05:友人たちに相談してみますの
「これでは私の身がもちませんの……」
ようやくナック殿下がジュラー侯爵邸から帰るのを見届けると、私は肩を落としておりましたの。
あんなムニムニ攻撃を毎日のように受けるだなんて、想像するだけで恐ろしいですの。今度こそ窒息してしまうこと間違いなしですの。
『アクヤクレイジョウ』になっても殿下に見限っていただけないとしたら、私、一体どうしたらいいのでしょう?
このまま好きでもない殿下に溺愛され続け、結婚するだなんて……絶対に嫌ですの。それにあんなガチムチでは夜の営みも凄まじいでしょう。それに私ごときが耐えられるとは思いませんの。
「迅速かつ確実に、婚約破棄をされなければいけませんのに」
結婚するまではあとたったの半年。ぐずぐずしている暇はありません。
この問題は自分一人の手に負えるものではないと悟った私は、諦めて友人の力に頼ることにいたしましたの。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「ご婚約、おめでとうございます。まさかナタリア様がご婚約なさるとは思いもよりませんでしたわ」
「おめでとうございます。ナタリアにも春が来たんですね」
「おめでとう! 良かったね、ナタリア」
「ご婚約心よりお祝い申し上げますわ。お相手はどなたなんです?」
「ナタリア嬢、おめでとうございます」
翌日、不躾であることは承知の上で、私は侯爵邸へ友人たちをお茶会に招待いたしましたの。
もちろん私の装いは『アクヤクレイジョウ』スタイルではなく、いつも通りの淑女らしきものにしております。
――お招きしたのは五人のご令嬢。
筆頭公爵家であるタレンティド家のご令嬢にして、まもなく王太子殿下とご結婚なさると噂のセルロッティ・タレンティド様。
古くから付き合いがある伯爵令嬢のアリス・ロリータ様。
私の従姉妹のジュリエラ・アンディス子爵令嬢。
学生時代に友人となったメリ・ポルルク伯爵令嬢とミランダ・セデルー公爵令嬢。
私が婚約してから皆さんと会うのが初めてのおかげで、顔を合わせるなり次々と祝福の言葉を贈られてしまいましたの。
さすがは貴族令嬢、公には発表されていない私の婚約をすでに皆さんご存知の様子。ただしその相手はまだ掴めていないようですが。
そしてこの中で一番めざといミランダ様は、早速私の顔色に気がついたようで、お優しいことに心配をしてくださいましたの。
「……ですがそれにしては浮かない顔をしていらっしゃいますが、どうしたんです? もしや何かお困りごとでもございますか?」
「ミランダ様、その通りなんですの。実は、私の婚約相手は隣国リペット帝国のナック皇太子殿下ですの」
私が答えると、皆さんがわかりやすく驚いたお顔をなさいましたの。
「もちろん、この婚約がとても光栄でこんなお話をいただけただけでも幸運であると理解しておりますの。しかしなんといいますか、その、行き遅れの私にはあまりにも見合わぬ婚約で、困惑しているところですの」
「どうりで……。あの男、またやらかしましたのねっ!」
私の話を受けて真っ先に怒りの声を上げたのは、セルロッティ様ですの。
彼女は私と違ってとても似合っている金髪縦ロールをぶんぶん揺すり、苦々しげなご様子でした。
「また、とは一体どういう意味ですの?」
私が尋ねると、セルロッティ様はこんなことをお話しくださいましたの。
「アタクシ、帝国へ赴いた時にナック殿下とお会いしたことがあるのですわ。その時、あの男ったら信じられないことに聖女のヒジリを婚約者にしようとしたんですのよっ。彼女を脅して無理矢理! 今思い出しても許せませんわ、まったく。
それだけではありませんわ。言葉遣いがぞんざいで上から目線のくせに臆病ですぐに逃げ出す、殿方としても皇太子としても最低なお方なのですわ!」
「まあ、それは本当ですか、タレンティド嬢!? そんな奴がナタリアの婚約者ですって! 冗談じゃない!」
「聖女様が……。皇太子殿下、酷すぎです」
「皆さん落ち着いてくださいませ。いくらクズとはいえ隣国の皇太子殿下をあの男呼ばわりなどと!」
「クズと言っている時点で同罪ですよ、ポルルク伯爵令嬢」
令嬢たちが一気に騒ぎ出します。私もセルロッティ様のお話に目を丸くするしかありませんでしたの。
聖女のヒジリ様は私の友人。ですからヒジリ様にナック殿下が一度婚約を迫っていたなどと聞かされてしまっては、許せるはずもございません。
私の中であの脳筋殿下の印象が、さらに悪くなった瞬間ですの。
「私、ナック殿下にこの婚約を破棄していただきたいと思っていましたの。今のお話で決心がつきましたの。皆さん、一緒に考えてはいただけませんか、ナック殿下にひどい失恋の味を味わせて差し上げる方法を」
私の言葉に否を唱える者は、もはや誰もおりませんでしたの。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
目標は、あの脳筋殿下をぎゃふんと言わせた上で、向こう側から婚約破棄をさせること。
そのために六人で力を合わせることを約束し、私たちは早速作戦を練り始めましたんですの。
面白い! 続きを読みたい! など思っていただけましたら、ブックマークや評価をしてくださると作者がとっても喜びます。
ご意見ご感想、お待ちしております!