるの大変でしょ。結衣もよくそんな人と話せるね!私だったら絶対無理なんだけど!〉
彼女たちは笑いながらどこかに行ってしまった。私はむかついた。すごくイライラした。誠人は下を向いていた。私は、そんな彼にどんな声をかければいいか分からなかった。お互い話す気になれずその日はその場で別れた。
翌日学校に行き、私は2人を呼んだ。彼女たちが私の所に来て言ってきた。
「あっれぇ、筆談好きの子だぁ!」
「ふざけないでよ。何が生きるのが大変よ。みんな大変でしょう。耳が聞こえない?だから何?」
私は彼女たちに向かって勢いよく怒鳴った。彼女たちはうつむいた。
「筆談で話すの全然めんどくさくないよ!」
私はまた怒鳴った。
「私たち本当のこと言ってるのになんで怒られなきゃいけないの?」
さっきまで黙っていた2人がこう言ってきた。それを聞いて何を言っても無駄だと思った。彼女たちはすごく可哀そうな子だとも思った。こんな考え方しかできないのだから可哀そうでしょ!私は、2人を置いて教室に戻った。
放課後、家に帰って誠人とメールを送った。
〈昨日のことなんだけど、その場で守れなくて本当にごめんなさい。今日2人にガツンと言ってきました。誠人と話すのはすごく楽しいということ。生きるのが大変なのはみんな同じだということ。2人は分かってくれませんでした。でも、私はそれでいいと思っています。本当に仲が良い人が分かってくれていればそれで充分です。これからも誠人といっぱい話したいです。〉
こんな長文を送ったのは久しぶりだった。
〈ありがとう。俺も大切な人が理解してくれていればそれで充分です。俺は結衣とこれからもずっと一緒にいたい。結衣が好きです。付き合ってください。これから、たくさん迷惑をかけると思う。それでも、いいのならよろしくお願いします。〉
誠人からのメールを読んで、私は涙を流した。誠人となら上手くやっていける。そう思えた。私だって迷惑をかけるはずだ。
〈私も迷惑をいっぱい書けると思います。私も好きです。よろしくお願いします!〉
もちろんこれが私の彼のメールに対する返事だった。
この小説を読んでくれて読者様ありがとうございます。
この小説は、耳が聞こえない男の子と出会った女の子、そして彼らを取り巻く人々の物語を描いています。
愛と友情、成長と差異が交錯する中で、彼らの心が奏でる静かな旋律に触れてくれたことを願っています。
この物語は、ただの文字やページの中だけでなく、読者の皆様の心にも訴えかけられたら嬉しいです。
日常の中で感じる些細な奇跡や愛情の光に気づいてもらえたなら、それがこの物語の最大の喜びです。
また、物語の登場人物たちが抱える困難や試練に共感し、一緒に成長していただけたなら、それこそがこの小説が届けたかったメッセージです。
人と人との繋がり、愛と理解の大切さを感じてもらえたなら、それだけで私の目的は達成されたと思います。
最後に、この小説を手にしてくれた読者の皆様に、心から感謝します。
読者様の存在があってこそ、物語は輝きを放ち、意味を持ちます。
これからも、さまざまな物語でまたお会いできることを楽しみにしています。
ありがとうございます!