06:『アクヤクレイジョウ』は難しいですの
「ほら、その視線! ナタリア様の視線は優しすぎますわ。もっと力強く、傲岸不遜な雰囲気を醸し出しませんと立派な『アクヤクレイジョウ』にはなれませんわよ!」
「ナタリア、縦ロールが乱れていますよ? セルロッティ様のように美しく保たなければいけません」
「いけてるいけてる! その調子で頑張って!」
「極悪さが足りませんわ。もっと、もっとですわ」
「男に嫌われる女性は基本媚び下手なんです。それと、物腰柔らかなのも好かれる原因になるので鋭い物言いをした方がいいですよ」
――協力してナック殿下を撃退しようと決めた後、すぐにお茶会は中途で終了となりました。
ですがそれで解散とはならず、現在、セルロッティ様、アリス様、ジュリエラ様、メリ様、ミランダ様の五人にご指導いただきながら、私は真の『アクヤクレイジョウ』とやらになる訓練をしておりますの。
ヒジリ様の話の通りの高飛車で極悪な感じを出すことがなかなか難しいんですの。
「『アクヤクレイジョウ』に一番大切なのは強欲さと意地悪さだとヒジリは言っていましたわ。ナタリア様の性格とは正反対ですから難しいとは思いますけれど、ナタリア様ならきっとできますわ!」
そんなことをおっしゃってくださるのはセルロッティ様。彼女がこの中で一番『アクヤクレイジョウ』について詳しく知っている方ですの。
何せ聖女ヒジリ様からまるで『アクヤクレイジョウ』のようだと評されていた方ですもの。……私はあまりセルロッティ様のことを意地悪とは思いませんが、確かに常に鋭い態度でいらっしゃいますの。そんなところが素敵なのですが。
「肝心なのは鋭さですのね。わかりましたの」
私はそれから、さらに最高の『アクヤクレイジョウ』になるための特訓を続けました。
――――そして後日設けられたお茶会、もとい報告会にて。
「どうでしたの、クズ皇太子とのお茶会は?」
「あそこまでやったんだもん、アホ脳筋をうまくぶちのめしたんだよね?」
「ですからクズと言ってはいけませんって。……ともかくナタリア嬢、結果を教えてください」
皆さんが興味津々に尋ねてくる中、私は項垂れ、
「……見事なまでに完敗ですの」
力なく呟くのが精一杯でしたの。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
友人たちの協力を得て、以前より何段階も『アクヤクレイジョウ』らしくなった私は、意を決して数日後に予定されていたナック殿下と二人の街歩きに向かいましたの。
ヒジリ様曰く、こういう行為はデートというらしいですの。詳しくは存じませんが。
まあ、護衛もいるわけですし本当の二人きりではありませんけれど、それでもずっと肉団子に抱き止められ続けるだなんて耐えられませんの。
ですから私、出会って早々意地悪な態度を取り、拒絶しましたの。
「あなた様の手で触れられるとか弱い私の華奢で美しい腕が折れてしまいますの。加減のできない殿方には触れさせることはできませんのよ」
しかし、
「あはは! 確かにそうだな! 俺としたことがそこに気づかないとは。じゃあこうすれば折れないだろう」
そう言って――なんとも破廉恥なことに、私の体を、胸に抱え込んだんですのよ。
この時はさすがに、自分が幻覚を見ているのではないかだなんていう考えすら抱いたくらいですの。
「い、一体、な、な、何をなさっていますの!?」
「お前が折れないように大事に抱えようと思って。だってお前は俺の婚約者なんだから、俺が守るのが道理だろう? ああ、小動物みたいに小さくて柔らかい。本当にお前は可愛いなぁ。愛してるぞ、ナタリア」
「ひ、ひぃ〜〜!!!」
綺麗に整えた縦ロールはぐちゃぐちゃになり、羞恥心で顔が真っ赤になり……。
その後の私がどうなったかは、皆さんのご想像にお任せしますの。
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